ノルウェーについて学ぶサロン・講座レポート 第67回「ノルウェー・ブックレビュー」 〜ノンフィクションに描かれた7.22の悲劇と希望〜 |
開講日時: 2014年4月19日(土) 13:00〜15:00 参加者数: 15名 ●テーマ紹介文 ノルウェーの本が日本で翻訳・紹介される機会は少ないですが、青木順子が「これは紹介したい!」という本に出会いました。 タイトルは「En norsk tragedie」(「ノルウェーの悲劇」、Gyldendal社、2012年)。作者は著名なジャーナリストのオーゲ・ストーム・ボルクグレヴィンク(Aage Storm Borchgrevink)です。 皆さまは、2011年7月22日にノルウェーで起きた大規模テロを覚えていますか? 本書は、その実行犯ブレイヴィークの実像に迫るノンフィクションで、2012年の「批評家賞」を受賞しました。 事件後にノルウェーで出版された数多くのテロ関連の本の中でも、ベストの呼び名が高い本です。 7.22のテロは平和な小国ノルウェーで、たった1人の人間が77名も殺害するという信じがたい事件で、世界的な注目を集めました。もちろん、日本でも報道されましたが、彼が一体なぜこのような犯行に至ったのか、詳細までは知られていないと思います。 ブレイヴィークは、単なる「モンスター」なのでしょうか? 事件は現代ノルウェーのどのような社会背景の中で起きたのでしょうか? 「ノルウェーの悲劇」で明らかになった以下の点を中心にご紹介します。 ・ブレイヴィークの複雑な生い立ち ・移民の増加とオスロの変化 ・ブレイヴィークの実生活〜挫折、ネットとゲーム依存、歪んだ自己愛〜 ・2011年7月22日、その日、何が起きたのか? ・テロ後の首相、国民の反応〜憎しみではなく寛容を〜 本書は360ページの大作です。青木はコペンハーゲンから成田便の機上で一気に読み切りました。 ぜひ皆さまとこの「刺激的な読書体験」を共有したいと願っています! ノルウェー語ワンポイントレッスンは「本の内容を尋ねる」です。 ●講師 青木順子(ノルウェー語翻訳・講師 ノルウェー夢ネット代表) ●講演内容 En norsk tragedie〜ノルウェーの悲劇〜/2011年7月22日のテロ〜実際、何が起きたのか?〜/ブレイヴィークについて/本の構成/行政区とウトヤ島の位置/ブレイヴィークの生い立ち・幼少期/ブレイヴィークの生い立ち・学童期/ブレイヴィーク=モルグ時代/ネットとゲームの世界へ/「マニフェスト」(英語)作成/テロ実行の準備/7.22のブレイヴィークの行動/7.22ウトヤ島で何が起きたか?/AUFメンバーの行動/警察とマスコミの動き/テロ後の反応/テロ後のノルウェー〜希望〜 ●ノルウェー語レッスン 本の内容を尋ねる〜 Å spørre om innholdet av boken ●付録 新規参加の方には・・・語学資料「ノルウェー語とは」、Style NORWAY12 その他 大使館やフィンツアー提供の資料 |
●主催者後記 主催者の特権で、ずっとプレゼンをさぼっていました・・・。ということで、久しぶりにサロンでお話しをすることにしたのは、やはり「この本は絶対に、日本で紹介したい!」と強い思いに駆られたからです。 3年前のウトヤ島のテロは、事件の規模と実行犯ブレイヴィークの特異性が、日本でも報道されました。「移民排斥」が犯行原因で、犯人のブレイヴィークは「異常者」という印象だけが強く残り、もちろんそれらは真実の一部ですが、事件の深い真相はきちんと伝えられていなかったと思います。 サロンで紹介した「ノルウェーの悲劇」(オーゲ・ストーム・ボルクグレヴィング著、2012年)は、ブレイヴィークの生い立ちを丹念に追い、母と子のゆがんだ関係に注目しています。 