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    ウィズ・スタイル マガジン 『北欧 NOW!』

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ウィズ・スタイルマガジン 『北欧 NOW!』 
北欧ノルウェー着 ライフスタイルレポート
【05】


第49回 「ノルウェー人学生30人がやって来た!(嵐の後編)」
(2009年12月15日発行 vol.115)


そして当日の11月3日。天気は晴れていましたが、寒い日でした。
最初の見学場所は、お台場の「日本科学未来館」で、ロボットのasimoの
パフォーマンスを見るのが主な目的です。待ち合わせは10時半。
日本人の生徒さんは集まってきたのですが、肝心のノルウェー人たちは来ません。
嫌な予感がすると携帯が鳴りました。「ごめんなさい、これからホテルを
出発するから」と引率役のイーナからです。
え?今から新宿のホテル出発と言った?でも、日本人チームは「ノルウェー人
だから仕方ない」モードになっており、私たちだけでasimoのパフォーマンスを
見て館内をブラブラしていたら、ようやく「到着した!」という連絡が入りました。

はい、1時間遅れです。で、入り口からエスカレーターで続々上がってくる
ノルウェー人の集団を見たら、なぜか脳内を「スターウォーズ」のダースベーダーの
テーマソングが鳴り響き、「黒船来襲!」と、気分は幕末です。
とりあえず、人数が40人と多すぎるので、日本人2人とノルウェー人数人を1セットで
4つのグループに分けて、行動することを提案したのですが、はっきり言って無意味でした。
ノルウェー人たちは、てんでバラバラに行動するので小グループでも収拾不能・・・。
ただ「14時にasimoの前」という集合だけが有効で、14時にasimoのパフォーマンスを
日本の子どもたちに混じって、すごい熱心に見学していました。

その後ヴィーナスフォートでランチをして、最終目的地のサンシャイン@池袋に行く
ことになっていました。当然、電車で移動するのかと思っていたら、イーナが「海上バス」で
竹芝桟橋へ移動し、浜松町からJRで池袋に移動する、と教えてくれてしばし絶句・・・。
でも日本人チームは唯々諾々とプランに従い、海上バス乗り場へ向かいます。
するとバスは1時間に1本しかなく、あと5分後くらいで出発・・・!しけたチケット窓口で
40人分のチケットを先生が買ったはいいけど、一人ずつお金を徴収しています。
船に乗ってやればいいのに桟橋でモタモタやっているので、「もう出るよ」と船のおっちゃんに
脅かされ、先生の名前を何度も絶叫し、ようやく全員船に乗り込み完了。
私は肩で息をしていました。そこまでして乗った船なのに、外の景色を見ないで寝込んで
いる学生が・・・。
ようやくJR浜松町駅に到着し、大人数で山の手線に乗り込みます。車内はそこそこ混んでいて、
みんなが座れなかったのですが、いきなり座席と座席の間の通路に座り込んだ学生たちが
何人かいたり、椅子の上で変なポーズで写真を撮り合って盛り上がっていたり、同行の
私たちは「他人のふり」を決めこみました。
そして最後のサンシャインとナンジャ・タウン。その後の彼らの行状は、皆様のご想像に
お任せします。非情の現地解散でした。

とりあえず、みんな生きているかな?


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第48回 「ノルウェー人学生30人がやって来た!(嵐の前編)」
(2009年11月16日発行 vol.113)


それは1通のE-mailから始まりました。8月末、私が最初にノルウェー語を
学んだヴォルダ・カレッジの先生から、「秋にノルウェー人学生グループが
日本に行くので、会ってもらえると嬉しい」という内容で、「楽しみです」
とあまり考えずに返事しました。
まあこのエッセイのネタにもなるし・・・とその時点では深く考えていな
かったのです。その後、学生グループの引率の先生から、「東京で、
あなたとノルウェー語の生徒と1日、一緒に行動できませんか?」という
提案がありました。
ノルウェー語の生徒さんは普段、ノルウェー語を使う機会もないし、
面白いだろうと、それに対しても「Ja」の返事を返したのです。

