ライブイラストショー!~オスロ絵本を訪ねる旅 8~

2015年9月19日(土)。この日は快晴で暑いくらいでした。
「子どもの本フェスティバル」を覗いてみようと、街中へ行くと、人がたーくさんいます。
ん??? おお、なんと「オスロマラソン」開催日だったんですね。
それはそれで面白いので、見ていたかったのですが、「フェスを覗かないと~」と会場の一つを訪ねてみると・・・
会場の外には、出張ブックショップとワッフルが楽しめるようになっていました。親子連れが目立ちます。

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さて今日のお目当ては「ライブイラストショー」でした。3人のイラストレーターが登場する程度しか分かってなかったのですが、会場の出版社ホールへ向かいます。
中は、やはり親子連れがほとんど(私だけですかね、写真撮りまくっていた怪しい入場者は・・・)。
イベント司会者は若い女性で、3人のイラストレーターが控えています。

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赤いスカートの女性は、ノルウェーで近年、ベストセラーになっている絵本”Bukkene Bruse på Badeland“のイラストを手がけているGry Moursund(グリー・モールスン)さんです。日本では『3匹のやぎのがらがらどん』で知られているトロールとヤギの民話をモチーフにした絵本なんですよね。

どんなことが始まるのだろう?ワクワクします。
3人の紹介から始まり、まずは子どもたちが「描いてほしいもの」をリクエストします。挙手率はここでもハンパない!
最初のリクエストが、Jens Stoltenberg(イェンス・ストルテンバルグ)で苦笑しました。ノルウェーの元首相です。子どものリクエストとは思えない・・・

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さすがプロ。三者三様のイラストを描いていきます。リクエストタイムが続き、今度は3人が「合作」にトライすることに・・・
描いている間、子どもと同じように身を乗り出し、どんなイラストが完成するか楽しみです!

おお、プロとはこうなんだな~と感心。 子どもたちも大喜び!
今度は、子どもたちが前に出て、それぞれ少しイラストを描きます。その時も「わたし/ボク 描きたい!」の挙手率はハンパなかったですね~。

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ここから後は、プロの出番です。子どもたちが描いた気まぐれなイラストを、それぞれ描き足してイラストに仕上げます。
とにかく感心したのは、3人のオリジナルティ。それぞれのテイストで予想できないようなイラストを描き上げていく過程を目の当たりにでき、感激しました!

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子どもたちの挙手や、コメントは活発でしたが、それは司会が上手だったことも関係があったかな、と思いました。
ちょっと的外れだったり、言葉につまる子どもをうまくフォローし、発言することを自然に促す手腕に感心しきり。
このフェスは出版社の共同主催なので、本職の司会ではなく、出版社のスタッフだと思いますが、印象に残りました。

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大いに盛り上がったライブイラストショー。最終的にはかなりの枚数のイラストが描かれていました。
「絵が欲しい人!」と呼びかけ、たくさんの子どもたちが嬉しそうにもらっています。いい大人の私も欲しかったのですが、パッキングのことを考えて断念。

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前述のGryさんは人気イラストレーターなので、サインをもらいにいく子どもたちがいました。

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会場の外に出ると、やはり出張ブックショップがありました。親子連れで熱心に絵本を見ていますね。
あんなすごいライブイラストショーを体験したら、「もっと絵本を読んでみたい」「自分もイラストを描いてみたい」という気持ちになる子どもが多いのではないでしょうか?

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だいぶ、引っ張りましたが(放置ともいう)、これで「オスロ絵本を訪ねる旅」(2015年)は終わります。
訪れた場所は、全て印象深く、点と線がつながった爽快感がありました。なんちゃって取材に応じて下さった皆さまには心から感謝申し上げます~♪

子どもの本フェスティバル!~オスロ絵本を訪ねる旅7~

昨年のオスロ訪問は本当にラッキーでした。滞在中に”Barnebokfestival i Oslo“「オスロ子どもの本フェスティバル」が開催とちょうど合ったのです!
子どもの本フェスティバルがオスロで開催されるのは、2015年が初めて。期待は高まります!

