『アルネ&カルロスのクリスマスボール』出版!

Arne&Carlos(アルネ&カルロス)の名前を知ったのは、この本がきっかけでした。
アルネ&カルロスのクリスマスボール(日本ヴォーグ社、朝田千恵訳)の邦訳出版は、Hurra!ばんざーいという気分です!
もうすでに彼らのファンの方、編み物好きな方だけではなく、ノルウェーや北欧のクリスマスや伝統に興味がある方には最適な本ではないか?とページをめくりながら思いました。
早速、極私的ツボをつづりたいと思いまーす。

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『アルネ&カルロスのクリスマスボール』の全体に流れているのは「クリスマス前のワクワク感」。
現代のクリスマス=Jul(ユール)は、10月からイルミネーションが飾られ、たくさんのプレゼントを用意しないとというストレスを覚えるノルウェー人がいるほどです。
でも本書では、まだクリスマスが商業化される前、長く暗い冬の中で生活しながらクリスマスをひたすら楽しみにしているノルウェー人の姿が浮かんできます。
「はじめに」から引用してみましょう。

11月半ば、この辺りがものすごく寒くなり始めると、僕たちは家中あちこちでろうそくを灯します。そしてクリスマス工房の計画を立て、最初の活動を始めます。(略)
クリスマスの計画自体には、僕たちは1年中取り組んでいます。そこには心待ちにする気持ちがあります。子どものころに抱いていた期待、時に大人になった今でさえ感じる待ち遠しい気持ちです
。」(7ページ)

クリスマスストレスに陥っている人には、まるで「福音の声」?

本書では、アルネ&カルロスが55のクリスマスボールのパターンを紹介しています。
興味深いのは、北欧の伝統的なパターンが、別の国でも存在するという事実に触れている箇所です。「まるでパターン自体があちこち旅してまわったかのようにも思えます」(14ページ)という喩えは「民話」と似ている!と思いました。民話は内容が少し違っていても、似たようなものがいろいろな国にありますよね。

55のパターンそれぞれの編み図紹介とともに、そのパターンがなぜ生まれたのかの解説がじっくりされていて、なるほど~と好奇心をそそります。その解説の合間合間に「深い!」と思える言葉がたくさん散りばめられています。長くなりますが以下引用します!

僕たちはいつもノルウェーの伝統的な手工芸にインスピレーションを得てきました。(略)ファッション業界では「最新のもの」がなにより注目されます。でも僕たちはこう思うんです。「最新のもの」を作り出すためには、時代をさかのぼって自分たちの文化や歴史、伝統を学び、そこから伝統的要素を見つけ、現代風に活かさなくてはならない。そうすることで、「最新のもの」を作り出すだけではなく、自分たちの文化的遺産を次の世代に引き継いでもいるんだ、って。」(34ページ)

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ノルウェー人がアルネ&カルロスのクリスマスボールに惹きつけられたのは、まさしく「伝統的なパターン」の要素が強かったのでは?と想像します。レトロな柄、まるでおばあちゃんの家に行った時の思い出のよう。
そうそう、アルネは「おばあちゃん語り」が好きですよね~。ちゃんと本書には「おばあちゃんのクリスマス」が記されています。ああ、こんなプレゼントを当時はもらっていたんだ、こんな風に過ごしていたんだ、と古きノルウェーのクリスマスに思いを馳せることができます。

55のパターンを見ながら、自分はこれが好き!と選ぶのも楽しいです。私のお気に入りは・・・
「スキーヤー」(33ページ)です。ノルウェー人とは切っても切れないスキー。それもクロスカントリースキー。このパターンの解説には、ノルウェーを代表する「愛すべき皮肉屋じいさん」オッド・ブレッツェンの文章が引用されていて、笑っちゃいました。まさに「わかる奴だけわかればいい」の世界・・・。

写真のインパクトもありますが、「クリスマスのぶた」(76~77ページ)も可愛いです!!
ぷっくりと肥えた豚にハートがあしらわれていて、う~ん、欲しいです~♪(←自分では永遠に編めません・・・)

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55のクリスマスボールに添えられているレトロなオブジェや写真もまた見どころです!
アルネ&カルロスは常にインスプレーションを探し、スクラップブックを作っているようですが、それをこんな形に昇華できるセンスは素晴らしいですね。

クリスマスプレゼントにも最適。
編み物ド下手な私でも、うっとりできる1冊です♪
あ、そうそう。ノルウェー語の勉強にもなりました!”Ut på tur, aldri sur”ということわざが本書に書いてあるのですが、今までしっくりくる訳がなかったんです。朝田さんの訳は「外に出れば、気分も爽快・・・・」でした。おお、この訳がどんぴしゃり!まさに気分爽快です♪

P.S.2013年に開催したアルネ&カルロスファンミーティングの様子はこちらからご覧になれます!

