アンネ・ホルト『ホテル1222』翻訳出版!

ミステリーのブックレビューを書くのは苦手です。
ミステリーファンの人からすれば、とんでもなく稚拙でしかもネタバレしそうな感想文しか書けません・・・。
ですが、ノルウェーを代表するミステリー作家アンネ・ホルトの邦訳『ホテル1222』(枇谷玲子訳、東京創元社)を読書中、瞬く間に付箋だらけになってしまいました。本作を紹介しましょう~。

アンネ・ホルトは邦訳が多い作家です。
「ハンネ・ヴィルヘルムセンシリーズ」は、90年代に出版された初期の作品群と昨年、翻訳出版された『凍える街』の間に、実は未訳の作品が幾つかあります。その未訳作品で描かれているハズの「何か」によって、初期のハンネと『凍える街』と『ホテル1222』のハンネの「変貌」ぶりは、「どうしちゃったの??」と驚くばかり・・・(以前のブログでも触れています)。
『ホテル1222』では、銃撃事故によって車椅子生活を余儀なくされた「元警察官」としてハンネは登場します。

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巻末の若林踏さんの解説で触れていますが、本作はアガサ・クリスティーの『オリエント急行の殺人』と『そして誰もいなくなった』に対するアンネ・ホルトのオマージュとのこと。
ベルゲン線が雪嵐のため転覆事故に遭い、大勢の乗客たちはホテルの「フィンセ1222」に避難し救助を待ちますが、「密室状態」となった空間で連続殺人が起きていきます・・・となると、ポアロ役は? はい、元警察官のハンネです。
『オリエント急行の殺人』のポアロと同じようにハンネは、事件の調査とは関係なく、たまたま乗り合わせた電車の事故がきっかけで、殺人事件に巻き込まれていきます。アガサ・クリスティー作品との類似もさることながら、主人公が否応なく事件に関わってしまう「巻き込まれ型」というジャンルという点からいえば、ヒッチコックの作品を想起させます(例:『北北西に進路を取れ』)。

・・・さて、冒頭でも触れましたが、私にミステリーの分析は無理なので、本書で「ノルウェーらしさ」「北欧らしさ」を感じるポイントを挙げてみたいと思います。

1)知らない人とは話さない?
転覆事故に遭う前に、とある噂が車内で広がり、知らない乗客同士が会話を交わすシーンがありますが「車内の様相はノルウェーらしさを失っていった」と描写されていて苦笑・・・。確かに、ノルウェーでは見知らぬ乗客同士が会話をするのは「まれ」なことです!

2)みんな知り合い?
『オリエンタル急行の殺人』と同じく、本作では、登場人物同士が実はつながりがある・・・という設定です。『オリエンタル急行の殺人』の乗客同士のつながりは「偶然」ではありませんが、『ホテル1222』の場合は?・・・とてもノルウェーらしさが満載です!(ネタバレになるので書きませんよ!)

3)忍耐力&楽観性
大雪の中、救助は来ずに連続殺人が起こるホテルの中。当然ですが、登場人物が感情や行動を爆発させるシーンはあります。
にも関わらず、感じるのは乗客たちの「忍耐力」。待機状態3日後の描写から引用してみましょう。「大半の人は退屈した様子だった。しかし退屈しながらも、寛容さを身につけていた。現状をあきらめて受け入れ、あと一日山上で耐え忍べば、全てがよい方に進むという静かな確信に満ちているように見えた。」

ノルウェー人特有の忍耐力と精神力、そして「良くなるだろう」という楽観性が垣間見られる描写です。小さな時から、山や氷山で鍛えている結果がこうした人間性につながるのだな~と納得です。

4)こもった匂いはイヤ?
本作で目につくのは「匂い」に関する記述です。密室状態のホテル&頻繁にシャワーを浴びられない状況において、ハンネは繰り返し「~の臭いは耐えられない」と感じます。自らの体臭に対する描写も容赦ありません。常に「新鮮な空気」を求めるノルウェー人にとって、こもった匂いや強い体臭は「大敵」なのかな~と想像します(単にアンネ・ホルトが匂いに敏感なだけかもしれませんが・・・)。

小ネタで言えば、登場人物をノルウェーで人気のマンガ「Nemi」や国民的作家ビョルンソンの古典名作の登場人物=農村の理想的少女Synnøve Solbakkenと比較するシーンは、ノルウェー好きには「感涙もの」でしょうね~(ちょっと大げさ?)。

