「白熱広尾教室!」=翻訳ワークショップとは?

「ノルウェー海外文学普及協会」ことNORLAノルウェー大使館が主催で「ノルウェー文学セミナー2016が開催されました!(3月9日、10日)

NORLA代表のMargitさん

NORLA代表のMargitさん

2日間の全プログラムに参加しましたが、とても「濃密な」日程でした。2日間、広尾のノルウェー大使館で行われていたので「広尾の住人になったみたい~」と錯覚を起こすほど(←図々しい)。
ノルウェーのミステリー文学、ノルウェーの児童文学、第三言語からの文学翻訳、そしてレセプションなど多彩なプログラムでした!
中でも非公開で行われた「ノルウェー⇒日本語翻訳ワークショップ」に参加できたことは、とても貴重な体験だったので、その時の様子を綴りたいと思います。
(ワークショップでは写真を撮っている余裕がなかったのでセミナー時の写真をUPします)

リーメスター大使

リーメスタ大使

10日の午前中に行われた「翻訳ワークショップ」は、ノルウェー語だけではなくスカンジナビア語の翻訳者を対象に開催されました。
事前に、ワークショップの指導および司会進行をして下さるAnne Lande Peters(アンネ・ランネ・ペーテーシュ)さんから、課題テキストが送られてきます。
Anneさんは、日本生まれでイプセンの翻訳研究で知られている女性ですが、微笑みを絶やさず優しくてまさに「先生」にぴったり。
課題テキストは、Klaus Hagerup(クラウス・ハーゲルップ)のYA小説のうち数ぺージ、そしてFrode Grytten(フローデ・グリッテン)の短編小説でした。
Frode Grytten?なにか聞き覚えがあるという方、素晴らしい!そうなんです、もうすぐ公開の映画『ハロルドが笑う その日まで』の原案者ですね。ブログをご参照ください

課題テキストをもらった時、「ひ~!!」と悲鳴をあげそうになりました。Frode Gryttenのテキストはマイナーな方の公用語ニーノシュク。その時点で何秒かフリースしました。Klaus Hagerupの方は、読みやすいテキストです。
とは言え「翻訳ワークショップ参加しまーす」と申告し、しかもAnneさんを始め、同席する皆さんの意見を聞きたいから、ちゃんとテキストを読んで翻訳を作らないと「出る意味がない」とアホでもわかります。のろのろと唸りながら、テキストを読み進めていくことにしました。

Frode Gryttenの短編のニーノシュクはすぐに気にならなくなりました。
ただテキスト自体は、難しかったです。というのも、何が現実で何が主人公の妄想や過去のフラッシュバックなのかが、いかようにも解釈できるから。
辞書にも載っていないスラングらしきものも出てきます。期日までに何とか翻訳をAnneさんに提出して、当日が来ました。

Anneさんの講演

Anneさんの講演

大使館の会議室に、参加者は7名。大学の先生や翻訳者の方、さまざまな顔ぶれです。それにAnneさんとNORLAから会長のMargit Walsø(マルギット・ヴァルソー)さん、Dina Roll-Hansen(ディーナ・ロル・ハンセン)さんがいらっしゃいます。また本セミナーの日本側担当者であるノルウェー大使館の伊達朱美さんまでが、課題テキストを読んで参加すると聞いて驚きました~!

Dinaさんの講演

Dinaさんの講演

Anneさんはいつも笑顔で、誰もが発言しやすい雰囲気を作る名人です。各人、簡単な自己紹介を行い、早速、Frode Gryttenのテキストから読んでいくことになります。
難しいイディオムや単語、スラングの意味を記したプリントを配布してくれました。「ほ~、これはこういう意味だったのか」と眺めつつ、何行かずつAnneさんが朗読します。短編小説自体は6ページ、私たちの課題は2ページだけだったのですが、「この単語は?」「この文章は?」と細かく読んでいくと、様々な意見が出て「そういう解釈があるのか、ふむふむ」と他の人たちの意見を聞くことができ、大げさですが「至福の時」でした!

前述したように、いかようにも解釈できるので、他の人の意見に「そういう読み方があるのか~」と驚いたり、「ちょっと違うのでは?」と思ったり・・・。
日本で、こんな風にノルウェー語のテキストを読める機会なんてそうそうないですから、刺激的でしたね。
短編小説の舞台、Oddaは産業で栄えたけど今は衰退している町であること。そこで第二次世界大戦の傷を負いながら、ホームレス&アルコール依存症状態で彷徨う老主人公。悲惨さの中にある人間のおかしみ・・・。それらをどんな風に訳文に反映させればいいのか、悩ましいけれども、面白いと感じます。

Anneさんや皆さんの意見を聞いて気づいたのは、難しかったのはスラングよりも、何気なく読んでしまう文章の方でした。
男性のパンツ(下着の方)を意味するスラングは、Googleの画像検索を使って「これかな?」と推測できました。
ですが、一見なんてことはないセリフの1つの意味が最後まで分からなくて、納得できないまま提出してしまったのです。
Anneさんが「この言い回しは、例えば医者が患者へ、上の人が下の人へ使うやや見下した表現」と教えてくれました。「知らなかったけど、これで意味がスッキリ!」と目からウロコ体験ができます。
・・・こんな風にAnneさんの解説やみなさんの意見が飛び交い、いつの間にか会議室は「白熱広尾教室!」の様相に。
結局、たった2ページを読むのに、2時間半使ってしまったのです!!(Klaus Hagerupのテキストは読めませんでした・・・)

テキストを翻訳していた時、他にも迷った箇所があり、訳注に「?」を付けた箇所がありました。
Anneさんはわざわざ作者に電話をかけて「どう解釈すべきか」聞いて下さったとのこと。それを伺って「翻訳ワークショップ」の先生役を引き受けて下さったAnneさんの誠実さを痛感しましたね。もちろん、仕事として翻訳の場合だったら作家本人への確認は必要かと思いますが、ワークショップのためにそこまでして下さったんだ、とひたすら感謝の気持ちでした。

イプセン!