レトロでユーモラスな短編アニメーション映画&絵本!

ノルウェー出身でカナダ在住のTorill Kove(トリル・コーヴェ)は、アニメーション監督、絵本作家、イラストレーターです。

彼女のアニメーション作品を始めてみたのは、NHKで放送されていた時です。タイトルは、『わたしのおばあちゃんは王様のシャツにアイロンをかけた』(Min bestemor strøk kongens skjørter、2000年)。この映画はアカデミー賞最優秀短編アニメーション映画部門にノミネートされました。オリジナルあふれるストーリー、飄々としてユーモラスの語り口とスタイリッシュな画風。作風は一度見たら忘れられないです。以来、Torill Koveの作品は気になる存在となりました~。

Torill Koveがついにアカデミー賞を手にしたのは『デンマークの詩人』(Den danske dikteren、2007年)です。ノルウェーが誇るノーベル文学賞作家シグリ・ウンセットをモチーフに使った作品は、実は絵本にもなっています。絵本から読んだのですが、オリジナルティー溢れる見事な作品です(絵本を取り上げたブログはこちらから)。

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・・・前置きが長くなりましたが、Torill Koveが昨年のアカデミー賞最優秀短編アニメーション映画部門にノミネートされた作品は、『モールトンとわたし』(Moulton og meg、2014年)です。みなさんは「モールトン」と聞いてピンときますか? (ピンとこなかったワタシ・・・)
実は「モールトン自転車」というと、マニア垂涎の高級自転車なのです。モデルはユニークですよ!参考リンクを貼りますね~。

今回も絵本から入りました。主人公は3姉妹の真ん中の「わたし」。7歳の女の子です。時代は1960年代、ノルウェーの小さな町が舞台です。
「わたし」の語りで物語は進むのですが、彼女の悩みを読んでいると「子どもの時には、あんな些細なことをどうして気にしていたのだろう?」と懐かしい感じがします。

「わたし」の両親は建築家であり、独特な美意識を持つことから「わたし」の悩みはつきません。
ぜひ映画で確認していただきたいのですが、ダイニングの椅子はデンマークデザインだったり、マリメッコの洋服が登場します。
今の大人の目からすれば「いいな~、おしゃれ」と感じますが、「わたし」にとってはヘンなものでしかありません。60年代のノルウェーでは「先進的」すぎたのですね・・・。

物語は隣に住む「普通の一家」との対比で進みます。「わたし」の親友ベネディクテのお母さんは専業主婦。レースのついたワンピースを買い与え、お父さんはスポーティ。立派な犬もいます(名前もFlink=優秀という意味です。ナンセンの犬から名付けられたようですが・・・)。
それらのこと全ての「普通さ」を「わたし」は「うらやましいな~」と感じてしまいます。
マリメッコの生地でワンピースを縫う母や、町でただ一人、口髭を生やしている父とついつい比較し、ついにはお腹が痛くなってしまいます・・・。

ところで「モールトン自転車」。
3姉妹はみんなが乗っているような「普通の自転車」を欲しがっています。
そして父は自転車をイギリスから注文するのですが、この自転車こそが「モールトン自転車」でした。
前述したように「マニア垂涎の自転車」ですが、7歳の「わたし」にとっては「へんてこりんな自転車」にしか映りません。
でもラストシーンは、ほんのり明るいハッピーエンドです。

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実はとっても深いテーマを、Torill Koveはいつもの軽妙な語り口とスタイリッシュなイラストで描くことに成功した作品だと思います。
ノルウェー人の映画&絵本レビューを読むと、「レトロ」「ノスタルジック」という文字が目立ちます。
ファッションや風俗からもそれはうかがえますし、専業主婦が当たり前だった時代・・・まさに今のノルウェー人からすれば「懐かしい」な作品なのだなぁと納得しました。

こんなにあらすじを書いてしまいましたが、下のURLからぜひ映画をご堪能ください!。英語なので大丈夫ですよ~(多分・・・)。
この短編アニメーション映画はぜひ日本でも上映してほしいです!!トーキョーノーザンライツさん!短編映画祭さん!よろしくお願いしまーす!!

https://www.youtube.com/watch?v=G9zRYJb34sM

追伸:Torill Koveがイラストレーターとして手がけた絵本、Johannes Jensenも大のお気に入りです!サイトで紹介したページがあるので、ぜひご覧くださいね~。