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    ウィズ・スタイル マガジン 『北欧 NOW!』

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ウィズ・スタイルマガジン 『北欧 NOW!』 
北欧ノルウェー着 ライフスタイルレポート
【04】


第40回 「新幹線にピンときたら・・・」(2009年3月15日発行 vol.97)


「フランツ・フェルディナンド」って知ってますか?スコットランド出身で、
今や世界的なロックバンドです。そのボーカリストが世界各地の「食」に
ついて「サウンド・バイツ」という本に書きました。
その中には、日本の新幹線が登場します。日本人にとっては何てことはない
新幹線ですが、スコットランド人の彼は「異質」のものとして描写しています。
「新幹線は、英国の列車とは雰囲気がちがう。重度のストレスをため込んだ
猛烈ビジネスマンが我先にと飛び乗ってくる。列車が一分遅れるごとに
きっと二十万円損をするにちがいない。」
(「サウンド・バイツ」アレックス・カプラノス著、白水社)

このくだりを読んだ時、「フランツ・フェルディナンド、お前もか!」の
ような驚きと感慨に襲われました。
時はさかのぼって2月のサロンでのことです。ゲスト講師は日本に90年代初め
から暮らしているノルウェー人ビジネスマン。
彼が日本に興味をもったきっかけがノルウェーのテレビ局が製作した日本に
関する番組だったそうです。なかでも、バブル時代の象徴ともいえる巨大
室内スキー場(今はIKEAになってしまいましたね)と、新幹線の映像が
強烈だったそうです。
新幹線の何がすごいって、あんなに早く走行するのに、毎回、同じ場所に
1センチの狂いもなく停車すること。これは奇跡のような映像だったようです。
その番組から日本に興味を持った彼は、本当に来日して、就職して、結婚まで
したのですから、新幹線が彼の人生を決定づけたといっても過言ではありません
(言いすぎ?)。

さらにさらに、新幹線は、若いノルウェー人の心の琴線にも触れたようです。
オスロで日本語を勉強しているノルウェー人の6人組が、2月に来日しました。
安い居酒屋チェーンで彼らと会ったのですが(あ、もちろんお酒は
飲んでません)、すでに西日本を旅した一行は、新幹線について生き生きと
語りだしたのです。圧倒的なスピードと恐怖の域に達する正確さ。
これらはたとえ先進国から来た彼らにとっても、驚きの体験だったようです。

・・・とみなさんが畏怖の念を抱く新幹線ですが、私たち日本人にとっては
身近な存在すぎて、「そう?」とあまりピンときません。
外国人ばかりが注目して、自国人はほぼ無関心な存在って、まるでノルウェーに
おける「オーロラ」みたい、と思いつきました。
私が最初にノルウェーにきっかけを持ったのは、「オーロラツアー」なのですが、
ノルウェー人からすれば、いつでも見られるオーロラを外国から大金をはたいて
わざわざ見に来るなんてクレイジー、というような冷淡な反応です。
ですから、その「オーロラツアー」をきっかけに、ノルウェー留学を経て、
ノルウェー語を生業にしている私なんて、アンビリーバブルな極みでしょうか。

見慣れた風景を、見慣れない人が見れば、そこに発見が生まれます。
少し違った目で見慣れた風景を見直してみませんか?


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第39回 「極私的ノルウェー日和」(2009年2月15日発行 vol.95)


○月○日
最近テレビでよく見かける青山の北欧レストラン、「Aquavit」を訪れました。
あらかじめの情報で分かっていたのですが、高級家具をおしげもなく配置した
リッチな空間です。1脚50万以上はするような椅子がそこら中に置いてあり、
貧乏性の私は思わず佐川急便のお兄さんと結託して、外に運び出したくなる
衝動に・・・。

ランチに行ったのですが、それでもコースは約5,000円。迷わず、半額で済む
「岡田美里さんプロデュースのランチプレート」を注文。
外国人のウェーターが飲み物を勧めますが、「水でいいです」と断ったところ
「ガス入り?ガスなし?」と確認するので、ガスなしをチョイスしました。
すると、ノルウェーが誇る高級ミネラルウォーター「VOSS」の大瓶がテーブルに
恭しく置かれます。同行の人と「さすが高級レストラン、太っ腹ですね〜」と
喜びながら、お水をいただきます。

