ノルウェーの刑務所~ネットショップ有り〼~

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』という邦題がトレビアンな映画を観ました~。
マイケル・ムーアの肥満率が気になる映画でしたが、テーマはマイケル・ムーアがいろいろな国の優れたアィデアや制度をアメリカに持ち帰ろう、というもの。
イタリア、フランス、ドイツ、スロヴェニア、ポルトガル、チュニジア・・・
そして北欧からはノルウェー、フィンランド、アイスランドにマイケル・ムーアが訪れます。

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ノルウェーで彼が選んだもの。それは「刑務所」でした。
「ここはリゾート地か??」と見まがう美しい景観のコテージ作りの刑務所はなんと「バストイ刑務所」。
この名前でピンと来た方はかなりのノルウェー通ですね~。
ノルウェー映画『孤島の王』では、20世紀初頭のバストイ刑務所の過酷さ・残酷さを描いた秀作で、なぜか私はトークショーに登壇した思い出深い映画です。

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あのバストイが今はこんな牧歌的な刑務所になって信じられませーん!!
ちなみに現在の刑務所の様子はこちらの公式サイトから覗けます⇒http://www.bastoyfengsel.no/

マイケル・ムーアは「ただここは模範囚の刑務所。それだけ見るのはフェアじゃないので、もっと重罪の囚人がいる刑務所に向かおう」と「ハルデン刑務所」を訪れます。
確かにバストイよりは「刑務所っぽい」と思うかもしれませんが、それでもシャワー・トイレ付の個室、ゆったりとしたソファーのある面会スペース。
自分たちで音楽を録音できるスタジオも映っていました。暴力的なラップを録音中で笑ってしまいました。殺人罪の囚人の背後にキッチンのナイフが無造作に置かれているのもすごい!看守たちは拳銃などを付けていません。

帰宅後、ハルデン刑務所の公式サイトを覗いたら、さらに「ひ~」と驚いてしましました!
まずはこれがトップページです~。

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にこにこ笑っている男女の警官の写真。つい「入っちゃおうかな~」と誘惑されそうです。
Youtubeの画像が貼ってあって、中で働く警察官のミュージックビデオがUPされてます・・・。

上のメニュー画面を見て???となったのはnettbutikkの文字。「ネットショップ」の意味です。
「刑務所でネットブショップとはこれいかに?」とクリックしてみました~。
例えばこのページをご覧ください⇒http://nettbutikk.haldenfengsel.no/main.aspx?page=articlelist&gid=501&gidlevel=1
囚人たちが作った製品をネット販売している!と気づいた時には「ノルウェー人、やっぱり侮れないわ」と思いましたね。効率的です。

ノルウェーが囚人たちに快適な刑務所を提供しているのは、別にお金が有り余っているからではありません。
以前、NHKでノルウェーの刑務所を特集した番組があったのですが「何よりも再犯防止に力を入れている」と当局側がコメントしていました。
収監中に家族の元へ一時帰宅を許可したりすることは「社会とのつながりを遮断すると、再犯率が高まる」との分析で「ふ~む」と感心した覚えがあります。
現にバストイ刑務所では、NAV(ハローワーク)と連携し、労働マーケットに応じた職業訓練を行っているようです。刑期を終えた囚人たちの再就職ができるか・できないかで再犯率は変わってきますよね。

映画では、2011年7月22日の大量テロ犠牲者の父親がマイケル・ムーアのインタビューに答えていました。そう、ブレイヴィークが実行犯のあの連続テロです。
「あんなクソに復讐したくはないのか?」
「いや、彼のレベルに下がって”俺にはお前たちを殺す権利がある”なんて言いたくない」と断言していた姿が印象的です。