アンネ・ホルトは、他の北欧ミステリーの多くと同じように、「社会批判」を作品に盛り込んでいます。
主人公ハンネを通じて、キリスト教会批判やアドリアンという少年を通じての「児童保護施策の限界」、またイスラム教徒に対する反感をむき出しにするベーリットという女性を通じて「他宗教に偏見ある人々」などが批判されています。
ただ、初期の作品群と『凍える街』&『ホテル1222』における作者の社会批判は、前者がメッセージを通じて「社会を変えてやる!」という勢いを感じたのですが、後者はむしろ諦念や皮肉といった印象を受けました。主人公ハンネの変貌とともに興味深い点です。

・・・といろいろ書き連ねましたが、読書の秋、ミステリーの秋。
思うように動けず、ネットすらも一時遮断された不利な状況の中で、誰が犯人なのか?をユニークなチームワークとハンネの卓越した観察眼と推理力を満喫できる1冊です!

翻訳者の枇谷玲子さんが、物語の舞台になったフィンセやベルゲン線、ホテルの様子などをWebで紹介されています!こちらも読むと、より作品が身近に感じられますよ~。
http://www.webmysteries.jp/afterword/hidani1510.html

お世話になっています!

まずはこちらの写真からどうぞ!!

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これはノルウェーのFreiaというチョコレート会社(他の製品も作ってますが)のいろいろなチョコレートの詰め合わせ「Twist」という代物ですが・・・。
大変、大変、こちらのTwistにはお世話になっています!!
ノルウェーに行ったら、いろいろお土産を買いますが、ノルウェー語教室用には、これに頼り切ってます。

まず一つ一つ、包装されているので出しやすい。
いろいろな種類があるので、見た目にもイイ。

ただ今年買ってみて、「あれ?」と気づきました。
「ヤツがいない・・・」。そう、ヤツとはラクリスです!黒い悪魔です!参考画像はこちらから⇒http://www.kk.no/livsstil/visste-du-dette-om-lakris-31522

ラクリスはノルウェー人はこよなく愛する黒いお菓子ですが、日本人でこれが好きという人は、1割弱でしょうか?(当社比)
このTwistにはラクリスが入っていて、よく生徒さんに「どうですか~?」と意地悪く勧めていたのですが、9月に買ったTwistには入ってないんですよ。

物足りなーい!!!!

単に包装過程で、「詰め忘れた」と思いたいのですが・・・。ラクリスの原料費が沸騰しているのでしょうか??
ぜひ復活をお願いしまーす!!

悲劇をどう”展示”するのか「7/22センター」訪問~ノルウェー旅行記2~

「ノルウェーでは、何でも議論になるのよ」
自嘲気味に、ノルウェー人の友達は言います。「オペラ座」をどこに建設するかでは、10年くらい議論してましたっけ?

2011年7月22日。戦後ノルウェー史で最も大きな事件が起きました。
ブレイヴィークというノルウェー人が、オスロ行政府の爆破テロと労働党青年部(AUF)のウトヤ島でのキャンプ場を襲撃し、77名が死亡。
未曽有の連続大量テロ事件を受けて、「7/22センター」(22.juli-senteret)の展示が計画されましたが、当然、その展示について「議論」は起きました。
行政とNTNU(ノルウェー科学技術大学)が展示を企画しましたが、今年の7/22にセンターはオープンします。
私自身、関連ノンフィクションを何冊か読み、2回ほどプレゼンテーションをした関係で、今回の旅では「絶対に行きたいところ」と決めてました。

そして日曜日に現地へ。爆破された行政府の一角にセンターはあります。破壊された省庁ビルは、再生に向けて建設中です。

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入場は無料ですが、入り口で親切な係員から、「最初の部屋は、遺族に配慮して撮影は禁止です」と教えてもらいました。

その最初の部屋には、一連のテロで殺害された被害者たちの顔写真と名前、年齢が書かれています。
まず気づくのは、圧倒的に若い人が多いこと。AUFのメンバーが被害者の大半でしたから、17歳、18歳といった年齢を見ると、陳腐な表現ですが「前途ある若い人の命がこんなにも奪われたのだ」と感じます。
そして笑顔の写真が目立ちます。その後の運命を知らずにあどけない笑顔を見ていると、無言の圧力に襲われる気分になりました。