肝心のランチプレートですが、デンマーク風のミートボールやスウェーデン名物
の「ヤンソン氏の誘惑」、サーモンやレヴァーペーストがのっかったオーブン
サンドなどが、おしゃれに盛りあわされていました。
向こうで食べるよりも、味付けは全体的に濃厚な感じです。

高級店なので、ウェイターの人がよくテーブルの周りを歩いています。最初に
テーブルに来た外国人ウェイターは北欧人なのかな、と思い「どこから来たの
ですか?」と尋ねたら「アメリカです」との答えでした。
特に北欧とは接点がないそうですが、「スウェーデン人の恋人がいます」と。
それが採用の決め手だったのでしょうか?ナゾは尽きません・・・。

おいしい紅茶まで満喫し、お会計をしようとしたら、なんとあのVOSSの大瓶が
しっかりと1,500円チャージされていました・・・。
ウォータートラップに引っかかった!とセコイことは申しません。
ノルウェーを愛する者として、水との出逢いに感謝しています。


○月○日
以前こちらのエッセイでも取上げた実写版「ヤッターマン」の零号試写会に
行きました。
阿部サダヲさんのノルウェー語のセリフが編集で削られていたら、どうしよう?
とドキドキしながら足を運びます。ぼーと館内に座っていると、雰囲気の違う
女性が近くに歩いてきます。ドロンジョ役で評判の深田恭子さんでした。
私の2列前の席に座られたのですが、両脇は女性の付き人っぽい人ががっちり
ガード体制で座っています。

いよいよ本編開始。あのレトロな撮影所でプリミティブに撮られていたシーンが、
CGの力で全然、別物になっていました。いや〜本当にすごいですね。
阿部さんのノルウェー語のシーンはちゃんと残っていました。
思わずクスクス笑ってしまいましたが、他のみなさんは特に反応ありませんで
した。最後に私の名前もクレジットされていて、カンゲキです。
といっても、相当目を凝らさないと分かりませんが・・・。
まずは映画のヒット祈願です!


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第38回 「記憶の中の景色」(2009年1月15日発行 vol.93)


ノルウェーへは数え切れないほど行きましたが、今でも強く印象に残って
いる景色やイメージは、最初の頃に訪れた時のものです。
たまにふっと思い出すそれらの景色は、懐かしいだけではなく、神秘的な
映像になってきました。
まず第一の景色は、はじめて渡ノルした冬のこと。もう15年以上の年月が
経っています。首都オスロでトラムに乗りながら目にした晴天の雪景色。
どこを走っていたのか正確には覚えていませんが、大きくて可愛らしい北欧式
の邸宅がところどころに建っています。その時に見た印象は、澄んで美しく
晴れた青い空と白い雪、そしてパステルカラーの邸宅という色のコントラスト
が強く残っています。

この景色はトラムの窓から見たもの、という事実も見過ごせません。
オスロ以外の都市でも、よく試しているのはトラムに乗って街を一周すること
です。地下鉄と違い、街の景色や空気感、人々の行き来が手に取るように
分かる乗り物ですよね。
初めての乗車は、自分がどんな場所に連れて行かれるのか、期待と不安まじり
なことも、記憶に強く残る要因なのかもしれません。

第二の景色は、夏の夜です。やはり15年以上昔、まだよく分からないオスロの
街を歩いていました。確か王宮前の広場を歩いていた時、いつまでも明るい
夏の夜を楽しむように、オープンテラスカフェに人々が集い、ワイングラスを
片手に談笑していました。旅行者の私は、その輪の中には入らず、ただ遠く
から美しい絵を見るように鑑賞していたことを覚えています。
小さな頃から、なんとなく憧れていた「白夜」という言葉とともに記憶に
残っている景色です。

白夜は美しく、そして神秘的です。ノルウェーの作家クヌート・ハムスンの
小説、「牧神(パン)」や「ヴィクトリア」を読むと、北ノルウェーの白夜が
描かれていますが、現実社会から逃避したい方にオススメな作品です。
どっぷりと「浪漫的」な気分に浸ることができること間違いありません。

ノルウェー人は夏の白夜を楽しんでいる最中に、迫り来る長い冬に心の底では
不安を抱いている印象があります。夏の美しさは、はかなさと表裏一体のもの
ならでは、と言えるでしょう。
これらの景色をもう一度、同じものを見たいと願い、「この辺りだったかな?」
と記憶をたぐり寄せながら、そこと思われる場所に足を運んだこともありました。
でも不思議なことに、同じ景色を目にすることはできません。
まるで忽然とこの世から消えてしまったような感があります。そうすると、
もはや自分の記憶がどんどん曖昧なものになり、心地よい雰囲気と、もうそこ
には戻れない、という一抹の寂しさだけが残ります。