ただ若干の不安はありました。ノルウェー人の学生は、てんでばらばらで
集団行動なんかに慣れていない、ということを何度も経験していたからです。
それから10月の中旬に、引率の先生から東京でのスケジュールと共にメールが
来ました。11月2〜5日までの予定を見ると、原宿や秋葉原はもちろん、渋谷、
お台場、池袋など普段、人ごみがイヤで避けている場所ばかりセレクトされて
います。しかもやって来る学生の数は30人!カオス状態になるのは目に見えて
いましたが、ノルウェー語の生徒さんたち、7人が11月3日に1日付き合って
下さることになりました。

先生たちは10月26日に成田に着くので、宿泊先のホテルで打ち合わせを兼ねて
15時に会うことになりました。そこへ行く途中、携帯が鳴り、引率の先生から
でした。なんとコペンから飛行機が3時間も遅れて出発し、まだ成田にいると
のこと。15時にホテルで会えないので、「君が成田に来るか、または夜に
ホテルで会うか決めて欲しい」と言われ、最初は成田が遠いので、夜に
しましょうと答えて電話を切ったのですがちょっと考え込みました。
というのも、先生たちはノルウェーから、学生たちは最初の滞在先、オースト
ラリアから別便で来るのです。先生たちは到着が遅くなったので、夕方に
到着予定の学生たちを成田で待つ、と言っていました。
となると、一体、今夜何時に会えることになるか、読めない・・・。
私は自然と箱崎へ向かい成田行きのリムジンに乗っていました。
先生に電話すると明らかにほっとした様子。しかし成田は遠いです!
やっとの思いで空港に到着したら、2人の先生はビールを飲んでリラックス
してました・・・。
食べて飲んで話しながら、学生たちを待ち、ようやく18時頃、一行が到着。
成田からホテルへ向かいます。チャーターバスとガイドがいたのは良いのですが、
なんとガイドが英語もできず、なぜか私が通訳する羽目に・・・。
これ無償労働なんですけど。自分が蟻地獄にはまっていく感覚におそわれ、
ホテル到着後、夕食の誘いを断り、ダッシュで帰宅。
向こうのペースに引っ掻き回された初日で、3日への不安が増すスタートと
なったのです。(つづく)


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第47回 「さび〜しさに〜負けた〜 -わたしのFacebook顛末記-」
(2009年10月15日発行 vol.111)


最初は何のことか分かりませんでした。Facebookなるものです。
ここ何年かノルウェーの新聞で、頻繁にFacebookの文字が踊っています。
記事を読んでみると、mixiのようなSNSであり、今ではたくさんのノルウェー人が
Facebookにはまっている、といった内容でした。ただmixiと違うのは、実名で
登録するので、昔の同級生や同僚を検索して探し、交流が復活できる点にも、
「なるほど」と感心し、「私もやってみようかしらん?」と心が動きました。

・・・とは言うものの、モノは外国産です。おまけに実名をさらすので、
慎重さが必要です。ノルウェー語の生徒さんたちに、「Facebook、使ってる?」と
リサーチし、ようやく一人の生徒さんから、「楽しいですよ。先生もやりましょう
よ」と後押しの言葉をもらいました。

・・・とは言うものの、ものぐさなのでしばらく放置していました。しかし昨年末、
人から全然メールは来ず、レッスンも冬休みに入り、強烈な孤独感に襲われたのです。
そして、「さびしさに負けて」とうとう、Facebookの登録画面にアクセス。
いろいろと個人情報の入力が必要なので、挫折しそうになりましたが、無事、登録に
こぎつけました。

・・・とは言うものの、これから「友達」を増やしていかないと孤独地獄から脱却
できません。まずは誘ってくれた生徒さんに「友達になって」メッセージを送信。
承認してもらってやっと一人ゲット。ふ〜。それから、知り合いのノルウェー人の
名前を検索し、見つけては「友達になって」メッセージを送る作業を何回か繰り返し
ました。そうやって「友達」になったノルウェー人は、何百人単位で友達がいたりして、
「す、すごい・・・」と絶句。
一方、私の「友達」はヒトケタどまり・・・。
友達承認プロセスが終わっても、別に誰からもメッセージは送られて来ないし、なんだか、
却って孤独感が増していくような・・・。これでは逆効果です!

