早いもので最終日。
最終日の楽しみは、何と言っても、グロー・ダーレとヘレーネ・ウーリの講演会。
朝食後、分科会の講演会会場へいそいそと向かう。
グロー・ダーレのルックスは、ふしぎちゃん。 もう「中年」と呼ばれる年齢だと思うが、少女っぽいツインテールが妙に似合っている。児童文学をやっているだけのことはある?パートナーのスヴァイン・ニーフースも、会場の中を積極的に動いて、プレゼンをよりよく見せる方法を考えているようだった。 |
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2人のプレゼンが始まる。 まるで息のあった夫婦漫才のように、互いに自己紹介をして、自作をスクリーンに映していく。 たくさんある2人の共同作品の中で、「Sinna Mann」(怒る男)をピックアップした。 児童文学ってかわいいだけのものではない。ドメスティック・バイオレンスを題材にしたのが本書だ。いつもは優しいパパが急に、人が変わったように「怒る男」に変身していく様が、繊細な男の子の目を通じて描かれた作品。 「パパが怒るのは僕のせい?」と自分を責めて、誰にも何も言えない男の子が最後に取った手段とは・・・。 |
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本書のイラストも文章も素晴らしかった。 たくさんの暗喩とニュアンスに満ちて、ぐいぐいと物語の世界にひきこまれていく。 楽しい時がそうであるように、2人のプレゼンはあっという間に終わってしまった。 |
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「Sinna Mann」を含めグロー・ダーレのファンである私は、思い切って作家に話しかけに行く。 人懐っこい彼女は、「じゃあこの本をあげる」と言って、そしてとてもユニークなサインをしてくれた。 飛び上がるくらい嬉しかった! そして、どんな形でもこの本を日本で紹介しようと誓った。 |
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さて次は、ヘレーネ・ウーリの講演会。 ノルウェー語の最近の変化、若者言葉をテーマにした内容は、ノルウェー語のエキスパートの彼女にとってはお手のもの。彼女は、以前、オスロ大学で教鞭をとっていたが、辞職。それから大学というアカデミックな場を痛烈に皮肉った小説を発表。その後、積極的に新聞やテレビなどメディアに露出している人気者だ。 現在では死語になってしまったノルウェー語の例や、意味が変わってしまった表現、若者独特の発音など分かりやすい話で、これまた時間の経つのが早く感じられた。 |
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分科会の講演終了後、最後のランチ。 そして、みんな講堂に集まった。Ginaをはじめ、Norlaのスタッフの挨拶が続く。私たちは、この素晴らしいセミナーを企画・開催してくれたNorlaに感謝の気持ちでいっぱいだった。花束を贈り、そして会場いっぱいの拍手。 |
翻訳者という地味な黒子役に、ここまで心づくしのセミナーを開催してくれて、本当にありがとう。 実績のない私だが、これからもノルウェーという国の文学を紹介できれば、と強く心に思った。 帰国後、私は早速、「Sinna Mann」の試訳を作ってみた。 詩的な表現が多く、難しい。テキストと格闘する。 「私の出会ったノルウェー」(ドメス出版)という素晴らしい本を書かれた中田慶子さんが、今、長崎でDVに取り組む運動をしている。彼女にこの絵本と試訳を送ったところ、興味を持ってくれた。まだ先のことは分からないが、私も中田さんも、この本を何とか大勢の人の目に触れるよう活動を続けていきたい。 正直、私はノルウェーに行く前、無気力な日々を過ごしていた。何となくやる気が出ず、最低限の仕事しかこなそうとしない日々。 でも「翻訳者セミナー」でいろいろな国で活躍している翻訳者に会い、大いに刺激を受けた。 根が怠惰な私だから、この熱意もいつまで続くか分からないけど、でも私にできることをこれからも探し続けていきたい。 拙い文章でしたが、最後までお付き合いありがとうございました。 |