旅に出る、ということはこうした自分だけの「記憶の絵」を紡ぐ行為を重ねる
ことかもしれません。年月を経ながら微妙に変化をして、いとおしさと懐かし
さをもって回想する断片的な景色。
写真には残っていないけれども、自分の中にある大切なものです。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第37回 「なんて素敵にノルウェージャン」(2008年12月15日発行 vol.91)


 日々、メディアで喧伝される「素敵な北欧」。
北欧の一つ、ノルウェーとこんなに関わってきたのだから、私自身、
「北欧っぽいね」と言われたいものです。でも現実は?
残念ながら、ノルウェーに留学してあちらの水で暮らしても、髪も目も
黒いまま、背も伸びず、アジア人ルックスには変化がありませんでした。
金髪碧眼に憧れたのですが、DNAの変化にまでは至らず・・・。
当然でしょうか?一方、自分の習慣や行動などでノルウェーの影響を
受けた点があります。「私の中のノルウェージャン」とでも名づけましょう。

 例えば、夕食時間がとても早くなりました。毎日、16時半には夕食を
食べています。この時間、日本では「うそでしょ?」というくらい早い
ですが、ノルウェーでは標準的です。
仕事が終わるのが早いし、残業しないし、職場から家がそれほど離れて
いないので、早い時間の夕食が可能なんですよね。
(あとそんなに凝った料理を作らないので、調理時間が短いということも
要因でしょうか)
一度この夕食時間に慣れてしまうと、胃腸にも変化があるようです。
外で19時とかに食べることになると、てきめんに胃もたれを起こして
しまいます。必然的に食べる量を少なめに配慮し、胃にもお財布にも優しく、
結果的に地球にも優しい・・・と自負しております!
でも、あまりに早い夕食時間は、日本では「お年寄りっぽい」という印象
しか相手に与えません。無念です。

 その他の例で挙げると、ある口癖が伝染ってしまいました。「Oi」、
そう「オイ」です。ノルウェー人は驚いた時などに「OiOi」言うのですが、
この表現がすっかり自分のものになってしまいました。
水をこぼした時に、「オイ」。おたまを落とした時に、「オイオイ」。
これって、問題大ありですね。日本では、「オイ、お茶!」みたいな
使われ方が代表的なように、「オイ」はおっさん臭が濃厚です。
そんなことで、「オイ」とかうっかり人前で使った時など、「この人、
偉そうでジジくさい!」と思われることは必至です。
ますます縁遠くなること間違いなしです。

 ノルウェー人と会った時に蘇ってくる習慣というものもあります。
それは、息を吸いながら、「Ja」(はい)と言ってしまうこと。
みなさんも試しに息を吸いながら「ヤー」と言ってみて下さい。どうですか、
まるで呼吸不全に陥ったような響きがありませんか?これがごく自然に、
何の抵抗もなくできるようになったら、あなたも北欧人です!
そう、この息吸いあいづちはノルウェー人だけではなく、他の北欧人も
多用しているのです。ただそうした事実は、北欧外ではほとんど知られて
いませんね。
ここまで書いて、何だか悲しくなってきました。
お部屋のセンスが向上した、とか、自然に親しむ生活といった、「素敵な
北欧」には程遠く、変な習慣しか自分には身についていない事実・・・。
開き直って、わたし流ノルウェージャンを貫いていきます!


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第36回 「『ささいな』動機」(2008年11月15日発行 vol.89)


「どうしてノルウェー語なんて始めたのですか?」という質問は今まで、
数え切れないほど受けてきました。確かに英語と違ってノルウェー語は
マイナーです。
それをやるなんて、相当な「動機」が必要ですよね。でも私の場合は、
観光客としてオーロラツアーに参加したのがきっかけという、何だか肩透かし
の理由です。特に、ノルウェー人は「オーロラ」に大した思い入れがなく、
また「オーロラツアー」なるものが存在することも知りません。
ですからマイストーリーを話しても、芳しい反応がないのが殆どです。