ノルウェーの刑務所を観たり、サイトを覗いたりして「あ、そういうことか」と納得したことがあります。
それはブレイヴィークが「自分の独房拘留状態がEU人権憲章に違反し、非人道的である」と昨年7月、国を相手に裁判を起こした一件。
確かに彼はノルウェーの刑務所で言えば「最高レベルの独房」状態です。
とはいえ、使える部屋はトレーニングルームを含む3部屋。さらに外気に触れる専用のエアー空間(55平方メートル)があります。
こちらの記事に彼の独房とエアー空間の写真が載っていますので、ご参照ください。

ニュースで知った時は「また変なことしている~」と呆れました。
ですが、ノルウェーの刑務所基準でいえば「これでも不満なんだ」と映画を観て、やや納得しました。

裁判は、4月に結審しました。
オスロ裁判所は彼の主張を一部認め「5年にわたる独房状態は非人道的であり、拘留環境を変えるべし」と判決を下したのです。
この判決は私だけではなくノルウェーの専門家、国際メディア、そして国民も驚きました~!
ニュースを伝える新聞のFacebookのコメント欄には「信じられない」「税金の無駄遣い」「なんてナイーヴな国なんだ」など判決を不服とする内容が殆どでした。

そんな中、印象的な記事をAftenposten紙で見つけました(Aftensposten,2016年4月21日)
ウトヤ島の大量テロの生存者による寄稿です。ちょっと長くなるのですが引用してみましょう。
「非人道的な事件を起こしたからといって、非人道的な扱いをすべきではない。テロリストや過激思想家たちは他者を“虫けら”扱いする。
ノルウェーは民主主義のもと、ブレイヴィークを“人間”として向き合うことにより、テロリストや過激思想家たちに暴力に依らない対抗方法を示すことができるだろう。」

「目には目を、歯には歯を」ではなく、独自の刑務所環境運営を取り入れているノルウェー。
まさにノルウェーらしいさの一端を感じた映画でした!

ノルウェーの大学生を支えるお金のサポート

今まで会ったノルウェー人に、「ノルウェーではみんなが教育を受けるために”平等な権利”があるんだよね~」と聞くと、「もちろん」と判を押したように答えるのがもはや「様式美」。さて、「平等」が大好きな国民性。どこまで平等を徹底させるのか、主に「経済的サポート」から迫ってみたいと思います。

ご存知の方は多いかと思いますが、ノルウェーは小学校から大学とカレッジ(国立)の学費は無料です。私立カレッジは数が少ないので、国立に進学する学生の方が一般的です。
学費を無料にしているのは、「勉強を受ける権利を平等にするため」という背景がありますが、それだけでは十分ではないようです。
ノルウェーでユニークなのは「学生ローン」制度でしょう。

ノルウェー語では、Lånekasse(ローネカッセ)と呼ばれる国の「学生ローン」。
知っているようで知らない存在だったので、ノルウェー科学技術大学(NTNU)から東京大学に交換留学中のMarino君にいろいろ聞いてみました!(Marinoはノルウェーではレアな名前ですが、ノルウェー人です。ちなみに数学専攻のバリ理系です。)

5/29の「ネイティブによる発音練習」の先生です!

5/29の「ネイティブによる発音練習」の先生です!

-学生ローンを利用している学生は多いですか?

「ほとんどみんな利用している、と言えますね。ものすごく収入がある、とてつもない財産がある学生は申請資格がありませんが、ごく例外的です。」

-申請手続きは難しいのですか?

「とてもシンプルです。サイトから必要事項を入力し、結果は2~3日後にもらえます。」

-毎月、どれくらい借りることができるのですか?

「8月と1月は新学期がスタートする月なので、約2万クローネ(約27万円)を借りれます。他の月は約7500クローネ(約10万円)です。」
(注:正確な数字はこちらのページをご参照ください。

-学生ローンは「ローンなのに返済不要の奨学金になる」と聞いたことがありますが・・・

「はい。試験に及第したら、4割が奨学金、6割はローンになります。試験結果の良し悪しに関係なく、及第させすれば大丈夫です。ただし、留年してしまったらばもう学生ローンからお金は借りることはできません。」

-あと「学生ローン」のHPに、両親との同居か否かも関係あると書いてありました。

「両親の家に同居していると、100%ローンのままですね。」

-HPで驚いたのは出産した学生には49週の「出産奨学金」、子どもがいる学生には「扶養奨学金」が支給されると書いてあり驚きました。(扶養奨学金は収入に応じて条件が異なります)

「大体、大人の学生が対象ですね。ノルウェーでは就職してから、再び自分の資質を高めるために大学に戻ってくることはそんなに珍しくありませんから。」

-この学生ローンは学士、修士課程で受けられるのですか?

