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ウィズ・スタイルマガジン 『北欧 NOW!』 
北欧ノルウェー着 ライフスタイルレポート
【03】


第30回 「方言は楽しい?」(2008年5月15日発行 vol.77)


 日本では最近、「方言を話すアイドル」なる不思議な人たちが存在して
います。
そもそも日本は標準語志向が強い国。地方から東京に移り住んだ人は、
東京の言葉に合わせようと努力が見られますよね(除:関西人)。

在京テレビのニュースキャスターやお天気お姉さんも当然のように、方言は
使いません。そうした環境だからこそ逆に、「方言が新鮮、面白い」といった
珍味食いのような感覚で、「方言アイドル」を愛でるのでしょう。

ノルウェーには、「方言アイドル」なる存在はありませんが、方言を普通に
話している人はそれこそ無数にいます。
最初に留学した大学の寮で自己紹介した時、全く理解できない方言を話す
学生が何人かいました。テレビの天気予報を見ていても、お姉さんの方言が
キツすぎて「理解不能!」に陥ったことが何度もあります。
国の顔である政治家も自分の方言を思い思いに使っています。

ノルウェーでは日本のように強い「標準語志向」がなく、ちょっと気取って
オスロの言葉を話してみよう、という感覚がどうもあまりないようですね。
自分の出身地が分かるあからさまな方言を皆が勝手に話しているのが現状です。
大学で勉強した言語史のテキストには、ノルウェーには「方言を使う権利意識」
が人々の間に根強いと書いてありました。
方言=恥、という感覚がなく、むしろ誇りに思っている節があります。

さて「方言は心がなごむ」とか「あったかい」という意見がありますが、
私にとってノルウェー人の話す方言は「恐怖」以外の何者でもありません。

例えば、ビデオ起こしの仕事で映像を見ていると、皇太子妃の話す
ノルウェー語ですら、すごい方言!
聞き取るのがすご〜く大変で、「なんでこんな方言女を嫁にしたのか」と、
呪詛の念が湧いてきます。もちろんノルウェー人はそんな狭量な考えを抱きません。

先日、ノルウェーから14人くらいの視察団がやってきて通訳をやったのですが、
予想通りみんないろいろな方言を話していました。
幸いにして、まとめ役の方が分かりやすいオスロの言葉だったので、通訳の
通訳をやってもらいました。
北や西や南など分かりにくい方言の発言があると、私に分かりやすいように
オスロの言葉に言い直してくれたのです。
でもここで疑問がわきました。どうしてみんなは外国人の私に分かりやすい
ように、方言をやめて、オスロの言葉に近づけようとしないだろうと。
もし方言を話す日本人が外国人と話す場合、できるだけ分かりやすい標準語に
近づけるような気がするのですが、どうなんでしょう?
そういう気を利かす思考回路が存在しないのかもしれませんね。
どこでも英語が通じて気を使わないアメリカ人のように、自分のマイナーな
方言を何のてらいもなく使うノルウェー人。
そんなノルウェー人に萌え、という感覚にまで辿り着ければ、「方言アイドル」
ファンの心情に近づけるかもしれません。

「そのままの君が好き」ってな具合で・・・。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第29回 「コペンハーゲンには分かるまい、この気持ち・・・」(2008年4月15日発行 vol.75)


世の中には、「どんな国でも“直行便”で行ける」、と信じている方が
意外と多いものです。
今まで数限りなく、ノルウェーに関する質問を受けてきましたが、「ノル
ウェーへはどうやって行くのですか?」という問いに、「直行便がないの
で・・・」とまず説明を始めると、「え?直行便がないんですか?」と
目を丸くされてしまうのです。

本エッセイ読者は不要かと思いますが、改めて説明すると、日本―スカン
ジナビア3カ国間で直行便があるのは、デンマークだけです。
従って、ノルウェーへ行くには、スカンジナビア航空(SAS)でコペンハー
ゲン経由、またはフィンエアーでヘルシンキ経由、その他ヨーロッパ系
エアラインでどこかの国を経由して、ようやくノルウェーへ入国できるのです。

と説明をすると、「じゃあ、行くのは大変ですね」と尻込み反応が多いのも事実。
「いえ、意外と乗ってる時間は長くありません」とまるで航空会社からの
まわし者のように、皆さんの心を引き止めるのに必死です。