私自身、ノルウェー語レッスンを受講している生徒さんたちにまず「動機」を
尋ねます。「ノルウェーのピアニストが好き」「観光で行ってみたいから」
など皆さん、事情は優雅で風流です。
「ノルウェー語を勉強しないとリストラされる」といった深刻かつ崖っぷちな
動機の方は、今まで出会ったことがありません。そう、きっかけは「ささいな」
ものですよね。もちろん、それから留学、果ては結婚と結びつく人も中には
いるわけですから、人生は分かりません。

先日、ノルウェーの国営放送が制作したテレビ番組のDVDを入手しました。
「Typisk norsk」というタイトルで、これは「典型的なノルウェー人・
ノルウェー語」を意味します。同番組は、「ノルウェー語」について多種多様な
テーマを取上げ、ユーモラスな内容から人気番組になりました。
そのDVDを見ていたら、「ノルウェー以外の外国でノルウェー語を勉強している
人々」がテーマの回がありました。調査対象は、ローマ大学のノルウェー語学科
の学生たち。教室を映すと、何だか画面が黒っぽいのです。
黒いロングヘア、黒づくめのファッションとメイク。何だか学生たちのルックスは
怖い・・・。彼らのノルウェー語学習の動機は、なんと「ブラックメタル」です!
世の中に、メタルという音楽ジャンルがありますが、その中でも更に「地獄」とか
「死」とかダークな世界観を激しいヴォーカルと演奏で構成するのが「ブラック
メタル」です。
北欧はこの「ブラックメタル」が盛んな地域。珍しくノルウェーが他地域を
凌駕するのは、90年代初頭、ブラックメタラーが教会を放火したり、殺人したり、
と反社会的な行動を起こし、ノルウェーのみならず諸外国にまで報道されたこと
に起因します。
以来、ノルウェーはブラックメタラーにとって特別な場所となっていきました。

ローマ大学の学生たちは、全身ブラックメタルに決めたスタイルで、「私は魚と
エビを食べます」といった平和なノルウェー語の文章を復唱していました。
そうしたノルウェー語の地道な積み上げが、ブラックメタルの「地獄の」精神に
近づけるのでしょうか。
「ブラックメタル」という「ささいな動機」から大学でノルウェー語を選択した
学生たちの姿を見て、何だかシンパシーを覚えました。
本人たちが真剣であればある程、お間抜けで愛しいです。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第35回 「ブラーヴォ!」(2008年10月15日発行 vol.87)


 オペラの観劇などで、よく「ブラーヴォ!」って日本人なのに叫んでいる
人がいて、なんともこそばゆい気持ちになるものですが、この度、ノルウェー
人が「ブラーヴォ!」と叫んでも、やっぱり「イタリア人じゃないのに・・・」
と恥ずかしい気持ちになることが分かりました。
その顛末を書き連ねたいと思います。

10月のはじめ、ノルウェー旅行に行って来ました。滞在はオスロが中心で、
中でも4月にオープンしたオペラ座のオペラ鑑賞がハイライトです。
実は、オペラ座は怒涛の成功を収めており、チケットの入手はほとんど絶望的。
出発前にネットで確認しても、立見席以外は全部ソールドアウトでした。
そんな時、同行予定のノルウェー人の友達が入れ知恵してくれたのです。
「日本でノルウェーに関係する仕事をしている。オペラ座を日本で紹介したい
から、チケットくれってメールを出してみたら?」と。
忠告通りに、ノルウェー語でオペラ座にメールを送ってみました。
きっとダメだろう、くらいな気持ちで。
すると、「分かりました。手配しましょう」と嬉しい返事が返ってきたのです!
普段はよくノルウェー人のことをおちょくってますが、この時ばかりは柔軟な
対応に感謝感激。そして土曜日の夜、ヴェルディのオペラ「ドン・カルロス」を
鑑賞するために、いざオペラ座へ!

何度も写真で見てきた風景の実物を見るのは、また一興があります。
海辺沿いに建つ、真っ白なオペラ座は、訪れた人の気持ちを高揚させてくれる
オーラがありました。天気もよく、たくさんの人がオペラ座の「屋根」を
お散歩して楽しんでいます。

建物内に入ると高い吹き抜けが、圧倒的です。白と木目という北欧的な組み合
わせの内装でした。そして何と言っても、ドレスアップした人々が目を楽しま
せてくれます。
今まで、こんなにたくさんスーツとネクタイ姿のノルウェー人の男性を見た
ことはありませんでした!(職場でもノーネクタイ、ノースーツが一般的)
バーやレストランも併設され、華やかな雰囲気ですが、ショップはかなり
いい値段の商品揃えです。
何てことはないエコバッグが6000円!買い物はあきらめました。