イプセン!

ワークショップの後、Anneさんや伊達さんが「参加者の皆さん、本当に熱心でしたね」とおっしゃってました。
こんな貴重な機会はめったにないですから、翻訳ワークショップに臨むにあたり皆さんは「気合」が入っていたのだろうなぁ~と想像しました。

2日間の「ノルウェー文学セミナー」は、NORLAとノルウェー大使館、そしてAnneさんを始め一セミナーに登壇された方々、その他いろいろな方の尽力で、刺激的かつ得ることが多い機会でした!
最後になりますが、関係者の皆さん、翻訳セミナーで意見を交わした皆さんに感謝を申し上げます。Tusen hjertelig takk!!

ノルウェー映画『ハロルドが笑う その日まで』もうすぐ公開!

まずは映画配給会社ミッドシップさんにお礼を言いたいです!『ハロルドが笑う その日まで』(原題:Her er Harold”)を買うなんて、すごい英断!感謝です~!!
・・・と試写会後、まずはその感慨に浸ってしまいました。
実在する会社IKEAやIKEAの創業者をブラックユーモアまじりに描くのは、「あの人たちならアリかな~」と思いましたが。

(C)2014 MER FILM AS ALL rights reserved

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さて、本映画の素晴らしさはたくさんの映画ライターの人が書いて下さっていると思うので、私は「ノルウェー(+スウェーデン)」に絞って『ハロルドが笑うその日まで』について書いてみたいと思います。

ブログを書く前にノルウェーのウェブサイトに目を通したのですが、原案はノルウェーの作家Frode Grytten(フローデ・グリッテン)だったんですね!!!
これはもう偶然としか思えない、いろいろな圧力が「Frode Gryttenを読め!」と言っている感があります。
・・・と一人で興奮している理由なのですが。
3月にノルウェー大使館で開催された「ノルウェー文学セミナー」の「翻訳ワークショップ」の課題が、Frode Gryttenの短編小説だったのです。
今まで読んだことがなかった作家でしたが、このワークショップのお蔭でどっぷり彼の作品を読み込みました!(1作だけですけど・・・)
北欧で最高の栄誉である「北欧文学賞」を受賞している実力派なんですけど、この映画を観ると微塵も「権威」を感じないところがスバラシイ!

試写会で頂いた資料に、森百合子さんがあますことなく映画の見どころを綴った解説が掲載されていました。
森さんは「ノルウェーとスウェーデンの関係」に言及し、互いの言葉でコミュニケーションできることにも触れています。
そうなんです、本作ではノルウェー人はノルウェー語、スウェーデン人はスウェーデン語で話しているのですが、特に意思疎通に問題ナシ。
そもそも似ている言語ですし、ノルウェー人はスウェーデンのテレビをたくさん観て育っているから、よく理解できるのです。

あとノルウェー語とスウェーデン語を勉強している人は、『ハロルドが笑う その日まで』ではたーくさんの罵詈雑言が聞けますよ!
特にハロルドの奥さんが入院中に発する「下品な言葉」の数々は、残念ながら私には分かりませんでした・・・。もっと「下品」分野の語彙を増やせねば!
あ、ハロルドがIKEAの家具を罵りながらどつきまわすシーンの「ちょっと汚いつぶやき」は分かりました。ふ~。

(C)2014 MER FILM AS All rights reserved

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そしてIKEAの存在。
日本に本格出店する以前、先にノルウェーのIKEAに何度も行ってました。
物価の高いノルウェーでIKEAはまさに救世主。ともかく安いし、リフォームが大好きなノルウェー人は「聖書よりIKEAカタログを精読する」と揶揄されるほど「上客」なのです。ここでもスウェーデン人にカモられているのです。たとえ持って帰った来たIKEAの家具が組み立てられなかったとしても・・・。
留学中は学生寮に住んでいたのですが、コインランドリーに洗濯物を入れる袋はみんなIKEAの大きなバッグを使っていたのが印象的でした。
「協定結んでいるの~?」というくらいノルウェー人は、IKEAに依存しています。

対して本作の主人公ハロルドは、昔ながらの上質な家具を扱っていて、IKEA製品は「安かろう、悪かろう」とバカにしています。
しかし、いろいろあってIKEA創業者に復讐を誓い、スウェーデンへ誘拐するために向かいます。
IKEA創業者カンプラードのドケチ伝説は、ノルウェーの新聞で読んだことがありました。映画でのカンプラードは、残念ながらご本人ではなくスウェーデン俳優が演じていますが、「誘拐しちゃってかえって扱いに困る」強烈キャラクター。さすが世界的企業の創業者は違います!

(C)2014 MER FILM AS All rights reserved

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ハロルドの失業中の息子も「うわ~、ありがちなキャラクター」と思いました。
ダメ男なんだけど、どこか憎めない。うん、この映画には「憎めない」人しか出てきません。
ちなみに音楽は、日本にもファンがいるKaizers OrchestraのフロントマンJanove Ottesenが担当しています!

60代後半になっても凍った湖に落ちて喧嘩できる体力がないと北欧には住めないことが実感できる『ハロルドが笑う その日まで』。
日本で上映される幸せをかみしめて、ぜひ劇場で、おじさん愛に満ち溢れた映画をご覧ください!

(C)2014 MER FILM AS All rights reserved

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映画公式サイト:http://harold.jp/index.php

2016年4/16(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショーです!