帰国前夜の日曜日。たまたまつけたNRK2のテレビ番組に「ん??」と目が釘付けに状態に。
男性が、詩を朗読しています。まさかポエトリー・リーディングをテレビでやってる?
さすが国営放送。日曜のゴールデンタイムに、こういう番組をやっているのね、とおかしくなりました。パッキングしながら、テレビをつけっぱなしにしていましたが、次から次へと詩が朗読されたり、現代や昔の詩人の紹介をしたりと番組は終わる気配はありません。
気になってテレビ欄で確認します。「ひ~~!!」目を疑いました。この番組、18時~23時まで放送・・・5時間も詩の番組をやるんですか??
はい、やってました。”Dikt og Forbannet løgn” (「詩とひどい嘘」イプセンのペール・ギュントにある有名なフレーズ)という番組です。
最初は「ぷぷ、公開ポエトリー・リーディングか~」と笑ってましたが、留学時代に勉強した詩や詩人が紹介されていくにつれ、どんどん番組に惹きこまれています。
5時間も詩の番組ということで、合間合間に工夫が見られました。例えば、ヒップホップグループや男声合唱団に詩を歌わせたり・・・
あと男性2人の司会者が「あなたの詩を番組にメールで送って下さい」と呼びかけたり・・・・いやいや、ノルウェー人は詩を書けるからすごい数が来るよ!と焦ります。
まぁ考えてみれば、日本でもEテレで短歌や俳句番組を放送しますよね。ただ違いは「放送時間帯」と番組の「予算」でしょうか。
ここで見覚えのあるお顔が画面に登場します。メッテ・マーリット(Mette-Marit)ですね。ノルウェーの皇太子妃です。
国民的詩人André Bjerke(アンドレ・ビャルケ)の詩を、南ノルウェーの方言で朗読。薄々は勘づいてましたが、この番組の並々ならぬ「気合」が伝わってきます。
他の企画として、オスロやベルゲン、スタヴァンゲルなどの町で、人々に「どんな言葉の詩を書いてほしいか」かのインタビュー映像が流れました。
tro(信じる)、fred(平和)、rettferdighet(公平)、mørkt(暗闇)などバラバラの単語を、街行く人は挙げていきます。
スタジオにいる若手の詩人たちが、30分くらいの時間内に、それらの言葉を使って詩を創作するという試みでした。
笑点より難しい!生放送だし放送作家いないです。
若手詩人の顔が、栗原類に似ていると思って写真を撮ったのですが・・・
帰国後「髪型しか似ていません」と切って捨てられました・・・。いや、角度によっては似てたんですよ。
正直、完成した詩によって感心したり「もっといい詩ができないのかな?」と生意気にも思っちゃいましたが、詩のライブ感は十分に伝わりました。
外出していたアウドさんも帰宅し、一緒になって視聴。画面には再び、見知った顔が映ります。絵本作家・詩人のグロー・ダーレ(Gro Dahle)さんです!