さてチケットを受け取りさらにびっくり。なんとバルコニー席の最前列中央と
いう「王室的な」プレスシートを無料で頂くことができました。
開演が迫り、中に入ります。ゴージャスというよりモダンシンプルな内装が
特徴でした。イタリア語のオペラだったので、各席の前に設けられた翻訳
スクリーンが活躍してくれます。
全部で4時間半くらいの上演で、2回の休憩がありました。
休憩時には「当然」アルコールを買い求める人の長蛇の列。肝心のオペラですが、
舞台装置から何から豪華で、すばらしい時間を過ごすことができました。
最後には「ブラーヴォ!」の嵐だったのですが、普段はシャイなノルウェー人が
こんなに叫ぶのね・・・と感慨深いものがありました。
新しいオスロの名所が誕生です。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第34回 「スカンジナビア3カ国 それぞれの働き方は?」(2008年9月15日発行 vol.85)


 スカンジナビア3カ国の人と3日間ほど東京で仕事をする機会がありました。
スカンジナビア3カ国ってどこか分かりますよね?
はい、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーです。
たまに日本の「スカンジナビア展」などでフィンランドが含まれることが
あるので念押しいたしました。

この3カ国の人々と一緒に仕事をして強く感じたことは、「長時間労働は
存在しない」ということでしょうか。
日本では「長すぎる残業」とか「多すぎる休日出勤」が嫌われながらも
しぶとく生息し、時には賞賛の的になります。

一方、労働時間が短いことで知られるスカンジナビア諸国。
本来働かなければならない時間よりも早く帰ってしまうことに、抵抗はないよう
でした。つまり怠け者ってこと?と思われるかもしれませんが、それとも違うのです。
「必要な時はすごく働いて、そうでない時は、とっとと見切りをつける」スタイル
でした。そう、とても「効率的」なんですよね。
ミーティングでもその「効率性」はいかんなく発揮されていました。
すばやく相手のニーズを聞き出し、それに対して的確なアドバイスを行い、
予定時間を超えることはありません。
傍で見ていて、すばらしい集中力だな〜と感心しました。
そしてミーティングが終わると、リラックス。
そしてスケジュールを見て、もう自分がいてもいなくても変わらないと判断すると、
「じゃあ、外を散歩しながら帰るわね〜」とお先モードです。
早く帰ってしまっても、ミーティングなど大事な際に優秀さをアピールしているので、
「なんで先に帰るのよ!」という気持ちは全く起きませんでした。
むしろ、こういう効率的な働き方が、なんで日本の会社では認められないのか、
そうすれば過労死とか労働問題も減るのに・・・と感慨深かったです。

さてスカンジナビア3カ国と申しますが、その中でも似ている点もあれば違う点も
あります。
やはり日本に来る!しかも自腹でなくて公費で!ということで3カ国の人々はみな、
嬉しそうでした。とは言ってもやはり日本出張は高くつきます。
スウェーデンとノルウェーからはそれぞれ代表1人のみの来日でした。
それに対してデンマークチームは太っ腹。4人も一挙に来日です
(容姿も太っ腹な方が多かったです)。

仕事以外の観光をみなさん楽しみにしていましたが、それが一番あからさまだった
のもデンマーク人でした。
「JAPAN」と書かれた分厚い旅行ガイドブックを仕事中にもみんなで回し読み。
途中、4人中3人が仕事場から早々に消えたことがあったのですが、聞けば
「原宿にコスプレの人たちを見に行く」ためだったとか・・・。
ノルウェー人とスウェーデン人はここまで「観光」モードではなく、
「なんでデンマーク人が4人も来たのか不思議」と言ってました。
何はともあれ、スカンジナビアに憧れる日本の皆さん、「仕事はとっとと」
終わらせましょう。それがあの人たちに近づく一歩です。 


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第33回 「ヤッター、ヤッター、ヤッターマン!(後編)」(2008年8月15日発行 vol.83)