私はノルウェーへ毎年行くようになってから相当経っているので、「乗り換え」
に関しては「当たり前」の感覚です。
よく利用するのはSASコペン経由ですが、かの空港でも「到着ホール」ではなく
「乗り継ぎホール」へ自然と足が向かいます。
という感じで、すっかり「乗り換え当たり前」モードの私を含むノルウェー
チーム(?)は、今年の初め、スカンジナビア航空が発表したニュースに
驚きました。

内容は「2008年夏、成田―ベルゲン直行便がスタートします!」。

この一報を耳にした際、素直に喜びました。
ようやく長年の苦労が実るのね、と。ノルウェー語のクラスでも生徒さんに
「知ってました?」と我が手柄のように吹聴していたら、ノルウェー人の
伴侶を持つ生徒さん曰く、「ベルゲン出身の夫が飛行機に乗る予定もないのに、
SASのサイトを喜んでチェックしています」。

やっぱりみんな、嬉しいんだな〜と実感していた矢先、旅行業の方に詳しい
情報を伺いました。
私は、これからずっと「ベルゲン直行便」が運航されると思っていたのですが、
「今夏限定」というお答え。
しかも運航される回数は「4、5回」。「え、たった?」としばし絶句です。
しかも、直行便は大手旅行会社によるチャーター便で、ツアーのお客さんで
いっぱいですよ、というお答え。

底に落とされました・・・。

とどめの情報としては、毎日運航されている成田―コペンハーゲン便を、
そのベルゲン便に振り替えるそうで、わざわざ別に「ベルゲン便」なるものが
存在するわけではない、と。

夏に4、5回直行便が出るだけであんなに喜んでいたノルウェーチーム。
かたや毎日、当然のように直行便が出ているデンマーク・・・。
コペンハーゲン、あんたに私たちの気持ちは分かるまい!

ちなみにベルゲンでは直行便の搭乗客にダンスや音楽でお出迎えするそうです。

泣けますね〜。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第28回 「東西南北 ノルウェー人気質の違いは?」(2008年3月15日発行 vol.73)


日本でも「関西人」という言葉があるように、それぞれの地方によって
人々の気質や性格の違いというのは、どんな国でも、多かれ少なかれある
のではないかと思います。
私はひょんなことから関わりを持つようになった「ノルウェー」という国に
おいても、そうした地方ごとの気質の違いがあるのでは・・・と
長年にわたって興味を抱いてきました。

きっかけは、10年ほど前に読んだテキストに「北ノルウェー人は明るくて
陽気であけっぴろげ。
言葉遣いが極端で激しい」といった記述があったからです。
一般的なイメージでは、寒い地方の人ほど無口でシャイな感じがするのに、
ノルウェーでは違うの?と不思議な気持ちになりました。
やがて、北ノルウェー出身のノルウェー人と親しくなることができ、
なるほど!と膝を打つ思いがしました。彼はいつも「お客さん、大歓迎」の
姿勢で、楽しいジョークを連発。ノルウェー人の男性の中には口は真一文字で
しかめ面、という人も決して少なくないのに好対照です。

そして北ノルウェーの彼に、「他の地方のノルウェー人についてどう思う?」
と聞いたところ、興味深い回答がありました。思いっきり他の地方をけなすのです!
「東ノルウェー(オスロなど)の人は気取り屋。西もひどい。南は面白味に
欠けるね。」そして、北をほめる、ほめる。
「北ノルウェーが一番素晴らしい、最高!」それほど地元を愛しているのに、
あっさり北ノルウェーを出てしまっているところに矛盾が・・・。

そんなに素晴らしい北ノルウェー。しかし、ノルウェーのお笑い番組のDVDを
見たら、思いっきり北ノルウェー人が馬鹿にされているコントがありました。
北ノルウェーで深刻な「過疎」を考える地元集会がモチーフです。
芸人たちは極端な北の方言を駆使し、観客の笑いを誘います。いろいろな意味で
北ノルウェーは、みんなが思いっきり笑える要素が多いのでしょう。
そういう存在は貴重です。

そしてつい最近、南ノルウェー出身のノルウェー人に、東西南北の気質の違いを
尋ねる機会がありました。
彼曰く、「東はお金持ちのイメージ。西はベルゲンが特別な感じだね。
自分たちは“ベルゲン人”という意識が強い。北は“失業者”のイメージ。
あと、罵詈雑言が好きな印象がある。南は穏やかだね、おとなしいよ。」
確かに彼は、北出身のノルウェー人とは違い、何事につけても「いい子」の
印象です。ノルウェー人が大好きなお酒も口にしません。
「どうして、南の方がおとなしいと思う?」と尋ねると、「気候が穏やかだ
からね」という拍子抜けするような答えが返ってきました。
南の方が気候は穏やかで人々は陽気になるのではなく、穏やかだからこそ
おとなしい、とは新しい視点をもたらしてくれました。