「そうです。ノルウェーでは修士課程まで進むのがどんどん一般的になっています。ただ博士課程は、もうお給料がもらえるので対象外ですね。大体、40万クローネくらいだったかな・・・(約540万円)。」

ゲレンデで楽しむ学生生活

ゲレンデで楽しむ学生生活

-留学する学生もどんどん増えているようですね。

「そうですね。特に学生ローンから、旅費補助が出ます。僕のようにアジアに留学した場合は大きなサポートですね。」
HPによるとアジアまでの旅費補助は、奨学金が13272クローネ(約18万)、ローンが5688クローネ(約7.6万円)、計18960クローネ(約25.5万円)です。

-ちなみに日本の大学の学費は払っていますか?

-「僕の場合は、協定校への留学なので学費は無料です。日本は物価が安いし、とても助かっています!

-ノルウェーに話を戻しますね。こんなに補助があっても、それでも生活費は足りませんか?

「正直、学生ローンだけでは難しいです。特に家賃が高いですね。僕はトロンハイムの学生寮に住んでいますが月4500クローネです(約6万円)。オスロはもっと高いから、アルバイトをしている学生が多いです。特に夏のアルバイトは人気ですよ。」

-もう1月に夏休みのアルバイト広告が出ていて笑ってしまいました。

「どんどん募集が早くなりますね。高校生や大学1年生くらいは、バイト先はどこでもいいという感覚です。でも学年が上がると、将来、就職したい会社や組織での夏のアルバイトを狙う学生が多いですよ。そうやって、一種のコネを作るんです。」

-学生ローンがいろいろ充実しているのは分かりました。でも将来、返済しないといけませんよね。それは大変ではないですか?日本では社会問題化しています。

「学生ローンは国のローンで”安心感”が強いです。普通に就職すれば、大体10年くらいで返済できるので、借りることにあまり不安はありません。」

ノルウェーの大学です!

ノルウェーの大学です!

-ノルウェーでは「教育を受ける平等な権利」が尊重されていますが、「学費無料」と「学生ローン」が支えているのですね~。

「そう思います。学生ローンはとてもいい制度ですね。日本に留学していろいろな国の学生と話していると、自分がノルウェーに生まれて、とても恵まれていると感じました。」

・・・マリノ君のように留学するとノルウェーのいい面、そして良くない面がより分かってくるのでしょうね。こと教育サポートシステムに関しては、ノルウェーの方に軍配が上がりそうです。

ノルウェー語テキストとジェンダーの視点

今まで、ノルウェーの子育て支援に代表される恵まれた福祉施策や男女平等に関する講演や、サイトやブログなどを通じて発信するとよく聞かれる質問は・・・。
「どうしてノルウェーは、そんなに男女平等が進んできたのでしょう?」ですかね。
答えはたくさんあると思います。ただ私自身、ここ数年実感しているのは「教育の力」です。

ノルウェーの「教育法」(Opplæringsloven)の「教育の目的」に、以下のような文章があります。
には、
教育は、民主主義、男女平等、学術的な考え方を伸ばすべきである。」(§ 1-1. Formålet med opplæringa)
わざわざ「男女平等」という言葉が入っているのが、おお、ノルウェーという感じですね。

法律に文言がただ入っているだけではなく、どのように実践をしているのでしょうか?
ノルウェーに「男女平等」や「ジェンダー学」といった科目は、小中高レベルではありません。
それなのにどうやって可能なの?と長年モヤモヤしてたんですよね~。

