見たこと聞いたこと学んだこと


北欧友の会(事務局は旅行会社ホライゾン)主催の第43回講演会が、1月26日(金)、飯田橋セントラルプラザで行われました。講師は当サイトの発行責任者であるAokiです。会場には、北欧に興味を持つ約30人ほどの人たちが集まり、約1時間半の講演後、質疑応答も活発に行われました。



講演サマリー

1.留学について

●留学の意義
講演の主な内容は、大きく分けて2つ。前半は「留学について」と題し、ノルウェーに留学した経験をもとに、話しを進めました。現在、「留学」はすっかり一般化していますが、留学先は英語圏が圧倒的。非英語圏の北欧、その中でも更にマイナーなノルウェーを留学先に選ぶ人は少数派でしょう。
ノルウェー人からもよく発せられた「どうして、ノルウェーに留学するのか?」という問いの根底には「ノルウェー語を勉強して、モトが取れるのか」という響きが感じられました。確かに、日本でノルウェー語を使える仕事を見つけるのは難しいですが、自分なりに考える「ノルウェー留学の意義」について触れてみましょう。

まず、「ある国についてとことん知ろうとする面白さ」が挙げられます。ノルウェーと日本の2国間はいわば「情報不均衡」状態と言えます。ノルウェーでは、良きにつけ悪しきにつけ「日本」に関する報道を度々見かけましたが、日本では、「ノルウェー」という国自体、人々の意識にも上っていないのが現状です。
そうした状況を少しでも改善しようと、昨年末、ノルウェーに関する情報提供を主としたホームページを開設しました。これからも、「未知の国」ノルウェーを多角的に紹介していきたいです。

また、私はノルウェー語→日本語翻訳の仕事をしていますが、まだ英語にも翻訳されていない貴重なノルウェー語の資料や本を読み、人々に紹介したり、専門家の方々へ橋渡し的な役割を果たすことができると思います。フェミックス社発行の雑誌「We」の1月号で、ノルウェーの男女平等センターで入手したジェンダー教育や女性問題に関するノルウェー語の資料を紹介する原稿を発表ましたが、今後も同誌にはノルウェー語の資料を紹介する原稿を発表する予定。
翻訳の他、ノルウェー語を教える仕事もしていますが、いろいろな目的を持った人々に出会い、自分の方が勉強になることもしばしばです。「ノルウェー語を教える」ことは、ただ、語学を教えるだけでなく、留学生活で得た知識や経験を生徒たちにフィードバックすることも大事に思います。

●地方と都会の留学−4年の時間差
地方の短期大学(ヴォルダカレッジ)と都会のオスロ大学で、それぞれ1年間の留学を経験しました。地方の留学生活と都会の留学生活は、4年という時間差も加わって、違いを感じることが度々でした。学生の服装、アルバイトの有無、寮生活のあり方など対照的でした。
一方、類似点として、「学生の多様性」が挙げられます。学生の年齢層は広く、オスロ大学では、50歳以上の学生は千人もいます。子供を持つ学生や職員のため、大学には保育園があったので、キャンパスには、本来、大学にそぐわない「赤ちゃん、子供、お年寄り、犬」などが、目につきました。

●キャンパスから見えるもの
一番最近の留学は、99年から翌年までのオスロ大学でしたが、そこで印象に残ったものは様々です。大学では週1回、大学新聞が発行されていましたが、充実した紙面で、愛読する学生は多かったです。私もその1人でしたが、この新聞を通じて、「大学は、社会の一部である」というごく当たり前の事実を改めて認識できた。大学予算削減に伴うシビアな大学の現状や学生への影響などが度々取り上げられ、大学が「象牙の塔」として社会から孤立した機関ではないこと、学生たちにとっても深刻な問題であることを自覚させる役目を果たしていた。
また、「高齢学生特集」「年収の多い教授ランキング」「トイレの落書き傑作集」などといった楽しい記事も紙面を埋め、学生記者のユニークな視点に感心することしきり。
その他、同性愛グループや女性団体、反人種差別グループといった学生のグループ活動、人気・不人気学科の傾向と原因、少ない講義時間と学生たちの自主性などを取り上げました。


2.ノルウェーの動き

●メディア考
最初に留学した時は、新聞もテレビのニュースも理解不能でしたが、最近の留学では、新聞やテレビ番組を楽しめるようになりました。ノルウェーは国内ニュースが少ないため、1)国際ニュースが充実、2)いわゆる事件ネタ以外の話題が記事になりやすい、3)メディアに取り上げられるのが、比較的容易である、といった特徴があると思います。
また、メディア相互の引用が多いことも、ユニークに感じました(例:ある新聞記事に対してテレビニュースが、「○○新聞の報道によると..」とそのまま引用できてしまうこと)。

帰国前にアフテンポステン社を見学し、アジアの特派員経験がある記者と会い、編集作業の流れ、スタッフの内訳、記者のシフトと休暇制度など、興味深い話を聞くことができました。

●注目を浴びた出来事や人物
滞在中の大きな出来事として、労働党新政権誕生が挙げられます。
その他、近年ノルウェーで散見される「物質主義」の象徴と言える億万長者ルッケ氏について、またオスロ市内で多く見られる建設ラッシュなどにも言及しました。以前は、労働者の住む貧しい地区だった所が、トレンディーな地区に生まれ変わり、昔では考えられないような価格で不動産売買されている様子は、しばしば報道されていましたが、街を歩いている時も、まるで日本のバブル期を彷彿する光景を目にすることもしばしばでした。

こうした変化は従来からあったノルウェーの「素朴、質素」といったイメージを裏切るものですが、変化は必然的なものでしょう。最近の変化を「ノルウェー的でない」と無視しないで、変化の背景や原因を考えることに興味を覚えます。

「留学」は、勉強はもちろん、そこの国で暮らすことを意味します。たとえ、短期間でも社会の動きや街の様子などを観察し、断片的な知識として集積すれば、別の機会で役立つこともあり得るでしょう。
例えば、現代作家の小説を読む際、テキスト解読には辞書以外の知識も必要とされることが多いのです。また、こうした社会や街の観察する際、ノルウェー語の知識が大きな助けとなったのは言うまでもありません。


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