かなり遅れて発表された3日間のプログラムを見ると、複数の出版社が協力し、会場もいくつか分かれています。
「う~ん、どれを見に行こう?」と迷いましたが、2014年のNORLA(ノルウェー文学普及協会)主催の「翻訳者セミナー」でちょっとご挨拶したKari Stai(カーリ・スタイ)さんの読み聞かせに参加することに決めました。

会場のGrafillに到着すると、たくさんの絵本をモチーフにしたデコレーションが施されていてテンションUP!

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Grafillは、ビジュアルアーティストたちの組織によって運営されている場所ですが、カールヨハン通りから近くて羨ましい環境です。

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カーリ・スタイさんには当日行きます!と連絡していました。
ちょっとお澄ましポーズで写真を撮ります。

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手に持っている絵本は、代表作の”Jakob og Neikob”(ヤーコブ オ ナイコブ)です。
何に対しても”Ja”「はい」と言うJakobと、何に対しても”Nei”「いいえ」しか言わないNeikobの2人組が繰り広げる珍道中は、もう4冊目まで出版されている人気シリーズ。
さてどんな読み聞かせになるのかな・・・と外を伺うと、お、小雨の中でたくさんの子どもたちが列を作っています。

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会場スタッフに尋ねたところ、小学校2年生のグループだとか。
ようやく中に入ってくると、阿鼻叫喚・・・ま、元気いっぱいですよね。
私は写真が自由に撮れるように後ろで見ていました。

カーリ・スタイさんが話を始めると、先ほどの喧噪が嘘のように子どもたちは静かになります。
スクリーンに絵本を映しながら、読み聞かせは進んでいきます。
後ろに立っていながら、子どもたちが夢中になって物語の世界に入っていくのが伝わってきます。
Jakobがワニに「食べてもいい?」と聞かれて「Ja」と答えてしまい、Jakobたちがワニに食べられていくシーンでは、笑いが起こりました!

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読み聞かせが終わって、カーリ・スタイさんが物語を生み出すきっかけをわかりやすく説明しますが、その間も子どもたちは質問したり、感想を言いたいのか熱心に手を挙げています。女の子、男の子は関係なかったですね。あまりの「挙手率」にびっくりしてしまいました・・・。

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カーリ・スタイさんは子どもたちと接することに慣れているようで、一つ一つの質問を丁寧に真面目に、そしてユーモラスに答えていきます。

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実はこの読み聞かせイベントの後、オスロ中央図書館に行きました(こちらのブログをご参照ください)。その時、児童書部門のアニッケさんに「ノルウェーの子どもたちがとても積極的に手を挙げていて驚いた」と話したら、「でしょ?でもね、私が小さかった頃、今のように気軽に質問なんてできる雰囲気ではなかったのよ。ずいぶん変わったと思う。」と教えてくれました。

ということは、ノルウェーの子どもが元々、積極的というよりも、学校や様々な場面で、積極的に質問や意見を言うことが後押しをしてきたのかな~と想像しました。
大事なのは、子どもたちが安心して発言できる雰囲気を作ること。そしてそれは大人の役割だよね、とぼーんやり考えます。

楽しかった読み聞かせイベントは終わりになり、子どもたちは賑やかに帰り支度を始めます。
カーリ・スタイさんと話したい子どもたちが寄ってきて、うーん、こういう心理は日本もノルウェーも一緒だ、と写真をぱちり。

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子どもの本フェスティバルは、まだ書きたいことがあるので続きまーす。
さて来月のノルウェー出発までに間に合うか???

つづく
(書けばいいんです、書けば・・・)

ノルウェー相互扶助♪

ノルウェー夢ネットは2000年にスタートしている「老舗」=「古いだけ」なので、「ノルウェー」という検索ワードでうちのサイトに引っかかる確率は高いです。
今まで様々な依頼(悲鳴に近いものも含め)がありましたが、やはり形に残ると嬉しいものです。
例えばこちらの本『世界をめぐるかわいい紙もの』(2012年、誠光堂新光社)をご覧くださ~い。

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表紙の国旗がスウェーデン、デンマーク、アイスランド、フィンランド・・・・ノルウェーがない!とお嘆きの方。
ご安心を。きちんと中には「ノルウェー」のページもあります。

