ブラックメタルには足を向けて眠れません

a-ha、ヘタリア、と続き「足を向けて眠れません」シリーズのお次は「ブラックメタル」。ノルウェー語では、Svartmetallです。

「どんな人がノルウェー語なんて、習いに来るんですか?」という質問で、一番、ノルウェー人の反応がいいのが「ブラックメタルのファンの方です」という答え。
実は、ノルウェー国営放送(NRK)制作の番組で、ローマ大学でノルウェー語を勉強している学生たちを特集したことがありました。
全身黒ずくめファッションで決めたブラックメタラーたちで、でも習っているノルウェー語は、
Jeg liker fisk.(私は魚が好きです)
という牧歌的なもので、そのギャップに笑いました。
以前、このテーマでエッセイを書いているので、ご興味のある方はこちらからどうぞ。

「ブラックメタルが好きでノルウェー語を習いたいです」という動機の生徒さんは、比較的、早い時期からいらっしゃいました。
同じクラスの他の生徒さんたちは「?」という反応で、私は「ブラックメタル」という言葉は知っていても、あまり深い知識はありませんでした。
そのブラックメタル好きな生徒さん=Wさんは親切にも、「啓蒙活動」をしてくれました。
何度か、代表的なブラックメタルのCDを持ってきてくれて、レッスンでかけた時もありましたね~。デス声と激しい演奏に、「う~む」と黙り込む一同。
また、Wさんは、「ブラックメタラーたちは、教会を放火したり、仲間を殺したりしたエピソードもあるんです。」とヒストリーを教えてくれて、「あ!」と私は思い当たりました。

ノルウェー語を習い始めた94年。
ノルウェー人学生の夫婦とお話ししていた時、「教会に放火したり、とんでもなく悪い人がいるのよ」と話に出たことがあるのです。
なるほど~、その「とんでもなく悪い人」が、ブラックメタラーだったんだ~と、点と線がつながりました。

Wさんの影響もあり、私はYoutubeでノルウェーのブラックメタルのPVを、試しに見てみました。
例えば、こんなのとか。Immortalというバンドです。

https://www.youtube.com/watch?v=sOOebk_dKFo

こうしたPVをいくつかみて、また「あ!」と私は思い当たりました。
1997年夏、オスロ大学のサマースクールに参加したのですが、その時のノルウェー人の先生が、全身黒ずくめだったのです。
女性だったのですが、長い髪は黒、夏なのにレザーをあしらった全身黒ずくめの洋服、そしてメイク!特にアイメイクはまるで、エジプトのスフィンクスのよう。
最初に彼女と対面したクラスメートたちは、度胆を抜かれてて、「Satanist!」(サタニスト)と休憩時間に言い合ったのですが、先生自身は非常に穏やかで優しい方でした。

そうなんです。
ブラックメタルが動機で、うちに来る生徒さんたちも、皆さん、「悪魔や地獄、反キリスト」をモットーとするあのジャンルとは違い、素直でいい方ばかり。
誰もうちに放火なんかしません・・・(って当たり前?)。

今、ブラックメタラーの生徒さんが、ライブを見るためにノルウェーやそのほか北欧、ドイツを周っています。
彼女は大物バンドのメンバーとも仲良しで、1月に来日したMayhem(メイヘム)は、わざわざ生徒さんの誕生日に合わせてライブを行ってくれたとか。
素顔のブラックメタラーは、いい人たちで、過去の悪行(教会放火や殺人など)は「いや~、今となっては恥ずかしいね~」というスタンスみたいです。

ノルウェーという国も、ブラックメタルは主要な「文化」ととらえている節があるような印象があります。
国王の前で演奏したバンドもいますし、海外へ赴任する外交官たちに「ブラックメタル研修」を行ったというニュースを読んだ記憶があります。

いずれにしても、ブラックメタルを通じ、ノルウェーに興味を持ち、果てはノルウェー語まで習いに来て下さる生徒さんたちに感謝です!

Mayhem

CC by-sa Cecil, from Wikimedia Commons

とはいえ・・・
何度か生徒さんに「センセイもライブ行きませんか?」と誘われても、「ムリです・・・」と断ってしまう私はまだまだ振り切れてませんね。
ノルウェー伝道師として、場違い全開で、いつかはライブを体感したいと思いま~す。