そう、ノルウェーでは北の方が「ラテン系」なのです。
厳しい自然に負けず、人口流出に負けず、北の人は持ち前のユーモアで乗り
切っているのです(きっと?)。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第27回 「ノルウェーの雪、東京の雪」(2008年2月15日発行 vol.71)


 大雪のためオスロ郊外の空港が混乱状態になっている、というニュースを
ネットで知った翌日、関東地方でも雪が降りました。
朝起きると外は一面の白い世界・・・という光景は、東京ではそうそうお目に
かかれるものではありません。

雪の中、外に出る際にチョイスしたのは、昔、ノルウェーで買った底が
でこぼこしているブーツです。
日本で売られている靴やブーツの底は、ほとんどがツルツルしていて、
雪上を歩くのは心もとありません。
たとえデザイン的にイマイチでも、転倒の恐怖に比べたら、と迷いは消えます。
久しぶりにノルウェー・ブーツを履いた感触は・・・
鉄下駄のように重かったです
(「巨人の星」の主人公が穿かされる下駄をイメージして下さい)。

そして表に出ると、道は雪が積もっている箇所やシャリシャリしている箇所、
そして早くもアイスバーンっぽくなっている箇所がありました。
一歩一歩、足に力をこめて歩いている間、自然とノルウェー留学中の
エピソードが蘇ってきます。
最初の留学地で、雪の怖さを知らず、自転車で雪の斜面を走り、見事に
転倒した事件。
あの時は足に何箇所も青あざができ、以来、雪や凍結した道への恐怖感が
植えつけられました。
また、私がゆっくり歩いていると、友達はとっととスケーティングするように
行ってしまい、置いていかれる悲しさ。

私の歩行スピードはお年寄りとほぼ同じでした。

さらにオスロに留学時は、都会ゆえの試練が待っていました。
あまりにのろのろ歩いていたら、宗教の勧誘につきまとわれ、「あなたは神を
信じますか?」という言葉にからめとられそうになりながら、亀スピードで
振り切ろうとしましたっけ。
当時は必死でしたが、今では心温まる(?)思い出です。

ノルウェーで思い知らされたことですが、夏の間、どうってこともないような、
なだらかな斜面が、冬になると殺人的な「急斜面」に様相を変え、恐怖の
歩行を余儀なくされることです。
各自治体が割合にちゃんと除雪車を出し、雪面に滑り止めの砂利をまいて
くれるのですが、それでも本当によく滑って転んでいました
(受験シーズンには禁句でしたね)。
何がそんなにも恐怖かと言うと、あの滑らなそうで滑りそうな瞬間のいや〜な
感覚でしょうか。
「あ、あぶない」と思った瞬間、その予感はほぼ的中し、転んでしまいます。
痛みはもちろん、人目がある場合は恥ずかしさもこみ上げ、雪への憎悪は
メラメラと燃え上がります・・・。
そして恐怖の記憶ばかりが蓄積され、歩行時のスピードがますます遅くなり、
と悪循環は続きます。

これはよく誤解を受けることなのですが、ノルウェーに留学していた=寒さに
強い、という図式は少なくとも私の場合、成り立ちません。
誰よりも着膨れをし、そして誰よりも雪が苦手・・・。
それでもノルウェーに留学できちゃったところがすごい、と近所を歩いている
人はみな、普通の靴で歩行している姿に青ざめて、今更ながら感心しています。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第26回 「外国語って難しい!」(2008年1月15日発行 vol.69)


 それは年末のある日。うちの郵便箱を開けると、一通の封筒が入ってました。
封筒の表には、たどたどしい漢字で書かれた住所。
そして私の名前は「青木順子」だけで、「様」が書かれていません。