世界の様々な可愛かったり、きれいだったり、ユニークな紙ものを集めた本書は、楽しめること間違いなし。
で、このノルウェーのページに掲載された紙ものはノルウェー夢ネットがたくさん協力しています。
編集者の方から「紙ものがありませんか?」と依頼がサイトに来まして、私とYoko管理人のコレクションを比べると、圧倒的にYoko管理人の方が多いんですよ。
私は結構、物を捨てる方なのですが、Yoko管理人はきちんと保管するタイプ。
なのでページに採用されたのは、ほぼほぼ彼女のコレクションです。

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ということで、ノルウェー相互扶助の一例をご紹介しました♪

オスロ中央図書館~オスロ絵本を訪ねる旅 6~

この「絵本を訪ねる旅」では「図書館」にぜひ行きたいと思いました。
ノルウェーの図書館は、どのように子どもに接しているかに興味がったからです。

オスロの図書館はDeichmanske Bibliotek(ダイクマンスケ・ビブリオテーク)と言います。みんなは「Deichman」=「ダイクマン」と省略した形で呼びますね、若干の親しみをこめて。

Deichman 中央図書館

Deichmanske Bibliotek 中央図書館

以前から「どうしてダイクマンというのかな?」と思っていたのですが、Carl Deichman(カール・ダイクマン)という人の7000冊の蔵書がもとにできたからなんですね。
すでに1785年に創設。1905年の独立より125年前に図書館はできていたことになります。

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オスロにはHoved(中央)を含め、19か所の図書館があります。
私は行政府近くの中央図書館Hovedbiblioteketの児童書部門責任者のAnnike(アニッケ)さんにお会いすることになりましたが・・・。アニッケさんはアポ取りの段階で、一番そっけなかった人だったので緊張していたのですが、とても気持ちよく迎えてくれました~!

Annikeさん

Annikeさん

やり取りを抜粋しますね。

-子どもの本離れを感じますか?
「いいえ。図書館の貸出点数はここ数年増えていて、子どもの本離れは感じませんね。」(この発言だけで驚きでした!)

-何か働きかけはしていますか?
「いろいろしています。まずは、学校との連携です。オスロの学校は読書にとても力を入れていて、全ての学校は地区の公立図書館を訪問します。そこで図書館内を案内してもらい、読み聞かせを体験するなど”図書館を身近な存在”と感じてもらうよう努力しています。もちろん学校にも図書館はありますが、それとは別に地区の図書館に足を運んでもらうことは大事ですね。」

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-オスロの図書館ならではの特色はありますか?
「オスロは移民や難民の子どもたちがたくさん住んでいます。なので、子どもたちのリクエストに対応できるよういろいろな言語の本を集めています。この分野ではNORLA(ノルウェー文学普及協会)と連携しています。NORLAが翻訳助成を行った外国語の本を図書館に寄贈してくれるのです。」

台湾版ピッピ!

台湾版ピッピ!

・・・棚を見ていると確かに多様な言語で書かれた本が並んでいますが・・・まさか!ここでこの本と出会えるとは!!

じゃーん!

じゃーん!

日本語版の『パパと怒り鬼~話してごらん、だれかに~』が書棚にあってじーんっとしちゃいました~。

-図書館ではイベントも催していますか?
「毎週土曜日の午後、映画上映会を開いています。通常の映画館では観られない、でもクオリティーの高い映画を選んでいます。あとは年に4回、”子ども劇場”を開催したり、またいろいろな職業の人を呼ぶイベントも人気がありますね。以前、消防士さんをお招きしたのですが子どもたちはとても喜んでいました。」

-「本の買い取り制度」は図書館にとってどんな意味がありますか?
「図書館や学校にとっても、とても大切な制度です。図書館には人気のある本を並べることと同時に、(買い取り制度によって送られたきた)商業的ではない質の高い本を並べることも大事ですね。図書館はとても助かってます!」

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アニッケさんはかなりたくさんお話しをしてくれたり、お気に入りの絵本を並べて下さったりサービス精神旺盛でした。
さらにさらに、いろいろと案内してくれます。
児童書部門の気になるスペースはここです! 日当たりのいいスペースに、本をおしゃれにディスプレイしたくつろぎの空間でしょうか?

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本を読むだけが図書館ではありません。ゲームコーナーや・・・

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工作ができる3Dプリンターのコーナーも。こんなに揃っていて恵まれてますね!
本は読まない子どもでも、図書館への親しみは沸くのでは?と想像します。

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アニッケさんはガイドしながら「図書館は公立であるべき、また利用は無料であるべき」とも強調。何でも図書館の利用が有料の国もあるそうです。知りませんでした!