しかーし、灯台もと暗し。普段、ノルウェー語レッスンで使用しているテキストに答えがゴロゴロ転がってました!
レッスンで使用しているのは、ノルウェーで発行されたテキストです。利用対象者は、移民や難民さらに留学生など「ノルウェー本国で暮らす人」または「暮らそうとしている人」です。
なので、テキストの内容は、スーパーでの買い物や郵便の出し方、スマホの契約、さらには仕事探しなどとっても実用的。

テキストには、今のノルウェーの暮らしぶりがわかる写真やイラストが多く載っているのですが、ちょっとご覧ください。

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家事や育児をするのは男性だったり、タイヤの交換をしているのが女性だったりと従来の「性別役割分業」を踏襲しないような写真が使用されていますね。またサッカーをしている女の子の写真がありますが、国によっては女性がサッカー?と不思議に思う外国人もいるかもしれません。
さらには、「家にこもりがち」とイメージが強いムスリム女性がジムで運動しています。

これらの写真は、もはやノルウェーでは「当たり前」の風景です。別に「やらせ」ではありません。
ただ、ノルウェーには現在たくさんの文化圏の外国人が住んでいます。
家事育児=女性、サッカーやタイヤ交換=男性が当たり前と考える外国人は違和感を覚えるかもしれません。
なので、言葉だけではなく、ノルウェーの価値観も同時に学んでほしいという意図がテキストの写真に表れているのかな~と想像しています。

ノルウェーに行った日本人が「平日の昼間からベビーカーを押している男性」に反応し、写真を撮っているのも、それが日本ではまだまだ一般的ではないからですよね。
実はこうした日本人の行動は、ノルウェーの新聞だったか小説でネタにされてました・・・!

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・・・ということで、知らず知らずにノルウェーの「ジェンダーの視点が盛り込まれた」テキストやメディアに見慣れてしまうと、日本では「ええ?」と反応してしまうのは副作用でしょうか。
例えばこちらの新聞記事(朝日新聞、2016年2月21日)
教える側は男性識者一人、教えてもらうのは若い女の子だけ。「18歳選挙権」という大事なテーマなのに、女性識者や若い男の子はどこにいる??

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この違和感をTweetしたら、700以上RTされて、本人もびっくりです!

ノルウェー語テキストから、垣間見られるノルウェー的価値観。
言葉は、その国の歴史、文化、社会、風俗など様々な要素が映し出されます。
今回はジェンダーの視点で絞りましたが、様々な視点で「ノルウェー語テキストからノルウェーを学ぶ」ことが可能ではないでしょうか?

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若者たちと選挙 in ノルウェー

在日ノルウェー人が驚くことの一つに「選挙カー」があります。お約束のように「あのうるさい車は何なの?」と聞かれますが、日本人としても答えに窮しますね。
しかし、あれだけ違和感を覚える理由が分かりました!

9月の渡ノル時。オスロ随一のメインストリート、カールヨハンをぶらぶら歩いていると、若い子たちがたくさんいるのが目につきました。そして通りには、小屋?オープンスペース?みたいなものが置かれています。そこにはノルウェーの政党名が書かれて、若者たちは立っている人と会話をしていました。

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ちょうどノルウェーの地方選挙投票日を数日に控えた日だったので、「ああ、これか~」とピンときました。
ノルウェーでは18歳から選挙権があるのですが、若いうちから政治意識を持たせようと、学内・学外で活動を行っています(20の自治体では、16歳から選挙権あり)。
学校選挙」はその代表的なものですね。高校で、本番の選挙(国政、地方、国民投票)前に選挙を行うのですが、結果は大体的に報道され、実際の選挙に影響を与える力があります。政治家たちは学校を訪れ、生徒たちとディベートを行うのも「普通のこと」。

そして、私が実際に目にした光景は「Skoletur」=学校のツアーと呼ばれる活動です。
・・・って知ったかぶりで書いちゃいましたが、実は私も若い子たちに紛れて、各政党の小屋を周って「あの子たちは?」と質問して教えてもらったのです。
てっきり高校生かと思いきや中学生!!ほ~、エリート教育にあまり縁がないノルウェーですが、政治参加に関しては「早期エリート教育」を行っているのですね!