あとFacebookの画面上では、「友達」が頻繁に写真をUPしていて、楽しいキャプションを
付けています。「みんな、楽しい日々を過ごしているのね〜」とまたまた孤独感が
募ります。
でも私はパーティに行くでもなく、旅に出るでもなく、そもそも日常的に写真を撮る
習慣がありません。私の登録画面は、少ない友達と少ないメッセージ、一枚もない写真で
構成されており、却って他人に、「この人は寂しい人なのだ」と知らしめる物と成り果てて
しまいました。

決定的だったのは、ノルウェー人の高校生たちと会った際、「Facebookやってる?」と
日本人グループに声をかけてくれたのですが、自分の登録画面を人に見せるのが恥ずか
しくて言い出せませんでした。
そして誰にも知らせず登録を解除し、私の短いFacebook体験は終わりました。
挫折の味は・・・却ってすっきりしました!


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第46回 「あこがれの北欧風住宅」(2009年9月15日発行 vol.109)


私が一緒にサイトを運営している管理人のYokoさんは、日本では珍しい
本格的な北欧風住宅にお住まいです。国内でも有数の有名な北欧住宅
メーカーSH社が施工した、と書けばピンとくる方もいらっしゃるでしょう。

私は年に数回、心の底から「あの家に行きたい!」と強い欲求にかられます。
ノルウェーが懐かしいとき、ともかく気分にひたりたいとき。私は、何度も
お邪魔しました。お宅の周りは豊かな自然に囲まれ、家の外壁は北欧でよく
見られるボルドーレッドです。
玄関を開けると、ノルウェーの家と同じ木の香りがします。
この素敵なお宅に、ノルウェー語の生徒さんたち&元生徒さんたちと住宅
見学ならびにワッフルパーティを催しました。
家に到着した一行は外観から興味津々。自身が建築家でもあるYokoさんの
説明を聞きながら、いよいよ家の中へ。1階はバスルームやベッドルームなど、
2階がリビングやキッチンです。ともかく木目が心地よい空間で、そこに
さりげなくノルウェーのニッセ人形(サンタ)や絵などが飾られています。
2階のリビングは高い吹き抜けの天井と薪ストーズが印象的。
そして広いバルコニーと日よけのオーニングがTypisk norsk(典型的なノルウェー)!

お楽しみのワッフルの前に、私が最近読んだノルウェーの新聞から興味深い
記事をピックアップし、みなさんに解説します。遅れてきた方が合流したので、
いよいよワッフルタイム!ノルウェーのワッフルはハート型なんですよ。
ワッフルのトッピングには、ノルウェー産のブラウンチーズ(ヤギのチーズ)、
ジャム、生クリーム。せっかくなので、バルコニーでいただくことにしました。
焼きたてのおいしいワッフルを頬張りながら、ノルウェー好きのみなさんで、
「どうして他の北欧諸国に比べて、ノルウェーはマイナーなのか?」と
いったテーマでお話が弾みました。ノルウェーというとどうしても、サーモンとか
バイキングとか男性的なイメージで、現代日本の消費のけん引役であるアラサー
女性の心をつかまないと、ともっともな意見が出ました。
でもどうやって?となると、なかなか妙案が出ません・・・。
あとノルウェー人男性と日本人女性の出会い系ビジネスをやってみたい、という
私のよこしまな意見は、さわやかな会の雰囲気に全く似合わず、一笑に付されました。