母によるブレイヴィークへの幼少期の虐待と、それに対し、80年代初頭のノルウェーの児童福祉では守りきれなかった限界は、私も本書を通じて初めて知った事実でした。 また、一見、平和なオスロが東と西で、パキスタン系移民のギャング団とノルウェー人極右グループの対立していた事実も、漠然とは知っていました。ですが、こうした体験からブレイヴィークが強烈に影響を受けたことも、本書で知ることができたことです。 ブレイヴィークは野心家かつ自己顕示欲が強かったのですが、実生活では挫折の連続でした。ネットやゲームの世界に、ようやく自分の居場所を見つけたという人間の存在は、日本も含め、他の国でも見られる現象ではないでしょうか? まさに「ノルウェーの悲劇」というタイトルがぴったりの様々な「悲劇」が、幾重にも重なって、2011年7月22日の惨劇が起こります。 ノルウェーでは、「7月22日委員会」を設立し、警察や行政へ様々な批判を報告書に盛り込み、厳しい自己検証を行いました。これは容易なことではありません。 余談ですが、ブレイヴィークの裁判が、裁判官を含めた関係者が夏休みを7月に取れるように、6月中に急いで終わらせたエピソードをお話ししました。 参加者の皆さんは、かなり驚かれて笑いが起きました。やはりノルウェー人の「夏休みへの執念」は、笑いにまでなってしまうのですね。 さて、今回のサロンはテーマが重すぎて、正直、お申し込みが全然なかったらどうしよう?と心配でした。 ですが、刑事政策や精神心理学が専門の方なども参加して下さり、プレゼン後に興味深い質問やコメントをいただき、私自身が勉強になりました。 気づけば30分も時間オーバーとなり、「白熱三田教室!」の様相(←言い過ぎ)に感じました〜。 「ノルウェーの悲劇」は、上質な「北欧ミステリ」とも比較できる1冊です。一見、何もかも優れているように見える福祉国家の暗部に焦点を当て、悲劇と惨劇が起こり、そして告発こそが社会をより良くできると作家は信じている点などが、「北欧ミステリ」と本書の共通点ではないでしょうか。 一気に370ページを読ませてしまう本の持つ熱量も、「すごい!」の一言です。 事件の衝撃は非常に大きく、ノルウェーでもいまだに報道は続いています。 これからも機会があれば、本書の紹介ならびに事件の続報を日本で情報発信したいと願っています。 (Aoki) ほっこりかわいい北欧がブームになる中で、今回のノンフィクション本の紹介は主催者としてのチャレンジでした。 これまで、ノルウェーのいいところをたくさん知ってもらいたい、との思いで続けてきた私たちでしたので、このテロ事件を取り上げることで、ノルウェーを怖い国と思われちゃったらどうしよう・・・そんな不安がありました。 それでも、開催にいたったのは、事件後のノルウェーを見てきて、世論の動きや判決までのスピード、透明性のある自己検証等々、私自身が「ノルウェーってやっぱり凄い。」と思わされることがたくさんあってますます好きな国になったこと、これは避けずに正面からお伝えしたい、と感じたからです。 そんな私たちの思いが通じてか、今回ご参加くださった方々は、とても熱心に興味を持って話を聞いてくださって、主催者冥利に尽きます。特に、知らず知らずのうちに延びてしまった(主催者としてはお詫び申し上げます!)ディスカッションタイムでは、日本社会と比較しながら、あらゆる価値観の相違を改めて感じることとなりました。 いろいろな意味で、やっぱり「ノルウェー人って凄い。」奥が深いです! 最後に、会場に赤いチェックのハンドタオルをお忘れになった方へ。 私がお預かりしていますので次回、ご参加される機会があればひとこと、お声かけくださいね♪ (Yoko) ★「ノルウェーの悲劇」はブックレビューのコーナー内でも取り上げています。 |
←第66回 第68回→ 参加者募集ページへ |