図書館と学校の連携、さらにNORLAとも連携がうまく作用しているようで、「風通しの良さ」を実感しましたね。
オペラ座があるエリアに移設計画があるようですが、いつまでも「距離の近い」図書館であって欲しいです。アニッケさん、ありがとうございました!!

出版を支えるノルウェーの制度~オスロ絵本を訪ねる旅 5~

2月末からストップしていた「オスロ絵本を訪ねる旅」の連載再開です~。もう来月にはノルウェーには行くという現実を目の当たりにし、慌てています!
ほとんどの方は、連載自体を覚えていないと思うので、過去ブログは以下をご参照ください♪

1.そもそものきっかけ
2.ユニークな書店
3.出版社訪問
4.絵本作家アトリエ訪問

以前のブログで何度か触れている「本の買い取り制度」(innkjøpsordning for litteratur)の説明がまだでした。
管轄している文化評議会(Kulturrådet)のサイトと、『文化を育むノルウェーの図書館』(吉田右子、和気尚美、マグヌスセン矢部直美著、新評論)を参考に、紹介します。

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ノルウェーのような小国で出版事業と文化を守るために「国が本を一定数買い取る」制度です。1965年から開始したので、41年もの歴史がありますね。
出版社は、買い取って欲しい本を文化評議会に申請します。「商業的すぎない」「クオリティーが高い」が審査基準のようですが、審査に合格すれば以下のジャンル別に買い取ってもらうことができます。

大人向け一般文学:773部(内訳:紙書籍703、電子書籍70)タイトル数は年によって異なる。2012年は200タイトルが買い取り
子ども・YA一般文学:1550部(内訳:紙書籍1480、電子書籍70)2012年は100タイトルが買い取り
翻訳文学:タイトル数130、542部 (内訳:紙書籍502、電子書籍40)
フィクション:773部(内訳:紙書籍703、電子書籍70)2012年は60タイトルが買い取り
子ども向けフィクション:タイトル数25、1480部
漫画:タイトル数15まで、1480部または703部

こうして買い取られた本は、公共・学校図書館に配布されていきます。

ノルウェーの人口520万人。
例えば、絵本で「買い取り制度」にパスしたら、1550部が保証されます。人口が30倍の日本の出版界でも、初版部数はどんどん落ち込み、2000部、3000部なども珍しくありません。そう考えれば、いかに「大きい数字」か想像できますか?

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改めて、「買い取り制度」の恩恵について考えてみましょう。当事者の言葉から引用します。

「私の描く絵本のテーマは難しいので、買い取り制度のおかげで本が出版できています。」(絵本作家グロー・ダーレさん)
「買い取り制度がなければ、出版社を始めようとは思わなかった。」(Magikon社長のスヴァインさん
「買い取り制度のおかげで、フリーランスでも安心して仕事ができる。」(絵本作家マーリ・カンスタ・ヨンセンさん

確かにグロー・ダーレさんの絵本は、DV、離婚で傷つく子ども、ネグレクトなど「社会的」な問題を取り上げたものが多く、決して「クリスマスのプレゼント向き」ではありません。しかしその「クオリティーの高さ」から、買い取り制度での部数が約束されているので、出版社も本を出すことに前向きです。

グロー・ダーレさんの講演から

グロー・ダーレさんの講演から

Magikon社のスヴァインさんも、「ひとり出版社」であれだけ活躍できるのは「クオリティー」で妥協しないせいでしょう。

仕事中のSveinさん

仕事中のスヴァインさん

マーリさんの言葉も同じフリーランス業として「フリーランスにとってはありがたい制度ですね!」と羨ましい限りです~。

仕事をするフリをしてくれているマーリさん

仕事をするフリをしてくれているマーリさん

もちろん「クオリティーの高さ」が大前提ですが、「売れる本」だけではない多様な本の出版を後押ししてくれる制度と言えるのかな~と考えました。

実は昨年のオスロでは「買い取り制度」の恩恵を強調された人が他にもいました。
いつになるか分かりませんが、次回はそちらに触れるつもりでーす!

つづく(粘着!)