ワッフルをたらふくいただいた後は、ノルウェーの人気番組のDVDを見たり、
最新のポップバンドMonzanoのCD(いずれも、みなさんが持参されたもの)を
聴いたりしてお開きになりました。
家の様子は、以下のURLからご覧になれます。
http://norwayyumenet.noor.jp/hp/frameliv.htm


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第45回 「これも愛、あれも愛」(2009年8月15日発行 vol.107)


かれこれ4年前のこと。オスロからトロンハイム行きの電車に乗った時、
前の座席に女性が座っていました。地味な人でしたが、すんごい泥臭い
男女の絵が描かれた表紙の本を取り出し、熱心に読みふけっていました。
絵柄からいって中世ものでしょうか。何となく雰囲気から「ハーレクイン
ロマンス」的な香りが漂ってきました。
「ふ〜ん、ノルウェーにもこういう本があるんだ。」無知な私は感心しました。
そしてそれ以降、本屋などで注意深く観察すると、ありました、ありました。
男女がひっついている泥くさ〜い表紙のシリーズ物が並んでいます。
「ノルウェー人でも読む恋愛物ってどんな内容?」と興味はありましたが、
向こうの本屋はカバーをかけてくれないので、買うのは気が引けます。

そんなこんなで月日が流れましたが、ついに今年、思わぬ形で手に入れる
ことができました。とある女性誌を買ったら、その手の本がおまけに付いて
たのです。
ふふふ・・・これでノルウェー人の恋愛の機微が白日のもとに!
若い男女がスケート場でいちゃついている表紙の本編を読み始めました。
舞台は1928年。お金持ちのお嬢さんと使用人の男性が、周囲に互いの恋心を
ばれないように、でもやることはやっている作品でした。
この手の本はシリーズ物なのでまだ第1巻。「愛してるのよ、愛してるのよ!」と
お嬢さんは叫びますが、さて2人の運命はいかに・・・。

このシリーズ物は大手出版社から出ている「ノルウェー・シリーズ」の1冊です。
調べてみたところ、ほとんどの作品の時代設定は、中世、19世紀、戦前など
昔の話ばかりです。やはり思いっきりロマンチックな愛は、貧富の差や階級差、
男女平等でない時代の方が燃えるのでしょうか。
逆にいうと現代はそれだけ恋愛の障害が少なく、つまらない時代なのかもしれません。

ちょっと調べただけで断言はできないのですが、これらの「恋愛本」は
ノルウェーが生んだ偉大な女流作家シグリ・ウンセットの影響があるように感じます。
ウンセットは「クリスチャン・ラヴランスダッテル」という歴史大作でノーベル
文学賞を受賞したのですが、無味乾燥な歴史ものというより、恋愛が大きな
ウェイトを占める作品です。
美貌の娘が親に反対された男性と恋の火花を燃やし、親の決めた婚約者ではなく、
自分の愛をつらぬきます。しかし娘は結婚生活で夫に絶望し、宗教に救いを
求めるというシリアスな内容なので、「ハーレクイン」ではなく、
「ノーベル文学賞」に選ばれたのですが。
ただ、ノルウェーで量産されている恋愛本から、時代は中世、許されない恋など
ウンセットの影響が見て取れます。
ただし、「ノルウェー・シリーズ」の作家たちは、どうも日陰の存在のようです。
恋愛物の大家のある女性作家は、「ノルウェー作家協会」のメンバーになりたいと
申請したのに、2度も却下されたとか。
日本では渡辺淳一が直木賞の審査員なのに、お国柄でしょうかね?