ノンフィクション本の1冊”En av oss”『私たちの一人』(Åsne Seierstad著)に、印象的なクルド難民の少女が登場します。彼女の写真もありました。「こんな顔の少女だったのか・・・」としげしげと見つめました。人生に前向きで、ノルウェーで「平等大臣になりたい」と願った少女。知り合いではないのに、不思議な感覚です。
覚悟はしていましたが、このセンターにいることは、重い過去と悲劇と向き合うことになるのです。

その後はもっと広い展示室があります。真ん中には、骨組みだけになった廃物がありました。ブレイヴィークが爆破テロで使用した車です。
壁には時系列に、7/22のテロ当日の出来事とその後の裁判などが、ノルウェー語と英語で書かれています。写真も多数、展示されています。

テロ当日、絶望した表情のストルテンバルグ首相(当時)

テロ当日、絶望した表情のストルテンバルグ首相(当時)

ウトヤ島で襲撃されたAUFのメンバーは、なかなか来ない警察や救助に苛立ちながら、必死でSNSを使ってテロが起きていることを発生しました。
Tweetがそのまま展示されていて、緊迫した当時の様子が伝わってきます。

「こんなに怖い思いは初めて。一体、ウトヤ島の若者たちに何が起きてしまっているの?」というTweet

「こんなに怖い思いは初めて。一体、ウトヤ島で何が起きているの?」というTweet

当初は、ブレイヴィークがテロに使用したニセ警官の制服や装備なども展示する計画だったそうですが、多くの反対があり見送ったそうです。
犠牲者たちが持っていた携帯電話が展示されていました。家族や友達にSMSを送ったり、SNSを使ったりしたと思われるものです。

犠牲者の携帯電話など

犠牲者の携帯電話など

センターには、親に連れられてきた小さな子どもの姿もありました。
親は子どもにどのように事件を説明するのでしょうか?

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平日にセンターの前を通った際は、学校の子どもたちがグループで訪問している姿を見ました。センターのサイトを見ると、学校からの訪問を受け付けているのが分かります。

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ノルウェーは、刑罰に置いても「いかに再犯をなくすか」に力点を置いています。
「7/22センター」は遺族によっては「絶対に行きたくない」という声もある中、起きてしまった「おぞましいテロ」をいかに展示するか、いかに語り継いでいくかに取り組む展示だと感じました。
「7/22センター」は、新しい行政区が完成するまでの展示です。あと5年くらいで終了しますので、行かれる機会は限られていますのでご注意くださいね。

テロ後の追悼行進

テロ後の追悼行進

7/22センター公式サイト:http://www.22julisenteret.no/

子どもからのプレゼント♪

毎年、ノルウェーに行っていて「会いたいね~」と言い合いながら、なかなか会えなかった人はたくさんいます。
チェコ人のアンドレアもその一人。
1995年にVoldaカレッジに留学した際、ルームメートかつクラスメートだったのです。
アンドレアはノルウェーの大学で勉強を続け、なんと同じ学生寮の共同キッチンを使っていたノルウェー人と結婚しました。今ではオスロ郊外に住んでフルタイムで働き、2人の子どもがいるのです。

ようやく今年、会うことができました!しかも嬉しいことに、Jonas(ヨーナス=9歳)とJulie(ユリエ=7歳)と子どもも一緒に連れてきてくれるということに。
待ち合わせ場所のフログネル公園で、ドキドキしながら待っています。多分、もう15年ぶりくらい?の再会になるハズ・・・。

おお~、アンドレアは可愛い子どもたちと一緒に来て、感動の再会!!になりました~。JonasとJulieはかわいい~~!!
みんなで公園を歩いたりした後、公園内のカフェに落ち着きました。アンドレアが慣れた手つきで、スケッチブックを出します。
JonasとJulieは、絵を描くのが大好きということで、すごい集中力でイラストを描き始めました~。

私が気まぐれに「詩は書ける?」と尋ねたら、賢いJonasはさらさらと書き始めます。
冗談で言ったのに、ちゃんと韻を踏んだ詩を2つも書いてくれました~。
そのうちの1つを引用しますね。

Godteri er godt, 
Godteri er flott,
Godteri det er så godt at
jeg har et slott.

お菓子はおいしい
お菓子はすばらしい、
お菓子はとてもおいしいから
僕はお城を持っているよ

ノルウェーの学校って、9歳児でも即興で詩が書ける教育をしているのでしょうか??
もうおばあちゃんの気分で感動しちゃいました!!