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中学生たちはノートを持ち、いろいろと質問をしていました。その姿を見ていると、質問する側も答える側もいろいろな肌の人が、改めてノルウェーとって移民系の存在は、ごく日常に溶け込んでいるのだな~と実感します。
置いてある政党のパンフレットは、ノルウェー語・英語以外の言語にも対応していました。お金はかかるけど、必要なことですよね。

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私も若い子たちに交じって、政党の人たちにHei!と近寄ります。すると「どこの地区で投票するの?」と聞かれるのですが、「実は観光客で、投票はできない」と説明しました。それでも「質問したいことがあるんだけど・・・」と続けると、快く応じてくれるノルウェー人たち!
例えば移民に厳しい進歩党(Frp)では「シリア難民について」、緑の党では「同じく環境政策を訴える自由党との違い」などもっともらしく質問をしましたが、投票権もない私に熱く政策を語る、語る!!

移民に厳しい進歩党のキャンディー。EU圏外国籍なので怖くて手が出せません

移民に厳しい進歩党のキャンディー。アジア人は遠慮しました・・・

説明する側は、大人も若い人もいます。特に印象的だったのが、労働党(Ap)のスペース。質問に答えてくれた女の子で、労働党青年部(AUF)のメンバーとのこと。
2011年の大量テロでAUFのメンバーは多数、犠牲となりましたが、どんどん新しい人が活躍しているのだな~と感慨深かったです。
説明する側も若い人だと、中学生や高校生の質問や問題意識を理解し、共感できるのではないでしょうか。

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投票日前の土曜日に、やはりカールヨハン通りを歩いていたら、テレビ局の仮設スタジオが出没し、ソールバルグ首相とストーレ労働党党首がいてびっくりしました!あまりに、距離が近くて写真をパチリ!

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政党のスペースも、首相もストーレ党首も、私が歩いている道と同じ高さ、同じ目線に存在していました。
このスタイルの政治活動だと、気軽に質問を投げかけたり、意見を求めることができますね。ノルウェー人の「民主主義」という言葉への強いこだわりが「バリアフリー」の政治活動スタイルとして実践されている、と感じました。

来夏から日本でも18歳から選挙権を持つようになりますが、主権者教育の在り方などどうなっていくのでしょうか?
カールヨハンを歩きながら、たくさんの刺激をもらいながら考えちゃいました。

東北の大学生たちが体験したノルウェー~その2~

さて視察団はオスロからノルウェー第3の都市トロンハイムへ移動します。

NTNU

NTNU

トロンハイムのNTNU・男女平等研究所で、学生たちはジェンダー教育の教授や准教授から包括的な「ノルウェーの歩み」を学びます。
経験則で申し上げると、こうしたジェンダー研究に取り組んでいる方ほど「危機感」が強いのがノルウェーです。「あのノルウェーで?」はい、あのノルウェーでです。
例えば、学生たちとの対話の中で「ノルウェーが抱える課題」として、「ある程度お金のある夫婦共働きの家庭では、ベビーシッター(移民たちがほとんど)を雇って子育てや家事をさせ、自分たちは仕事と家庭を両立させている現状があります」との指摘がありました。
どんぴしゃり当てはまるノルウェー人夫妻+フィリピン人メイドのご家庭を知っているので、「なるほど」と納得した次第です。

現在の日本は、こうした移民による家事サポートはいいじゃないか、という方向に向かっているようですね。もちろん、家事のアウトソーシングは利点があると思いますが、
「男女平等を推し進めるために移民が犠牲になっている」という観点はほぼ議論されていない感があります。いろいろな意見があって欲しいですよね。