 かの撮影所は歴史のあるところだそうですが、同時に老朽化も相当なもの、
というのが第一印象でした。
撮影中のスタジオに入ると、大掛かりなセットが主役であり、その合間に
人間がちょこまか働いています。私がお邪魔した時は撮影真っ最中。
ノルウェー語のセリフを話す役者さんは、非日常的な衣装を身に付けてました。
「撮影の休憩が入ったら、ご挨拶しましょう」とプロデューサーに説明され、
セット内で椅子に座って待つことに。
ぼーとみんなの仕事を見ている間、肝心の役者さん、阿部サダヲさんが
私の方へ歩いてきました。
そして、「お待たせしてすみません。今回はよろしくお願いします」と
ご丁寧に挨拶されるではないですか!意外な展開にびっくりした私は慌てて
立ち上がり、「こちらこそ・・・よろしくお願いします」と言うのだけで
精一杯でした。
私のような下っ端にまでわざわざ挨拶してくれるなんて、好感度さらにUPです。

ようやく食事休憩になり、いよいよ阿部さんの楽屋へ行くことに!
助監督も一緒だったのですが、挨拶が目的というより、ノルウェー語の
セリフ練習をしたがっています。
ということで阿部さん相手に、出張ノルウェー語レッスンを開始しました。
顔にすごいメイクを施した阿部さんは、真面目にノルウェー語のセリフを
読んでくれました。
初心者の人が苦手なrの巻き舌も完璧で、やっぱり役者さんって器用なのね、
と感心しきりです。
本当に上手だったので、それほど直す箇所もなく、レッスンは早々に切り上げ
ました。あとは本番の日です。

本番当日、阿部さんは別の衣装を着て佇んでいました。何シーンか撮って
いよいよノルウェー語のシーンです。
ここまであまり良く分からないまま展開が過ぎていきましたが、ようやく
自分の出番です。阿部さんのノルウェー語がきちんと発音されているか、
チェックするのは私です。段々、重圧を感じてきました。さあ本番です。
阿部サダヲさんは、おそらくご本人の耳には不可思議なノルウェー語のセリフを
ちゃんと発音していました。覚えるだけでも大変なのに、発音も相当にお上手です。
でも、私はこの状況がおかしくてなりません。
セットを組んで、ちゃんと衣装を着て、そしてなんでノルウェー語のセリフを
しゃべっているんだろう?って。あまりにシュールすぎます・・・。
つい笑っていたら、監督に「先生(←不肖、私のこと)が笑っている」と指摘
されてしまいました。

何テイクか撮影しましたが、阿部さんのノルウェー語は完璧で私から直すところは
ありませんでした。
撮影終了後、私が阿部さんのファンだと知っているプロデューサーが気を遣って、
私と阿部さんのツーショット写真を撮ってくれ、またサインも頂けました。
冥土の土産とありがたく頂戴しました。

「ノルウェー便利屋」をやっていて本当に良かった!
陽の当たらない仕事、万歳!と思える体験でした。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第32回 「ヤッター、ヤッター、ヤッターマン!(前編)」(2008年7月15日発行 vol.81)


 いろいろ肩書きはありますが、私の仕事は「ノルウェー便利屋」。
細々ながらも10年以上やっていると、時に笑える依頼が舞い込んできて、
加齢化する脳と精神を刺激してくれます。
それは4月のある日のこと。仕事の依頼の電話でしたが、内容は「実写版
“ヤッターマン”にノルウェー語のセリフがあるので、その翻訳&発音する
姿の映像撮り&撮影現場の立会い」と、にわかに信じがたいものでした。
アニメ「ヤッターマン」は見たことがなかったのですが、こんな面白い仕事は
二度とないかも?と思い「はい」と即答しました。
さらに後になって、このセリフを言う役者さんが、自分が大ファンの人と分かり、
テンションはピークに!
「地球に生まれて良かった〜!こんな陽の当たらない仕事を続けていて
良かった〜!」と地球とノルウェーに感謝したほどです。

セリフは3つだけで翻訳は簡単でした。でも簡単でなかったのが、映像撮りです。
映画会社に赴き、プロデューサーがビデオカメラを構える前で、3つのセリフを
「ノーマルスピード、ゆっくりスピード、1語1語はっきりスピード、つなげる
単語をつなげてゆっくり目スピード」と4段階のスピードで、それぞれ10回
づつ言わなくてはならないのです。
最初のうちこそ、「この映像を、憧れのあの方が見るのね」と少しでも美しく
撮って!と気合があったのですが、何度も同じセリフを言っているうちに、
上げなくてはいけない口角は下がり、目はどんよりと濁り、皮膚もカサカサに
なっていくのが自分で分かりました。
(こんなに苦労して撮ったビデオですが、なぜか音声が入ってなかったと、
後日、撮り直しがありました・・・)