そう、呼び捨てです。

一瞬ぎょっとした私は、「これは脅迫状??」と恐怖に凍りついてしまった
のですが、封筒を裏返し、送り主が知人のノルウェー人留学生と分かり、
一安心しました。

ノルウェーでは、手紙であってもダイレクトメールであっても、相手の名前に
英語のMrやMrsに相当するような敬称はつけません。
シンプルに「Junko Aoki」だけでOKなのです。
たとえ相手がお客様であっても関係ありません。という話をノルウェー語の
レッスン中に説明すると、驚かれる生徒さんが多いのですが、私はノルウェー
式の習慣にもう慣れました。

私に手紙をくれた留学生は、日本語がかなり上手で、文章も漢字が多用されて
いたのですが、ただ一つ、宛名に「様」を付けなかったことで、日本式の
ルールから逸脱してしまった惜しいケースです。

私自身も昨年のクリスマス前、ある「失敗」をしてしまいました。
知人のノルウェー人宅を訪れた際、きれいにクリスマスのデコレーションが
された部屋を見渡しながら、「とても素敵ね!」と一緒に訪問した別の
ノルウェー人女性に語ったところ、「今の表現はおかしい」と指摘されました。

「とても」を意味する単語は、ノルウェー語には幾つかあり、その中で私は
ganske(ガンスケ)という単語をチョイスしたのですが、ノルウェー人女性曰く、
ganskeだと「まあまあ素敵ね」くらいの意味になってしまうというのです。
今まで培った私の知識を根底からくつがえされるような思いで、すっかり
驚いてしまいました。

帰宅後、何となく「徹底究明」したくなった私は在ノルウェーの友達にその日
のエピソードを知らせ、「私の言葉遣いはおかしかった?」と疑問をぶつけた
ところ、親切な友達は、彼女の知人でオスロ大学の言語学の教授
(インドに旅行中)にメールを書き、ganskeの単語の意味について詳しく
尋ねてくれました。

インドからその日のうちに返事が来て、夢中になって回答を読んだところ・・・。
もともとganskeは、「完全に」という意味で使われていたそうですが、
時代がさかのぼるにつれて意味が少しづつ変化し、現在では、「まあまあ、
ある程度」くらいの意味で使われることが多いとか。
また、日本の「とても」という言葉と同じように、「皮肉」のニュアンスを
込めることもできるそうです
(「あら、彼はとってもかっこいいわね!」のように)。

ganskeのように初期の段階で習う単語一つ取っても、長いヒストリーがあり、
微妙なニュアンスがあるのだな〜と今更ながら、外国語を習うことは難しい!
と思うと同時にだからこそ、面白いと感じました。

そう、外国語を習うということは、「終わりなき作業」なのです。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第25回 「ノルウェー版『オペラ座の怪人』?」(2007年12月15日発行 vol.67)


 来年の4月開幕を目指し、オスロに新オペラ座が現在建設中です。
私も10月にオスロを訪れた際、その白く堂々とした建物を遠くから眺める
ことができました。

そして、「やっとここまできたのね」と感慨深い気持ちになったのです。
というのも、この新オペラ座は建設する前から国内で深刻な政治問題として
度々、取上げられてきたからです。

まず、新オペラ座をどこに建設するのか、という問題を巡って、政党間で
対立がありました。
オスロはよく西が山の手、東が下町風といわれますが、
「やっぱり西オスロでしょう」という意見、
「いやいや、東側に建設してこそ町の再開発が進む」という意見、
また「そもそも新オペラ座なんて必要ない」という意見まで出る始末です。
喧々諤々の結果、“東のウォーターフロント沿い”といえば聞こえが
いいのですが、高速道路の近くという非オペラ的な場所に決定したのです。

そしてノルウェーを代表する建築事務所スノーヘッタがデザインを担当し、
建設が始まりました。
現在のオペラ座には、中にシンプルなバーが1軒あるだけですが、新オペラ座
には、バーはもちろん、レストランやブラッセリーまで開業し、ランチから
提供するという力の入れよう。
こうした発想は日本では「当然」かもしれませんが、ノルウェーでは公共の
場にレストランやらブラッセリーなんて、「ありえな〜い」のです。
誰かが知恵をつけたのでしょうね(スウェーデン人から?)。
そうした副収入に加え、新オペラ座のガイドツアーを8ヶ国語で精力的に行い、
更なる副収入を見込んでいると新聞報道にありました。
記事によると、すでに新オペラ座側は、2010年の見込み収入まで算定して
ウハウハ状態だそうです。

さて・・・。建設までいろいろあったけれど、ようやく来春に向けて希望の
光が見えたのね、と思った矢先、センセーショナルな記事を目にしました。
いわく「新オペラ座が黄色くなる」。

What・・・??