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第44回 「ありふれていないカーリの物語」(2009年7月15日発行 vol.105)


カーリという名前はノルウェーではごくありふれた女性の名前ですが、
私の知っているカーリ・ヒルトさんは、全くありふれたところのない
人でした。
彼女は日本のノルウェー大使館で外交官として活躍し、6月末に離日
しました。カーリとの思い出をつづりたいと思います。

彼女との出会いはもう10年以上前。私がノルウェー政府の奨学生の
申請を行った際、面接をしてくれたのがカーリでした。
日本の文部省からもお役人が同席していたのですが、事前にたくさん
の書類を提出していたのに、全然目を通しておらず、的外れな質問を
繰り返すばかり。
それとは対照的にカーリは、「あなたの書類はもう読みました。
質問はありません」とさらりと言ってくれました。
結果、奨学生に選ばれたのですが、あの時のカーリの仕事に対する
真摯さは忘れられません。
カーリは一度帰国し、2005年に再度、日本赴任となります。
2006年はイプセンイヤー、2007年はグリーグイヤーとビッグプロジェ
クトが目白押しの時期でした。日本でも関連のイベントがたくさん
催されたのですが、いつも積極的にPRをしていたカーリの姿が印象的でした。

こうした大きなイベントでも、彼女の機動力は発揮されましたが、
小さなイベントにもまめに顔をだし、個人のつながりを大事にして
いました。
私が主催をしている「ノルウェーについて学ぶサロン」にもゲスト講師
として来てくれました。また気軽に、ランチやイベントに誘ってくれたり、
自宅に招待してくれましたが、そんなことは今までの外交官では経験が
ないことでした。
たくさんの日本人の友達がいて、関連のある人を引き合わせ、ネット
ワークを作る才にも長けた人でした。大使館でレセプションが催されると、
いつもたくさんの人の間を縫って、エネルギッシュに動き回っていた
彼女の姿が忘れられません。
エネルギッシュ、といえば、こんなにエネルギッシュなノルウェー人に
会ったのは初めてでした。頭の回転も速く、常にたくさんのアイディアで
頭の中は占められているようでした。
一緒に食事をする時、苦労をしたものです。カーリはとても早口で、
食べるのも早い。私は彼女のノルウェー語についていくのと、食事の
ペースをあわせるのに、いつも「臨戦態勢」でした。
食事が終わるとぐったりしたのは、言うまでもありません。

カーリが離日する前、ノルウェーに縁のある日本人&ノルウェー人音楽家たちが
「さよならコンサート」を開催しました。
会場には、彼女との別れを惜しむ人でいっぱいでした。コンサート終了から数日後、
彼女のお気に入りの場所、品川の原美術館でランチをしました。
いつものように私の仕事のプランを聞いて、彼女の口から楽しいアイディアが
ぽんぽんと出てきます。
お互いにノルウェーで逢えると信じているので、別れはしんみりしたものではなく、
さっぱりしたものでした。それでも、きっとこれから寂しくなるのでしょうね・・・。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第43回 「最高の季節に」(2009年6月15日発行 vol.103)


5月の終わりから6月の初めにかけて、ノルウェーへ行って来ました。
向こうでは会う人ごとに「最高の季節に来たね」と言われました。
本当にその通り!どこまでも続く晴れた空、夜の10時すぎまで明るい外。
オープンカフェに座ってビールを飲んでいるだけで、「幸せ!」と実感する
ことしきりです。

今回の渡航目的は、「翻訳者セミナー」に参加するためです。ノルウェーの
外務省がスポンサーになり、ノルウェー文学を海外に紹介する機関が主催した
一大イベントです。31ヶ国語、120人以上の翻訳者が歴史あるホテルKlaekken
(クラッケン)に集まりました。セミナー初日、外務大臣のスピーチがありました。
政治家らしからぬ美中年で、大ファンの私はもう大喜び。
長旅の疲れもふっとびます。それから基調講演、分科講演会がみっちりと
続きました。興味深い内容の講演が多く、「どれに参加しようかな?」と
迷うほどです。一番印象深い講演は、児童文学作家のグロー・ダーレがパ
ートナー兼イラストレーターのスヴァイン・ニーフースによるものでした。
家庭内暴力を少年の目線で語る絵本の紹介、と聞くと「重い!」と想像され
るかもしれませんが、2人は息の合った明るいプレゼンで、聴衆を沸かせます。
DVは日本でも大きな社会的問題なので、何らかの形でこの絵本を紹介したい、
と強く感じました。講演後、思いきって作家に話しかけてみたところ、気前よく
「本をあげるわ」と言い、とてもユニークなサインをしてくれました。
普段会えない作家との交流は、何ものにも変えがたいです。