さらに同研究所での意見交換で、日本の学生たちの「モテにまつわる質問」が、日ノルの違いを鮮明に打ち出しています。
-「日本では男性が”放っておけないな、俺が守ってあげたいな”と思うような女性がモテるのですが、ノルウェーではどのような女性がモテるのでしょうか?」
「好みは人それぞれでしょう。レズビアンの人だっていますからね。ただノルウェー人は小さい頃から自分で物事を決めるのに慣れているので、自立していない女性を探す方が難しいと思います。」
言い切りましたね。さすがです。

女性

視察自体がとても「充実して濃い」と感じるのは、現地通訳が守口恵子さんだった点が大きな要因と思いました。
守口さんは、「ノルウェーについて学ぶサロン」にも参加して下さったり(こちらからレポートが読めます)、また2回のノルウェーツアーでは、オスロの高齢者施設訪問のコーディネーターと通訳をお願いしました。

ツアー

報告書には、守口さんの「優しいサポート」や「印象深い言葉」が散見されます。
守口さんは日本の大学で勉強したいと考えているノルウェー人学生と視察団を自宅に招いて、カジュアルな懇談の機会を設けたそうです。
お料理はノルウェーの名物料理、フォリコール(ラムとキャベツの煮込み料理)をご用意されたとか。う~ん、素晴らしい!

フォリコール

フォリコール

私も知らなかったことですが、コーヒーカップなどを積み重ねて、ケーキやお菓子も「どうぞ好きなだけお取りください」というノルウェー式は「自分でできることを他人がやってあげるのは失礼なこと」という考え方があると守口さんが教えてくれたそうです。
私はいつも取り皿も回さないノルウェー人を「気が利かないな~」と見ていましたが(←心が狭い)、そういうことだったんですね!!!
お酒も手酌が当たり前だし、納得しました。

報告書には「守口さんからのメッセージ」が掲載されています。印象的な部分を引用しましょう。
「常日頃、日本の男女平等は100年費やしてもノルウェーに近づくのは難しいのではないだろうかと感じましたが、日本の若い世代の女子学生たちと交流し、そのエネルギーに触れて”希望がもてる”気がしてきました。(略)誰もが自分の意見を主張するノルウェーの社会には、様々な考えを持った人がいますが、同時に社会が”寛容”であるとつくづく感じます。」
私も「寛容」という言葉にうなずきます。

視察団の当事者たちの学生たちの新鮮な「驚き、戸惑い、疑問、共感、そして理解しようと試みる姿勢」は報告書に貫かれていました。
「参加学生の感想」というページもあったのですが、みなさんの真摯な姿勢に「どーせ、日本は無理でしょ」と諦めがちな大人は、もう一度、覚醒させられた感があります。

中でも「ノルウェーは”男女平等”というよりも”一人一人が平等な国”という印象に変わった」という一文が、心に残りました。そうです、そうなんです。

子ども

先日の「北欧ぷちとりっぷ」でデンマーク人のイェンスさんがノルウェー人を「真面目」と表現しましたが、ノルウェー流の復興支援方法も「真面目」の一言に尽きます。
視察団派遣は計3回行われるそうですが、若い学生たちにノルウェーを体験してもらう、という息の長い「支援」ですよね。
震災復興と日本の男女平等に、微かな、でも明るい希望を感じるノルウェーからの支援を微力ながら「フレーフレー!」と応援したい気持ちになりました♪

~拙ブログを読んで、「報告書を読んでみたい!」と思われた方へ~
報告書は無料配付しているそうですので、「せんだい男女共同参画財団」にお問い合わせいただければお送りすることが可能だそうです。
ですが在庫が50部しかないとのこと。急いでくださ~い!!
また、送付ご希望の方には送料を実費負担(クロネコヤマトのメール便で82円)をしていただくことになります。
【財団の連絡先】
公益財団法人せんだい男女共同参画財団 総務企画課
TEL 022-212-1627 FAX 022-212-1628
メール sola3@sendai-l.jp
ホームページ http://www.sendai-l.jp/