ひとりぼっちの出版社~ノルウェーの絵本を訪ねる旅 3~

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ノルウェーの人口は520万人。当然ですが、出版社の数は少ないです。買収が進み、大手傘下になってしまった出版社が幾つかあります。
「大手が強い」ノルウェーの出版界で異色の「ひとりで切り盛りしている出版社」との出逢いは、2014年の「翻訳セミナー」(NORLA主催)のことでした。

セミナー会場はホテルでした

セミナー会場はホテルでした

その時の様子は「1」に書きましたので、ご参照ください。私が一目惚れした「レトロスキー本」の版元が、このMagikon(マギコン)という会社です。

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Magikonは、社長のSvein Størksen(スヴァイン・ストルクセン)さんが1人で切り盛りしている会社です。
ノルウェーの絵本は、通常、出版社の1つのカテゴリーとして出している場合がほとんどですが、Magikonは絵本を中心にビジュアルにこだわった本を発表しています。
実は、「翻訳セミナー」で出会うまでMagikonのことを知りませんでした。
9月の旅では、ぜひMagikonとスヴァインさんについてもっと知りたくて、会社訪問することにしました。

会社はオスロ中心地から電車で15分くらいのところ。山の上の住宅地にあります。
・・・というか、こちらはSveinさんの自宅兼オフィスなのです!

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イラストレーター・絵本作家のKristin Roskifte(クリスティン・ローシフテ)さんがパートナーで、まだ小さなお子さんが3人。
早速、地下のオフィスにお邪魔しまーす。

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スヴァインさんとのやり取りを抜粋しますね。

-Magikon設立のバックグラウンドについて教えてください。

「僕もクリスティンもずっとフリーランスのイラストレーターでした。15年、フリーランスのイラストレーターをやってきて、大手出版社が出す絵本に満足できなかったのです。絵本はまずテキストがあって、イラストは後まわし。イラストなどビジュアルが重視されていない気がしていました。そこで2007年にMagikonを立ち上げることにしたのです。」

-1人で出版社を運営するって大変だと思うのですが・・・。

「経理以外のことはほぼ全てを担当しています(注:本の発送手続きも社長自ら)。現在まで60冊を出版しました。海外に翻訳された本も、お蔭さまでたくさんあります。最初に出版したクリスティンの本がヒットしたのはラッキーでしたね。」

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-本を出版する上で大事にしていること、やりがいは何でしょうか?

「モットーにしていることは、自分がいいと思う本しか出版しないこと。イラスト、テキストともにクオリティーが高いことは不可欠です。仕事をしていて楽しいのは、イラストレーターと作家の組み合わせを考えること。自分が編集から全て行っているので、イラストレーター、作家と密接にコンタクトできるのは、いいことだと思ってます。そこは大手と違うでしょうね。自分はずっと絵を描き続けたいし、大好きな本を出版できる喜びは言葉にできないです。」

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-「翻訳セミナー」でもエージェントカフェに参加していましたが、海外進出も積極的なのですね。すでに絵本は、欧米圏だけではなく中国や韓国でも出版されてますが。

「はい。たくさんのブックフェアに行って、人との出逢いを大事にしています。欧州以外にも、アメリカ、カナダ、中国や韓国のブックフェアーに行きました。お金を稼ぐためには、お金を使うことが大事ですよ。」(注:スヴァインさんは3月にノルウェー大使館の文学セミナーで登壇予定です。詳細はこちらから。)

・・・とお話や写真撮影をしていると、お子さんたちがクリスティンさんと一緒に帰宅して、一気ににぎやかになりました。
クリスティンさんもイラストレーターですので、離れのアトリエをプチ訪問させていただきます。スヴァインさんは「夕食の支度しなくちゃ~」とキッチンへ。

スヴァインさんのオフィスは地下ですが、クリスティンさんのアトリエは庭にある小さな小屋。中に入ると、おお~と広い仕事スペースが羨ましい!
「子どもが学校や保育園にいった後、私はこの離れのアトリエで、雑念を忘れて仕事に集中できます。」

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アトリエの中には、たくさんのスケッチブック。解説を聞きながら、見せて頂きます。

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その時に取りかかっているプロジェクトのために、スケッチブックは持ち歩たり、たくさんの試作を重ねるそうです。

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他にもいろいろなオブジェが飾られていて、じっくり見ていたら飽きません。

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日本のものをいくつか発見したのですが、「もうずっと前に、日本へ行ったことがあるのよ。日本のシンプルで可愛いなイラストが大好きです。」と教えていただき、ほ~っと驚きます。

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アトリエを後にして、再び本宅へ。3人の子どもたちは、仲良く子ども番組を観ています。

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スヴァインさんは何を作ってくれるのだろう?いい香りが漂っています。ダイニングにサーモン料理が並びましたが、おお、さすがアーティスト!野菜の切り方がおしゃれです!

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子どもたちが「わ~~~!!」と騒いでダイニングに入ってきましたが、ご夫妻が「これからは大人の時間よ!」とドアをばたーんと閉めちゃいました。

絵本やイラストレーターたち、出版社や書店事情などいろいろ興味深いお話しをうかがいました。
本の買い取り制度がなかったら、出版社を作るのは無理だっただろう」とスヴァインさんの言葉が残りました。
この「本の買い取り制度」は、最初のブログで触れたグロー・ダーレさんの講演でも、強調されていたものです。
小国ノルウェーが自国の文化を守るための同制度とは?? そのお話はまたの機会に・・・!

つづく(といいなぁ)