3/9(木)の夜。『うちってやっぱりなんかへん?』(トーリル・コーヴェ著、青木順子訳、偕成社)刊行記念トークショーを、谷中ひるねこBOOKSで行いました。
2/16の発売から、2/19開催のイベント「北欧からの贈り物~絵本とわたし」、2/24からひるねこBOOKSでのパネル展がスタート!
パネル展の最終日前日のトークショーでは、『うちってやっぱりなんかへん?』の作者トーリル・コーヴェさんの絵本を4冊紹介しました。
ひるねこさんのこじんまりとした空間に、10人のお客さんが集まって下さいました~。
思えばパワポを使わないプレゼンは久しぶりでしたね。
簡単にトーリルさんのプロフィールを紹介してから、勝手に名づけた「トーリルさん3部作」の1冊目”Min bestemor strøk kongens skjorter“「王様のシャツにアイロンをかけた私のおばあちゃん」(2000年)から紹介します。同作の短編アニメーションは1999年にアカデミー短編アニメーション部門にノミネートされています。
1905年ノルウェーは独立しました。国民投票で「王室を持つこと」を選択しますが、誰を王様に迎えるか?
デンマークのカール王子とマウド王妃が、ノルウェーのホーコン7世として迎えられるエピソードが虚実まじりながら描かれます。
「召使など存在しない」当時のノルウェー。王室一家の悩みは「自分たちでアイロンをかけられないこと」。そのせいで国民の前でとんでもない恥をかく羽目に。。。。
そこへ「アイロンをかける名手」のおばあちゃんが、王様のシャツにアイロンをかけることになりました。
シャツのアイロンがけでつながったおばあちゃんと王様。
しかし、第二次世界大戦でドイツがノルウェーを占領します。イギリスへ逃亡した国王一家はラジオでノルウェー国民に「ドイツへの抵抗」を呼びかけ、王様を愛するおばあちゃんは、まさに「アイロン」でドイツに抵抗します。おばあちゃんの意地悪な顔がたまらないですね~。
他にもごく普通の人々が占領に抵抗し、ドイツ兵は撤退。王様一家はノルウェーへ戻ってきます。
持参したスケッチブックに、実際のホーコン7世一家の写真をプリントアウトしたものを貼りました。イラストと実物のギャップは?? はい、ありましたね。
実際にご興味がある方はこちらから!
「戦争もの」「占領もの」にカテゴリーされる本作は、史実とフィクションのさじ加減が巧みです。
トーリルさんが注ぐ初々しい王様とノルウェーへ深い愛情を感じつつ、普通の人々が行った抵抗運動がユーモラスに描かれている面白い絵本です!
2作目は”Den danske dikteren“「デンマークの詩人」(2007年)は、アカデミー短編アニメーション賞を見事、受賞しました。
この作品は、あまりにも壮大な物語で、紹介するのは難しいと思いましたね。
ノルウェーの評論でも同じことが指摘されてますが「映像をここまで絵本化できるのか!」という驚きの作品です。
トークショーでは、ページごとに紹介しました。
20世紀初頭のコペンハーゲン。スランプに悩む若いデンマークの詩人、カスパー。
彼は敬愛するノルウェー人作家シグリ・ウンセット(Sigrid Undset)が、実はデンマーク人と知り、一気に親近感が増します。
ウンセットが住むノルウェーのリレハンメルへ訪れようとしますが、途中で長雨にあい、農家に泊めてもらいますが、長雨が続き、農家の娘インゲボルグに恋をします。
しかしインゲボルグには隣の農家の婚約者がいました。
インゲボルグは、ウンセットのノーベル文学賞受賞作”Kristin Lavrandsdatter”「クリスティン・ラヴランの娘」と重ね、婚約者を裏切り、恋の赴くままに進めば、悲惨な晩年が待っていると判断し、カスパーの求婚を断り、婚約者と結婚します。
「再会するまで、髪を切りません」とカスパーに告げるインゲボルグ。
傷心でウンセットを訪ねることもすっかり忘れたカスパーは、コペンハーゲンへ戻ります。インゲボルグは早くも結婚生活に後悔していましたが、夫は「運よく」死んでくれます(素晴らしいご都合主義!)。
さてカスパーとインゲボルグは、再会を果たせるのでしょうか??
偶然がもたらす奇跡・・・・自分がこの世にいることも、偶然の結果であることを思い知り、人生の深淵さに迫る作品です。
3部作のラストは『うちってやっぱりなんかへん?』”Moulton og meg”です。本作もアカデミー賞短編アニメーションにノミネートされました。
お客さんにもお話ししたのですが、関わり過ぎてしまい「客観的に読めない」事態になっていました・・・。
最初は訳文作りに苦労して、ひるねこさんに読んでもらったこと、トーリルさんから「物語の背景」を送ってもらい「そうだったのか!」と分かってから、訳文が自由に書けるようになった経緯をお話しました。
当日、ひるねこさんで本を買って下さった方が多かったのですが、ページごとに好きなイラストやテキスト、ノルウェー的な見どころを紹介しました。
主人公一家のおばあちゃんが「王様のシャツ・・・」のおばあちゃんに似ているので「よもや同一人物?」なのか「トーリルさんの描くおばあちゃんはパターン化されている」のかわかりません・・・。
すでに寄せられた感想も紹介しつつ、みなさんが自由に楽しんでくださいね~、とお願いしました。
私見では、トーリルさんの特徴は「アニメーションから絵本化」「ノルウェーへのこだわり」「ユーモアとビジュアルの美しさ」「深いテーマを軽妙に描く」かと思います。
最後にトーリルさんがイラストのみ担当している”Johannnes Jensen”「ヨハンネス・イェンセン」シリーズの1作目を紹介しました。
主人公はクロコダイルのヨハンネス・イェンセン。人と同じような家に住み、歯磨き後にフロスをしたり、税務署で働いているごく普通の暮らしを営んでいます。
でも彼は「ボクはみんなと違っている」という思いにさいなまれ、蝶ネクタイからネクタイに変えたり、しっぽが見えないように背中にグルグル巻きにして、外へ出ますが・・・。
「クロコダイルだから変わっていて当然」なのですが、本人の悩みは切実。
テーマでいえば『うちってやっぱりなんかへん?』の「わたし」と似ていますね。
ヨハンネス・イェンセンは、怪我で運ばれた緊急病院で、象のドクターと出会います。
ドクターは「自分の大きな耳はこんな風に役立っているよ」と諭し、ヨハンネス・イェンセンも「自分のしっぽも、役に立っているかも」と恥ずかしかったしっぽを前向きにとらえるようになります。
ちなみにシリーズのテキストは、ヘンリク・ホーヴラン(Henrik Hovland)というノルウェー人が書いています。
彼は木こりの教育を受けて、現在も広大な森を所有しているそうです。グアテマラの国連人権監視団や南米諸国の選挙管理人、イラクからの戦場レポーターを務めるなど異色の経歴を持っていて「こういうバッググランドの人が、こんな作品を作るんだ~」と、感慨深かったです。
トークショーの下調べでノルウェーの児童文学研究者が「ノルウェーや北欧の絵本はイギリスに比べて、テーマが先進的で読者年齢層にこだわらない」という指摘しているのを見つけて、大いに納得しました。
『うちってやっぱりなんかへん?』を始め、トーリルさんの絵本は子どもから大人まで楽しめるのでは?と想像します。
90分のトークショーは瞬く間に終わり、絵本の「スタンプ会」をやりました~♪
参加者の皆さまはもちろん、ひるねこBOOKSさんには感謝感謝です~~~。