確か、建物は真っ白だったのに、どうして黄色?といぶかしい気持ちで記事を
読んでみると、建物に使用した大理石が、一部、黄色く変色してきたというの
です。そんなことってあるのでしょうか?

記事をよく読んでみると実は、この「石」の選定を巡っても喧々諤々の議論が
あったそうです。
スノーヘッタはイタリアの大理石を所望し、政治家はノルウェー産の石に固執
し、専門家は御影石の方がメンテナンスもノルウェーの気候にも適している、
と主張。

結局、スノーヘッタが要求したイタリア産の大理石に決定したのですが、
夏頃からその大理石の変色が目立つようになったとか。
原因は不明、とありますが、いずれにしても黄色を白く戻す作業やら何やらで、
さらにコストがかかることは必至です。

こんなに周囲の人を惑わすオペラ座。

やっぱり、魔物が棲んでいるとしか考えられません。
こけら落としの演目はオペラではなく、「オペラ座の怪人」で決まりですね。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第24回 「ノルウェーでコメディー映画を鑑賞すると・・・」(2007年11月15日発行 vol.65)


 私の行動範囲は非常に限定されています。知っている国の例はほとんど日本と
ノルウェーしかありません。ということを最初にお断りして、日本とノルウェー、
映画鑑賞時の違いについて比較したいと思います。

10月のオスロ旅行中、ノルウェー映画を観ました。コメディー映画です。
強い女性に絡め取られた弱い・優柔不断な男性を悲喜劇的に描いた作品です。
会場の反応は....そうですね。
よく若い女性を揶揄する表現の「箸がころんでも笑う」状態でした。
もちろん笑っているのは若い女性だけでもなく、男性も一緒。笑う場面以外でも、
すごく反応が良く、ここは「笑っていいとも」のアルタかしら?と錯覚するほどです。

 こんなにノルウェー人の反応が良いのは、この映画に限らず、他のコメディー映画
を観た際にも何度も体験済みです。日頃、笑う機会が少なくて、「絶対に笑ってやる」
という執念が笑いに駆り立てるのでしょうか。
日本のようにお笑い番組が少なく、いわゆる「お笑い免疫」が足りないので、
たわいもないギャグでも笑ってしまうのでしょうか。謎は尽きません。

こんな経験もありました。ノルウェーに留学中、当時大評判だったコメディー映画を
観ました。もちろん劇場内は爆笑に次ぐ爆笑。
ちょっとしたギャグやおかしい動きにいちいち反応して、日本人の私までも
「この映画はすごく面白い」と心に刷り込まれたほどです。そして帰国後。
めったにないことですが、このノルウェー映画が日本でも上映されることになった
のです!
私は、友人を誘って渋谷のミニシアターまで本編を観に行くことにしました。
ただでさえ小さな劇場に集まった観客は、全部あわせても10人くらいだったで
しょうか・・・。嫌な予感がしてきました。
そしていよいよ映画がスタート。ノルウェーでは大爆笑だった箇所はことごとく、
シーン。誰も笑ってません。あまりに静かな場内に、私はいたたまれなさまで
感じてしまいました。誘った友人に対しても申し訳なさを感じ、仕方ないので一人で
笑いながら鑑賞しました。
まるで、日頃笑う機会がなくて、執念で「笑ってやる」と思った観客のように、
まるで、今まで面白い映画を観たことがなくて「お笑い免疫」が足りない観客の
ように....。
その友人とは二度と一緒に映画を観に行く機会がなかったのは言うまでもありません。

現在、ノルウェー大使館では「Movie Night」と称して月に1回、ノルウェー映画を
上映しています。何度か足を運びましたが、やはりノルウェー人と日本人では反応の
度合いが違いますね。
もちろん日本人には映画の細かいニュアンスが伝わらない、というハンディが
ありますが、それにしてもノルウェー人の笑うさまに「そこまで大笑いする〜?」と
疑問に感じたことは一度や二度ではありません。

「ノルウェー人シャイ説」は少なくとも、コメディー映画鑑賞時には当てはまらない
ようです。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第23回 「2年ぶりのオスロ訪問は・・・」(2007年10月15日発行 vol.63)


 昨日、約10日間のオスロ旅行を終えて帰国しました。まだ頭がぼーとして、
おまけに何でも「ま、いいか。後にしよう」と妙に思考がスローモーに
なっています。
日本の時間をノルウェー時間に直して、「本当は寝ていていい時間だもんね」と
開き直るクセは、一刻も早く消えて欲しいものですが・・・。