訳の分からない国の言葉を呪いのように何度もつぶやく中年女のビデオを見なく
てはならないなんて、本当に役者さんって大変なお仕事・・・。
自虐まじりの同情をしてしまいました。とはいえ、撮影当日にはご本人に会える
のです!その場面を想像してはニヤニヤする、という行為を繰り返す日々を過ご
しました。でも心配もあります。
例えば、「セリフのカット」。
もともとノルウェー語のセリフは脚本にはなかったのですが、監督の「入れたい」
という一言で決まったそうです。
そんな気まぐれな監督ならば、「やっぱいらね!」と考えを変えるのも大いにあり
得ますよね。もしそうなったら、あの不気味な映像だけが残って、お役御免という
最悪の結果が・・・。

不安と期待に入り混じった気持ちで、とうとう撮影当日まで数日になりました。
プロデューサーから電話があり、「撮影当日前に、一度撮影所に来ていただいて、
役者さんとご挨拶して頂けませんか?」「え??」
イメージとして「芸能界は挨拶が大事」は分かります。
でも私ごときが挨拶だけで撮影所にお邪魔してもいいんですか??
またもや悩みが増えました。

そんなこんなでいよいよ撮影所に参上する日が来たのです(後編に続く)。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第31回 「ノルウェーでうらやましくないこと」(2008年6月15日発行 vol.79)


 ノルウェーに留学し、ノルウェー語を生業にし、ノルウェーに関する
サイトなどを運営していると、周囲の人から「本当にノルウェー好き
なんですね」と言われます。
昔は、「はい」と一点の曇りもなく笑顔で答えていましたが、最近は
「え、ええ」とやや顔をひきつらせて答えるようになってしまいました。
もはや、「ノルウェー大好き!」と全肯定できるほど純な心はなくなって
しまったのかもしれません。

無論、ノルウェーでうらやましいこと、好きなところはたくさんあります。
その一方、「日本に住んでいて良かった」と思うような事象に出会うことも
あるのです。今回はそうした「うらやましくないこと」を列挙したいと思います。

まず、ノルウェーにある制度「出産番号制」の存在です。「国民総番号制」
とも訳されるこの制度は、ゆりかごから墓場までついてまわります。
番号は全部で11桁。最初の6桁は自分の誕生日です。
例えば、1956年8月31日生まれの人の場合、310856がその番号になります。
その後ろに、国から与えられた5桁の個人番号がついて完成です。
この番号は、私のような留学生でも取得する必要がありました。
これがないと、銀行口座が開けないし、ありとあらゆる日常生活に支障を
きたすのです。で、何がこの制度でうらやましくなかったかと言うと、
理由は簡単。すぐに自分の年齢がばれてしまうことです。
もちろん人の年齢を知りたい場合には、便利な制度と言えるかもしれません。
人の銀行カードをこっそり覗き込み誕生番号を見ると、「うわ〜この人、
意外と年だったんだ!」って驚くこともしばしば。
当然、逆のパターンもあり得ますから、両刃の剣です。

その次に、うらやましくないことは、「自分の年収、納税額、財産などが
高額納税者でもないのに、白日のもとにさらされること」でしょうか。
日本では「個人情報の漏洩」を理由に、高額納税者の発表が見合わせられて
久しいですが、ノルウェーでは、あるサイト上で、万人の情報が公開されます。
知りたい人の名前、市町村などを入れると、前年度の年収、納税額、財産
そして何年生まれかまで記載されている「恐怖サイト」。

この存在を知った時には本当に驚きました!

作家や有名人の名前を入力して、「この人、こんなに稼いでいるんだ〜」って
感心しています。
ただ、もし自分がノルウェーで暮らしていたら、同じように調べられて
「うわ、収入すくなっ!」などと、ばれちゃうことも大いにあり得るので、
「日本に生まれてよかった〜」としみじみ愛国の情がわいてきます。

今挙げたうらやましくないことは、「個人情報」にまつわることです。
これだけ個人情報が国によってさらされてしまうと、人は個人情報にやや鈍感に
なってしまうかもしれません。
というのも、向こうの個人サイトでは本名はもちろん、住所や携帯番号まで
ご丁寧に記してあるものがあるんです。さらしすぎでしょ!


青木順子 (あおきじゅんこ)

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