さて、たくさんの国から集まった翻訳者同士の交流、というのも本セミナーの
主目的の一つ。ワークショップではグループに分けられ、それぞれテキストが
与えられました。各国の翻訳者が翻訳する上での問題点や、自分ならばどう翻訳
してみるか、いろいろと意見を交換する趣旨ですが、まずはみんなの自己紹介。
フランス、ドイツ、東欧などの翻訳者たちがいたのですが、キャリアを聞いて
みると、たくさんの翻訳をこなしている人ばかり。そんなにノルウェーの本を
出版してくれる太っ腹な出版社があるんだ〜って、極東から来た私には、羨望の
ため息でした(ちなみに中国では今、イプセンが人気です)。

その他、著名な作家たちや大手出版社のエージェントを招いた夕食会やレセプ
ションなど、ぜいたくで濃密な時間を過ごすことができました。
ところで、このセミナー開催には莫大なお金がかかっています。参加者全員の
往復交通費、ホテルの宿泊や食事は全て外務省が負担。ノルウェーという
「小国」の文学を、いかに海外へ発信を続けていくか、気合が感じられます。
ともすれば何でも「民間まかせ」な国の国民からすれば、国が文学という
ジャンルをここまで大切にしてくれることにも、またまた羨望のため息が出る
思いでした。最高の季節に感謝しつつ・・・。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第42回 「お笑いと会話上達の相関関係」(2009年5月15日発行 vol.101)


世は「お笑い番組」花盛り。芸人の顔をテレビで見ない日はありません。
私は熱心なお笑いファンではありませんが、たまにお笑い番組を見ると
ノルウェー語上達との相関関係を見つけることがあります。
それはどんなものでしょうか?
さて、ノルウェー語の生徒さんたちの悩みは、「なかなかノルウェー語が
話せなくて」というものです。テキストを読み訳すことはできても、実際
の会話はそう簡単にはいきません。
私もノルウェー語の学習を始めた当初、同じ悩みを持っていました。
特にノルウェー人と会話となると緊張してしまい、簡単な質問も「え?何て
言っているの?」とフリーズ状態です。

質問が聞き取れない⇒会話が続かない⇒自信を喪失する⇒ノルウェー人を
見ただけで緊張する、と負の連鎖に陥っていました。
こうした傾向は最初に留学した当初、顕著でしたが、会話ができないなりに
少しずつ気づいたことがありました。それは「みんなの質問がほぼ同じ」と
いう事実です。
「なぜノルウェーに興味をもったの?」とか「なぜノルウェー語を勉強しよ
うと思ったの?」とかです。さすがに同じ質問を繰り返されると、何を聞か
れているか理解できるし、答え方も分かってきます。
同じ答えを繰り返せばいいのですから、段々、流暢にその部分は話せるよう
になってきました。すると1分ほどの会話で、「君のノルウェー語は上手だ
ね!」と人の良い(単純な)ノルウェー人は誉めてくれるのです。
同じ質問を聞かれる⇒決まった答えを答える⇒好反応をもらう⇒自信が持て
るようになる、と負の連鎖からの脱却です!
いわば、「滑らない」会話フレーズを作る作業と言えるでしょう。そして、
最初は1つか2つの「滑らない」話をどんどん増やしていくのが、会話を
楽しむ醍醐味です。自分なりの「新ネタ」を、まずは少人数の親しいグル
ープで試してみて、相手がウケてくれたら、今度はもっと大人数の前で試
してみます。
これでもウケたらこれは「鉄板ネタ」に昇格、てな感じで自信を持って話せ
る会話レパートリーを広げていきます。