・・・と全体的にスローモードなノルウェーの影響を多々受けてきましたが、
ただ2年ぶりに訪れたオスロの街の変化には驚く点がありました。
国の景気が良いせいでしょうか、至るところで工事中。
おかげさまで、バス停留所の場所がずいぶん変わっていました。
いつもお世話になっているオスロの友人宅は、オスロ中央駅からバスに乗って
行くのですが、その始発停留所の場所、および街中のルートが変わっていて、
最初はかなり焦りました。
また、地下鉄の路線も山の手線とまでは申しませんが、プチ環状線が完成し
(私の留学中は工事中でした)、おかげさまで路線も変わってしまい、一度、
違う路線に乗ってしまうというミスを犯してしまいました。
あんなに単純なオスロの地下鉄で迷うなんて・・・東京から来ました、という
事実がウソのようです。

また交通関係の話で恐縮ですが、駅には新しい自動切符販売機が誇らしげに
立っていました。でもあまりそれを利用している人はいません・・・。
ノルウェー人の友人も「あれは使い方が分からない」と利用を避けていました。
「新奇な物には手を出さない」ノルウェー人の慎重さが垣間見られます。

そして今まで、全くなかった自動改札機も駅によっては設置されていました。
それまでは、駅で誰も切符をチェックせず、たまに検札官が車両に乗り込んで、
切符を持っていない人から罰金を取る、という「全時代的な」方式だった
のですが、その古き良き伝統までなくなってしまうの?と思って改札機を
眺めていたら、誰も切符を改札機に通したり、いわんや、かざしている人は
いません・・・。
よくよく自動改札機を眺めてみると、「テスト中」みたいな電光文字が浮き
出ていました。
信憑性は定かではないのですが、現地在住の日本人に尋ねてみたところ、
本格導入の前に改札機を早く設置しすぎてしまい、機械を壊す不逞の輩が
いるとか・・・。

いずれにしても、「あちゃー」って感じですよね。
最新式の機械を持て余している感がノルウェー人らしくて、ほほえましかった
です。改札機が導入されたら、混乱は確実に目に見えてます。

他には、カフェや飲食店が飛躍的に増えた印象です。20年前にはほぼなかった
と言われる「外食の文化」が若い人を中心に根付き始めている証拠でしょう。
いずれにしても、これまでは毎年オスロを訪ねるたびに、「変化が乏しい
街だな」と思っていましたが、今回は2年ぶりということもあり、今までで
一番変化を感じた回でした。

「オスロが都会になる?」―嬉しいようなちょっと寂しいような複雑な心境を
抱いた旅でした。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第22回 「『ありがとう』か『すみません』か」(2007年9月18日発行 vol.61)


ノルウェーに行く人に勧める「絶対覚えて欲しい単語ベスト1」は、やはり
「Takk」(タック)=「ありがとう」でしょうか。
平均的なノルウェー人が1日に何回、このTakkを使うか、統計を取ってみたい
くらいです。

例えば、キオスクに入って新聞を買うとしましょう。
「△△新聞、ある?」「はい、どうぞ」と新聞を受け取りながら「Takk!」と
店員さんにお礼を言って、お金を渡します。
店員さんは「Takk!」とお金を受け取り、おつりがあれば「おつりです」と渡し、
その行為に対してお客は再び、「Takk!」とお礼を言います。
日本ならば、お店でお礼を言うのはもっぱら店員さんだけで、お客は無言、
というケースが多いですよね。
もちろんサービスに対して感謝の気持ちがない訳ではないですが、何となく
「ありがとう」とだけ言うのも上から見下す感じだし、「ありがとうござい
ました」では丁寧すぎるし・・・。と葛藤があります。

また話をノルウェーに戻しましょう。知り合いが訪ねてきました。
「Takk for sist!」(この間はありがとう!)とまずは挨拶。
たとえその「この間」が3年前であっても使える便利な表現です。
その後も、「訪ねてくれてありがとう」「招いてくれてありがとう」
「遠いところから来てくれてありがとう」「忙しいのに時間を作ってくれて
ありがとう」「素敵なプレゼントありがとう」「飲み物をありがとう」
「食事をありがとう」・・・・・最後の「今日は本当にありがとう」まで、
延々とTakkを使った会話は続きます。

