ノルウェーの刑務所~ネットショップ有り〼~

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』という邦題がトレビアンな映画を観ました~。
マイケル・ムーアの肥満率が気になる映画でしたが、テーマはマイケル・ムーアがいろいろな国の優れたアィデアや制度をアメリカに持ち帰ろう、というもの。
イタリア、フランス、ドイツ、スロヴェニア、ポルトガル、チュニジア・・・
そして北欧からはノルウェー、フィンランド、アイスランドにマイケル・ムーアが訪れます。

20160602-1

ノルウェーで彼が選んだもの。それは「刑務所」でした。
「ここはリゾート地か??」と見まがう美しい景観のコテージ作りの刑務所はなんと「バストイ刑務所」。
この名前でピンと来た方はかなりのノルウェー通ですね~。
ノルウェー映画『孤島の王』では、20世紀初頭のバストイ刑務所の過酷さ・残酷さを描いた秀作で、なぜか私はトークショーに登壇した思い出深い映画です。

20160602-2

あのバストイが今はこんな牧歌的な刑務所になって信じられませーん!!
ちなみに現在の刑務所の様子はこちらの公式サイトから覗けます⇒http://www.bastoyfengsel.no/

マイケル・ムーアは「ただここは模範囚の刑務所。それだけ見るのはフェアじゃないので、もっと重罪の囚人がいる刑務所に向かおう」と「ハルデン刑務所」を訪れます。
確かにバストイよりは「刑務所っぽい」と思うかもしれませんが、それでもシャワー・トイレ付の個室、ゆったりとしたソファーのある面会スペース。
自分たちで音楽を録音できるスタジオも映っていました。暴力的なラップを録音中で笑ってしまいました。殺人罪の囚人の背後にキッチンのナイフが無造作に置かれているのもすごい!看守たちは拳銃などを付けていません。

帰宅後、ハルデン刑務所の公式サイトを覗いたら、さらに「ひ~」と驚いてしましました!
まずはこれがトップページです~。

20160602-3

にこにこ笑っている男女の警官の写真。つい「入っちゃおうかな~」と誘惑されそうです。
Youtubeの画像が貼ってあって、中で働く警察官のミュージックビデオがUPされてます・・・。

上のメニュー画面を見て???となったのはnettbutikkの文字。「ネットショップ」の意味です。
「刑務所でネットブショップとはこれいかに?」とクリックしてみました~。
例えばこのページをご覧ください⇒http://nettbutikk.haldenfengsel.no/main.aspx?page=articlelist&gid=501&gidlevel=1
囚人たちが作った製品をネット販売している!と気づいた時には「ノルウェー人、やっぱり侮れないわ」と思いましたね。効率的です。

ノルウェーが囚人たちに快適な刑務所を提供しているのは、別にお金が有り余っているからではありません。
以前、NHKでノルウェーの刑務所を特集した番組があったのですが「何よりも再犯防止に力を入れている」と当局側がコメントしていました。
収監中に家族の元へ一時帰宅を許可したりすることは「社会とのつながりを遮断すると、再犯率が高まる」との分析で「ふ~む」と感心した覚えがあります。
現にバストイ刑務所では、NAV(ハローワーク)と連携し、労働マーケットに応じた職業訓練を行っているようです。刑期を終えた囚人たちの再就職ができるか・できないかで再犯率は変わってきますよね。

映画では、2011年7月22日の大量テロ犠牲者の父親がマイケル・ムーアのインタビューに答えていました。そう、ブレイヴィークが実行犯のあの連続テロです。
「あんなクソに復讐したくはないのか?」
「いや、彼のレベルに下がって”俺にはお前たちを殺す権利がある”なんて言いたくない」と断言していた姿が印象的です。

ノルウェーの刑務所を観たり、サイトを覗いたりして「あ、そういうことか」と納得したことがあります。
それはブレイヴィークが「自分の独房拘留状態がEU人権憲章に違反し、非人道的である」と昨年7月、国を相手に裁判を起こした一件。
確かに彼はノルウェーの刑務所で言えば「最高レベルの独房」状態です。
とはいえ、使える部屋はトレーニングルームを含む3部屋。さらに外気に触れる専用のエアー空間(55平方メートル)があります。
こちらの記事に彼の独房とエアー空間の写真が載っていますので、ご参照ください。

ニュースで知った時は「また変なことしている~」と呆れました。
ですが、ノルウェーの刑務所基準でいえば「これでも不満なんだ」と映画を観て、やや納得しました。

裁判は、4月に結審しました。
オスロ裁判所は彼の主張を一部認め「5年にわたる独房状態は非人道的であり、拘留環境を変えるべし」と判決を下したのです。
この判決は私だけではなくノルウェーの専門家、国際メディア、そして国民も驚きました~!
ニュースを伝える新聞のFacebookのコメント欄には「信じられない」「税金の無駄遣い」「なんてナイーヴな国なんだ」など判決を不服とする内容が殆どでした。

そんな中、印象的な記事をAftenposten紙で見つけました(Aftensposten,2016年4月21日)
ウトヤ島の大量テロの生存者による寄稿です。ちょっと長くなるのですが引用してみましょう。
「非人道的な事件を起こしたからといって、非人道的な扱いをすべきではない。テロリストや過激思想家たちは他者を“虫けら”扱いする。
ノルウェーは民主主義のもと、ブレイヴィークを“人間”として向き合うことにより、テロリストや過激思想家たちに暴力に依らない対抗方法を示すことができるだろう。」

「目には目を、歯には歯を」ではなく、独自の刑務所環境運営を取り入れているノルウェー。
まさにノルウェーらしいさの一端を感じた映画でした!