ところでお笑い番組で感心することですが、芸人はちょっと会話を振られれば、
その人の独断場に持って行く手腕がすごいですよね。こうしたテクニックも、
会話上達で見習いたいもの。例えばパーティーなどで、話題に付いていけない
場合、黙っていると、「日本ではどう?」と会話がふられる場合がありますよね。
こんな時は絶好のチャンスです。難しいことを言おうとせず、何か言葉を発して
みると次のステージが見えてくるでしょう。
とは言うものの、会話は想定外の話題に及ぶから面白いもの。
いきなり「ところで日本人はいつからじゃがいもを食べ始めたのですか?」と
聞かれた時には、思わず絶句してしまいました・・・。
こんな時は芸人のリアクション芸を見習いたいものですよね。
「むちゃぶり」ってノルウェー語で何と言うのかな?と考えつつ・・・。


青木順子 (あおきじゅんこ)

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第41回 「北欧の美青年」(2009年4月15日発行 vol.99)


文豪トーマス・マンの名作「ヴェニスに死す」は、かのヴィスコンティが
映画化しています。
作中に登場する、稀代の美少年を演じたのはスウェーデンの若い男の子でした
(原作ではポーランド人の役)。
そんなこともあってか、北欧=美少年・美青年の宝庫、というイメージがある
ような気がします。初めてノルウェー留学に旅立つ前、「金髪イケメンを
がんばってつかまえてきて!」と叱咤激励を多々受けましたが、結局、誰からも
何のお声もかからず、すごすご帰国。今に至っています。

ただ、ノルウェーにいる間、心の琴線に触れるような美少年・美青年との
出逢いは残念ながらありませんでした。せいぜい、永遠の美青年で現外相の
ストーレ氏と握手した際に、心がときめいたくらいです。

そんなことで、オスロの国立美大の学生グループが3月末〜4月に来日した際も、
特に心の高まりなど何もなく、淡々と通訳をこなそうと考えていました。
「あ〜、また若い兄ちゃん、姉ちゃんが来るのね」くらいのスタンスです。

幾つかのデザイン事務所を訪問する日程だったのですが、1箇所目の訪問では、
通訳と引率にあっぷあっぷで、彼らのルックスをチェックする余裕などありま
せんでした。

でも、運命の時は2回目の再会時にあったのです。
私が提案して、みんなでお好み屋さんに夕食を食べに行くことにしました。
店で集合だったのですが、なかなか場所が分からない学生が多く、先に到着した
メンバーと4人がけのテーブルに座って待ちます。
その中のある男の子の顔をよく見ると、うわ〜、すごい美しい御顔!
ダークな色合いの洋服に映えるあまりにも整った顔立ち、黒いウェーブした髪が
かかる白い額、そしておしゃれなタトゥーが施された繊細な手首・・・。
マッチョなタイプというより、アンドロギュヌスな魅力をたたえた美青年に私は、
ノックダウン寸前でした。

自分でも驚いたのですが、こうした至福の光景を見ると、顔ってにやけるん
ですね。すっかりスケベなおっさんに変身いたしました。
これからこの素敵な彼と、お食事ができるんだわ、と喜びにあふれましたが、
なんと痛恨のテーブルチェンジが!彼はあっけなく別のテーブルへ・・・。
待って〜!心の中で叫びます。
代わりにやってきた男の子に殺意を含んだ視線を送っても、気づくはずもなく、
すっかり腑抜け状態で食事と会話のノルマを果たしました。
少し気を取り直し、せめて「記録を取って思い出にしよう」とみんなを撮るふり
して、憧れの彼の写真を撮ろうと目論見ます。
でもなんということでしょう、みんなの薄いブルーアイは、どう撮っても
「赤目」になってしまい、全然、実物の魅力を再現できません。
吸血鬼の集会写真みたいになってしまい、無念です。

その後、何度か一行と会う機会があったのですが、特に言葉を交わすことも
できず、念のこもった視線を送るのがせいぜいでした。そしてお別れです。
さようなら、来世で巡りあえますように!


青木順子 (あおきじゅんこ)

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