先日、読んだノルウェーの新聞記事に面白いものがありました。
在ノルが長いベトナム人男性が「ノルウェー人は礼儀正しい国民」と言って
いるのです。
普通の感覚だったら、ベトナム人の方が礼儀正しそうですが、彼に言わせると
「ノルウェー人は何にでもTakkと言うから礼儀正しい」とか...。正論です。
私もノルウェー語のレッスンでは、なるべく意識してTakkを使うよう、
生徒さんに教えているつもりですが、悲しいかな、心は日本人。
時々、「ありがとう」より「すみません」に相当する単語Unnskyld「ウンシル」が
頭に浮かんでしまいます。
断言できますが、ノルウェー語ではTakkに比べて圧倒的にUnnskyldの影は
薄いです。
例えば、道行く人と肩がぶつかった時など、Unnskyldと謝っているのは私だけで、
相手のノルウェー人は気にもしないで、すたすた行ってしまった・・・と
いう経験が何度かありました。
私の長年の印象では、ノルウェー人は「Takk」を使うのが好きな人々。
そして日本人は「すみません」を頻発する人々です。小さな言葉遣いの違いだけ
ではなく、国民性の違いにも関連しているかもしれません。

どなたか、ノルウェー人が1日に何回、Takkを使うか回数を数えてくださる方、
いらっしゃいませんか〜?


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第21回 「ノルウェーの秋学期」(2007年8月15日発行 vol.59)


 このエッセイが配信される頃は、ちょうど日本ではお盆シーズン。夏休みの
方も多いでしょう。
その中には、北欧やノルウェーへ旅行に出かけられる方もいらっしゃると思
います。
一方、ノルウェーでは学校・大学などの「秋学期」がスタートする頃です。
学校のスタート=「秋だな〜」と人々が思う頃ですね。
すでに8月に入る頃から、IKEAなどのインテリア・雑貨ショップでは
「Skolestart」=「学校開始」の文字が踊ってます。
親元から離れて、一人暮らしする学生たちが、IKEAで生活必需品をまとめるのは、
いわば様式美。そんな顧客の動向を見透かしたような商品が店内には並びます。
中には、グラスやお皿、フォーク・ナイフ・スプーンなど食器をまとめた
「Startpakken」(「スタートパック」)という商品があって、とりあえずそれ
1箱さえ買っておけば、最低限の生活はまかなえますよ、というとても「親切な」
商品を見たことがあります。
まんまとこうした商品を買った学生たちが、学生寮の共用キッチンやランドリー
に並べて、IKEAの商品が圧勝の図式が成立します
(他に選択肢がない、という事情もありますが)。

「Skolestart」の文字は、IKEAだけではなく、書店でも嬉しそうに掲げられて
いました。そうです、値の張る教科書・参考書が売れるベストシーズン到来
なのです。
大学生の場合、学科にもよりますが秋学期(8月〜12月)に必要なテキストを
そろえると、何万円単位にもなってしまいます。1冊が5000円以上の本が
ザラなので、若い学生にとっては結構な物入りですよね。

そこで誰が考え出したのか「中古本」販売が、堂々と本屋の外で繰り広げられて
います。場所は、オスロのメインストリートのカール・ヨハン通り。
売るのも買うのも学生たち。売る側の学生たちは、道に座り込んで持っている
本を広げて、買う側の学生たちは、どんな本がいくらで売られているか熱心に
見て回ります。
売っている人の数は数えたことはありませんが、道行く観光客が「あれ、なに?」
と不思議がるほどの数であることは確かです。
また事情を知らない観光客にとっては、異様な光景にも映るでしょう。
お盆時期にオスロに観光へ行かれる方は目撃できるチャンス大ですよ
(といっても、歩行に邪魔な一団ですが・・・)。

明るかった夜が、暗くなるのが徐々に早くなってくるのもこの時期です。
もう夏には戻れず、どんどん暗い冬に向かっていくのだな〜と、寂しい思いが
ぬぐえません。
とりわけ、天候に恵まれなかった夏だった場合、「失敗作の夏をやり直して!」
と怒りとあきらめの気持ちが湧き上がってきます。

・・・といろいろな思いが交錯する「Skolestart」。
もう定年になった元教師の友人は、現役時代、「Skolestart」の文字を見るたびに
「また学校が始まる」とブルーになっていたとか。学生も先生も一緒なんですね。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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