昨年12月のサロンで、参加者の方とお話しが弾んだのですが、「うちの学校でお話ししませんか?」と思いもかけぬ依頼をいただきました。
詳しくうかがうと、その方は高校の先生。そして高校の現役保護者やOG保護者の方々が読書会を催しているそうです。「はい」とその時は気軽に答えましたが・・・。
そして4月8日。記録的な寒さ(オスロよりも寒い!)の中、京急に揺られて、横浜まで向かいます。
横浜市立南高校は、高台にありました。
とても広い校舎とグラウンド。中学と併合され今では中高一貫校になっているそうです。名物の桜が見られて感激♪
「南高校母親の読書会」というグループの皆さんは、学校の中とは思えない落ち着いた和室に集まっています。
その日のテーマは「北欧ノルウェーの絵本と児童文学、福祉制度について~高齢者介護を中心に~」でした。
最初、「ノルウェーの福祉」とご提案をいただき、「具体的にどんなテーマがいいですか?」とお尋ねしたところ、「介護問題が切実です」ということでこのテーマを選んだ次第です。
居心地のいい和室で、30代~80代の方までの女性たちが集まっていました。こじんまりとした会で、話しやすい!と思いました。
プロジェクターは使えないので、タブレットで関連する写真を見せながら話しをするスタイルで進めていきます。
1部の「児童文学や絵本」の紹介では、切っても切り離せない民話との関係、そしてトロール!『3びきのやぎのがらがらどん』の原作は実は、ノルウェーの民話なんですよ~と実際の本を見せながら説明します。
さらに、私が出版に関わった『パパと怒り鬼』(Sinna Mann)の出会いと出版に至るまでの困難な経緯をお話ししました。
現物をお見せすると、DVというテーマを絵本で描かれたことに驚かれた様子。イラストも迫力があります。
グロー・ダーレさんの素晴らしさを伝えたくて、他にも未訳の『いい子』(Snill)をご紹介しました。お行儀が良く、身ぎれいにして、いつもいい子のルッシ。グロー・ダーレさんいわく、「どんなクラスにも一人か二人いる”いい子」は、その手のかからなさから、両親からも先生からも忘れがちです。物語は意外な展開を見せますが・・・。
みなさん、「いい子」の存在については「思い当たる」といった感じの反応だったので、日本でも同じテーマはあるのだな~と感じました。(グロー・ダーレさんについてはこちらからも読めます。ちょっとスクロールしてくださいね)
質問タイムを挟んだのですが、「もう30年くらい前にノルウェーに行ったことがある」と80歳の女性が、面白いエピソードを教えて下さいました。
ナショナルギャラリーが修繕中で、なんとムンクの『叫び』が床に置かれていて、びっくりしたそうです!
笑いが上がりましたが、「それ、すごくありがちです!!」と反応する私・・・。こうしたお話しって、貴重ですよね~。
第2部の「高齢者介護」のお話しですが、まずは「ノルウェーの福祉理念」からご説明します。
「福祉国家」とか「福祉」という言葉はご存知でも、具体的な施策はまだまだ知られていない・・・といつも感じます。
高齢者ケアの管轄は自治体であること、ノルウェーでは親子同居は非常に稀なこと、でも仕事帰りや週末、長い休暇などで親子や孫と祖父母の付き合いは、日本よりちゃんとあるかも、と話を進めます。
ノルウェーは欧州10カ国の調査で「祖父母と孫の付き合いが最も密接な国」に選ばれているんです!ご存知でしたか?
ただ、息子や娘が親に会いに行こうという気になるのは、前提として「仕事から家に早く帰れるから」という事実を忘れてはいけません。
16時に仕事が終わる人、21時ころまで働いている人。気持ちのゆとりが圧倒的に違いますよね~。
さらに実際にノルウェーで見学した「老人ホーム」や「高齢者センター」の写真をお見せします。たっぷりとした庭のある老人ホームの写真は、「きれい!」と声が上がりました。
また一人暮らしの高齢者のお宅も、北欧の多くの家がそうであるように「居心地の良さ」が感じられます。
「お金」の話も大事です。
ノルウェーでは、年金受給者年齢が下がっていて、日本とは逆であること、今では62歳で年金をもらいながら働くことも可能になったと説明します。
ノルウェーは「人間開発指数」でトップになりますが、「生活の満足度」調査では、シニア層が満足指数が高いという事実はあまり知られていません。
これは、年金制度も大きく関わっているでしょうね。石油が枯渇した場合に備え、いわゆる「石油基金」で、石油で儲けたお金を乱費せず、地道に貯めている事実をお話しすると、みなさん、「堅実ですね」「日本とは違う」と感想が口々に。
・・・・とノルウェーのいい面ばかりではなく、「マスコミの絶え間ない監視」についても触れました。
ノルウェーの新聞では、よく「こんな可哀想なお年寄りが老人ホームに入れない!」「こんなに進行が進んだがん患者が手術を受けれない!」といった「負」の側面を大きく報道します。それだけ読んでいると、「ノルウェーの福祉って大丈夫?」と心配になるほど。
どんな制度も完璧ではなく、常に「福祉が後退していないか?」と番犬がいることで、「個人の問題」ではなく「選挙の争点」に発展するのです。
こじんまりとした会だったので、みなさんの反応が分かりやすく、質問やコメントもその場で出たりして、こちらもやりがいを感じました。無駄にノルウェーの知識があるんで・・・
「ノルウェーと日本があまりに違うので、ノルウェーみたいになるのは無理じゃないかと思いました」とコメントを頂いたのですが、「こういう国があって、こういう制度でこういう風に人々は暮らしているんですよと事例を知っていただくだけでも、大きな意味があるのでは?」とお答えしました。
ノルウェーだって1日で福祉国家ができたわけではありません。メディアの監視も含め、みんなで格闘して、試行錯誤して、今のような国ができたのです。まだノルウェーだって発展途上ですよね。
最後は、「集合写真を撮りましょう~」となって楽しく集合写真を撮りました!
こうした読書会を継続するのは大変だと思いますが、皆さんの意識の高さ、そして学ぶ心に触れ「好奇心って大事!」と改めて感じます。
お誘いくださった八木先生、そして南高校の母親の読書会のみなさま、ありがとうございました!!