トレードマークのツインテールに、全くの普段着。さて、彼女に与えられたミッションは「詩の創作教室」でした~。
MCたちが生徒役になり、まずグローさんが「お互いの舌を手で触ってみて」と言います。当惑する生徒たちですが、素直に触りあってました。
「その匂いは?感覚は?何を思い出す?」とグローさんは尋ねて、2人はいろいろな言葉を発していきます。
それを「いいわね!とってもいいわよ!」と彼女は紙に書き取って、どんどん言葉をつなげていきました。
誉め上手、励まし上手のグローさんのリードにより、最後には即興詩が完成~!!MCたちも「まさか詩がこんな風にできるとは」と感動してました。
「詩は自由。詩は自分のもの。ただ書けばいいのよ」とグロー・ダーレさん。
『パパと怒り鬼~話してごらん、だれかに~』で仕事をご一緒したので、作品はもちろん彼女からもらったメールまでもが「すごい、詩になっている」と感心したことは何度もありました。
全く予備知識がないまま見始めた番組ですが、まるでベストテンのような趣向が最後に待ってました。
「ノルウェーで最高の詩」を選ぶという無謀な(!)企画です。
あらかじめ6つの詩が、審査員により絞り込まれていたようです。詩人と詩を紹介する映像が流れます。
ちなみに6つの詩は以下の通りです。
- Halldis Moren Vesaas(ハルディス・モーレン・ヴェーソス)作 ”Ord over grind“(1955年)
女性詩人として唯一のノミネート。夫とともに創作活動に励む。「ノルウェーで最も美しい愛と孤独の詩」と評される。 - Tarjei Vesaas(タルエイ・ヴェーソス)作 ”Innbying“(1953年)
Halldisの夫。小説も数多く出版し、北欧文学賞受賞。この詩は美しい愛の詩として知られる。 - Arnulf Øverland(アルヌルフ・オーヴェルラン)作 ”Du må ikke sove” (1937年)
早い時期から反ナチス活動を行い、この作品もナチズムの台頭を警告する詩として、広く知られている。 - Olav H.Hauge(オーラヴ・H・ハウゲ)作 ”Kvardag” (1966年)
ハルダンゲル地方でリンゴ農家をしながら詩作を行った詩人。幼少から年を重ねる過程の日常についてを、短い言葉で表現。 - 同上の”Det er den draumen“(1966年)もノミネート。タイトルの”draum”=夢についての短い詩。葬式、結婚式、堅信礼でよく暗唱される。
- Sigbjørn Obstfelder(シグビョルン・オブストフェルデル)”Jeg ser“(1893年)
ノルウェー最初のモダニズム詩人と呼ばれる。詩では、孤独、不安、そして”異邦人”のような感覚が表現された。
これらの詩をいろいろな俳優がイメージ映像とともに朗読するのですが、感動的でした!
留学時代の古ーい記憶が甦ってきますが、アウドさんは「全部の詩が暗誦できる」と余裕の表情。やっぱり詩が大事な国なんだな~と納得です。
興味深いのはノミネート作品のうち、ニーノシュクで書かれた詩が4つを占めたんです(ノルウェー語にはブークモールとニーノシュクという公用語があり、ニーノシュクはマイナーな方)。よくニーノシュク擁護派は「ニーノシュクこそ詩的で美しい」と言っていたな~とぼんやり思い出します。
視聴者からの投票を呼び掛けますが、きっと多くのノルウェー人が投票したことでしょう。
いよいよ発表の瞬間・・・緊張が走ります!
「ノルウェー最高の詩」は、”Det er den draumen“が受賞しました~。Olav.H.Haugeの未亡人Bodil Cappelen(ボーディル・カッペレン)が舞台に上がります。
彼女について私は何も知りませんでしたが、アウドさんが説明してくれます。
何でも、Bodilさんは画家であり、結婚はしていたけれどもOlav H.Haugeの詩に文字通り「恋をして」、詩人と文通を開始。2人が実際に会うことができたのは、文通をしてから4年もかかったそう。「あの当時はね、そういう時代だったのよ」と感慨深そうにアウドさんは言ってました。夢が叶って、OlavとBodilは一緒に暮らし始めたのです。
Olav H.Haugeは、日本人とも縁があります。彼は漢詩に影響を受けたことが有名ですが、俳句にも興味があったということを後に知りました。
オスロ大学の図書館で、彼のことを調べている時に「昔、オスロ大学に留学した日本人がOlav H. Haugeに俳句を教えた」という文献を見つけたんですよね。いくらノルウェーは小さな国とはいえ、すごいなぁ、同じ留学生でも私とはすごい違いだなぁ、と感嘆した記憶があります。
5時間に亘る詩の番組は、改めて「詩の持つ力とテレビの可能性」を感じましたね。思いもかけない帰国前の思い出になりました~。
帰国後、ノルウェー人の知人と「詩をテーマに、あんなに大作番組を流しちゃうのはすごい!」と盛り上がりました。
以前のブログでも、ノルウェー人と詩の関係を書いていますので、ぜひご参照ください♪
(「詩が身近にある暮らし」、「子どもからのプレゼント♪」
詩心がない私でも、夢中になって最後まで観ちゃいました「詩の大作テレビ番組」。
ますますノルウェー人と詩の距離が縮まりそうです♪