・・・ということで、2人からもらったイラストや詩は、殺伐とした仕事部屋の壁に飾って大事にしていまーす。とっても嬉しいプレゼントでした~。
Julieが描いてくれた私のイラストは・・・もう感涙ですぅ~~♡ 

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ノルウェーに留学したことも、自分が年を取ったことにも、友情にも感謝した1日でした!

ノルウェー映画『1001グラム ハカリしれない愛のこと』♡

邦題って難しいですよね。「え?」と違和感をおぼえた邦題は数知れません・・・。
そんな中、ノルウェーを代表するベント・ハーメル監督の最新作の邦題はなかなか意欲的。
原題は『1001gram』ですが、邦題は『1001グラム ハカリしれない愛のこと』です。
観終わった後に「なるほど~」と膝を打つような見事な邦題だと思いました~。

その作品のほとんどが日本で公開されてきた「愛され監督」のベント・ハーメル。
監督のデビュー作『卵の番人』、『キッチン・ストーリー』、『ホルテンさんのはじめての冒険』、『クリスマスのその夜に』など、抑制されたセリフや表情のおじさんキャラが、くすっと笑わせてくれる映画が特徴です。
彼らの多くは、決まりきった日常生活を送っていますが、思えば、フツーの人の生活だって同じようなもの。
「何かいいことは起きないかな?」と願いつつも、日々は過ぎていきます。
でも無理のない展開で、ちょこっと日常生活を「脱線」=「好転」させてくれる監督の最新作を試写会で観てきました。

今回の主人公は女性です!ベント・ハーメル監督=おじさんのイメージを破る配役にまずは驚きます。
ノルウェー国立計量研究所に勤務するマリエは、青い小さな電気自動車で走る周る姿が印象的。
他の作品と同じく、マリエのセリフは少なく表情豊かとは言えません。
青い電気自動車以外にも、研究所の青い柱、病院の青い配色、青の傘、青のタオルなどなどマリエの周りは「青」で占められています。
マリエの淡々とした日常と青が、マッチしています。

BulBul Film, Pandora Film Produktion, Slot Machine © 2014

BulBul Film, Pandora Film Produktion, Slot Machine © 2014

仕事でパリに行くことになったマリエは、ある男性との出逢いがきっかけで、青の世界から色彩が豊かな世界へとゆっくり移っていきます。
それに伴い、硬かった表情が人間味のある表情へと変化していきます。
自由、愛情そして解放感に溢れたマリエ。
ベント・ハーメル監督らしい派手ではないけど、心が温まるほんのりとしたラストシーンが印象的です。

ベント・ハーメル監督の作品を見る度に思うのですが、人を笑わせるためには、おふざけよりも真面目な姿を映した方が効果的なのではないか?という点です。
本作では、みなが真面目であるがゆえに「くす」と笑えるシーンがいくつもあるので、ぜひ皆さんなりの「ツボ」を見つけてくださ~い。

・・・ここで「ノルウェー伝道師」からの『1001グラム ハカリしれない愛のこと』トリビアです!!
まず「電気自動車」。
税金もろもろの優遇や人々の環境意識の高さなどから、ノルウェーでの普及率はハンパないです~。

そして主役マリエを演じたアーネ・ダール・トルプ(Ane Dahl Torp)のお父さんは、ノルウェーを代表する言語学者Arne Torpです。
オスロ大学留学中には、Arne Torpの著書がテキストとして使われていました。また昨年、ノルウェーで開催された「翻訳者セミナー」で、Torpさんが登壇されたのですが、ユーモアあふれるプレゼンテーションで、会場を沸かせてくれました。
そんな関係もあり、アーネ・ダール・トルプの活躍ぶりを見ると、「ああ、あのお父さんの娘なのね~」とシンパシーを覚えていました。

・・・とトリビアはこのくらいにして・・・

ベント・ハーメル監督は、大げさなシーンやセリフを使わずに、人生の妙味を表現できる稀有な人ではないでしょうか?
普通の人たち、普通よりも不器用な人たちへ注ぐ監督の深い愛情を感じました。

本作は、10/31(土)よりBunkamuraル・シネマ他全国順次公開が決定しています!
ぜひスクリーンで、ベント・ハーメル監督の世界を体感してください♪

公式サイト:http://1001grams-movie.com/

BulBul Film, Pandora Film Produktion, Slot Machine © 2014

BulBul Film, Pandora Film Produktion, Slot Machine © 2014