子どもの本フェスティバル!~オスロ絵本を訪ねる旅7~

昨年のオスロ訪問は本当にラッキーでした。滞在中に”Barnebokfestival i Oslo“「オスロ子どもの本フェスティバル」が開催とちょうど合ったのです!
子どもの本フェスティバルがオスロで開催されるのは、2015年が初めて。期待は高まります!

かなり遅れて発表された3日間のプログラムを見ると、複数の出版社が協力し、会場もいくつか分かれています。
「う~ん、どれを見に行こう?」と迷いましたが、2014年のNORLA(ノルウェー文学普及協会)主催の「翻訳者セミナー」でちょっとご挨拶したKari Stai(カーリ・スタイ)さんの読み聞かせに参加することに決めました。

会場のGrafillに到着すると、たくさんの絵本をモチーフにしたデコレーションが施されていてテンションUP!

20160830-2

Grafillは、ビジュアルアーティストたちの組織によって運営されている場所ですが、カールヨハン通りから近くて羨ましい環境です。

20160830-1

カーリ・スタイさんには当日行きます!と連絡していました。
ちょっとお澄ましポーズで写真を撮ります。

20160830-6

手に持っている絵本は、代表作の”Jakob og Neikob”(ヤーコブ オ ナイコブ)です。
何に対しても”Ja”「はい」と言うJakobと、何に対しても”Nei”「いいえ」しか言わないNeikobの2人組が繰り広げる珍道中は、もう4冊目まで出版されている人気シリーズ。
さてどんな読み聞かせになるのかな・・・と外を伺うと、お、小雨の中でたくさんの子どもたちが列を作っています。

20160830-7

会場スタッフに尋ねたところ、小学校2年生のグループだとか。
ようやく中に入ってくると、阿鼻叫喚・・・ま、元気いっぱいですよね。
私は写真が自由に撮れるように後ろで見ていました。

カーリ・スタイさんが話を始めると、先ほどの喧噪が嘘のように子どもたちは静かになります。
スクリーンに絵本を映しながら、読み聞かせは進んでいきます。
後ろに立っていながら、子どもたちが夢中になって物語の世界に入っていくのが伝わってきます。
Jakobがワニに「食べてもいい?」と聞かれて「Ja」と答えてしまい、Jakobたちがワニに食べられていくシーンでは、笑いが起こりました!

20160830-3

読み聞かせが終わって、カーリ・スタイさんが物語を生み出すきっかけをわかりやすく説明しますが、その間も子どもたちは質問したり、感想を言いたいのか熱心に手を挙げています。女の子、男の子は関係なかったですね。あまりの「挙手率」にびっくりしてしまいました・・・。

20160830-4

カーリ・スタイさんは子どもたちと接することに慣れているようで、一つ一つの質問を丁寧に真面目に、そしてユーモラスに答えていきます。

20160830-8

実はこの読み聞かせイベントの後、オスロ中央図書館に行きました(こちらのブログをご参照ください)。その時、児童書部門のアニッケさんに「ノルウェーの子どもたちがとても積極的に手を挙げていて驚いた」と話したら、「でしょ?でもね、私が小さかった頃、今のように気軽に質問なんてできる雰囲気ではなかったのよ。ずいぶん変わったと思う。」と教えてくれました。

ということは、ノルウェーの子どもが元々、積極的というよりも、学校や様々な場面で、積極的に質問や意見を言うことが後押しをしてきたのかな~と想像しました。
大事なのは、子どもたちが安心して発言できる雰囲気を作ること。そしてそれは大人の役割だよね、とぼーんやり考えます。

楽しかった読み聞かせイベントは終わりになり、子どもたちは賑やかに帰り支度を始めます。
カーリ・スタイさんと話したい子どもたちが寄ってきて、うーん、こういう心理は日本もノルウェーも一緒だ、と写真をぱちり。

20160830-5

子どもの本フェスティバルは、まだ書きたいことがあるので続きまーす。
さて来月のノルウェー出発までに間に合うか???

つづく
(書けばいいんです、書けば・・・)

ひとりぼっちの出版社~ノルウェーの絵本を訪ねる旅 3~

ノルウェーの人口は520万人。当然ですが、出版社の数は少ないです。買収が進み、大手傘下になってしまった出版社が幾つかあります。
「大手が強い」ノルウェーの出版界で異色の「ひとりで切り盛りしている出版社」との出逢いは、2014年の「翻訳セミナー」(NORLA主催)のことでした。

セミナー会場はホテルでした

セミナー会場はホテルでした

その時の様子は「1」に書きましたので、ご参照ください。私が一目惚れした「レトロスキー本」の版元が、このMagikon(マギコン)という会社です。

20151229

Magikonは、社長のSvein Størksen(スヴァイン・ストルクセン)さんが1人で切り盛りしている会社です。
ノルウェーの絵本は、通常、出版社の1つのカテゴリーとして出している場合がほとんどですが、Magikonは絵本を中心にビジュアルにこだわった本を発表しています。
実は、「翻訳セミナー」で出会うまでMagikonのことを知りませんでした。
9月の旅では、ぜひMagikonとスヴァインさんについてもっと知りたくて、会社訪問することにしました。

会社はオスロ中心地から電車で15分くらいのところ。山の上の住宅地にあります。
・・・というか、こちらはSveinさんの自宅兼オフィスなのです!

20160217-1

イラストレーター・絵本作家のKristin Roskifte(クリスティン・ローシフテ)さんがパートナーで、まだ小さなお子さんが3人。
早速、地下のオフィスにお邪魔しまーす。

20160217-3

スヴァインさんとのやり取りを抜粋しますね。

-Magikon設立のバックグラウンドについて教えてください。

「僕もクリスティンもずっとフリーランスのイラストレーターでした。15年、フリーランスのイラストレーターをやってきて、大手出版社が出す絵本に満足できなかったのです。絵本はまずテキストがあって、イラストは後まわし。イラストなどビジュアルが重視されていない気がしていました。そこで2007年にMagikonを立ち上げることにしたのです。」

-1人で出版社を運営するって大変だと思うのですが・・・。

「経理以外のことはほぼ全てを担当しています(注:本の発送手続きも社長自ら)。現在まで60冊を出版しました。海外に翻訳された本も、お蔭さまでたくさんあります。最初に出版したクリスティンの本がヒットしたのはラッキーでしたね。」

20160217-5

-本を出版する上で大事にしていること、やりがいは何でしょうか?

「モットーにしていることは、自分がいいと思う本しか出版しないこと。イラスト、テキストともにクオリティーが高いことは不可欠です。仕事をしていて楽しいのは、イラストレーターと作家の組み合わせを考えること。自分が編集から全て行っているので、イラストレーター、作家と密接にコンタクトできるのは、いいことだと思ってます。そこは大手と違うでしょうね。自分はずっと絵を描き続けたいし、大好きな本を出版できる喜びは言葉にできないです。」

20160217-4

-「翻訳セミナー」でもエージェントカフェに参加していましたが、海外進出も積極的なのですね。すでに絵本は、欧米圏だけではなく中国や韓国でも出版されてますが。

「はい。たくさんのブックフェアに行って、人との出逢いを大事にしています。欧州以外にも、アメリカ、カナダ、中国や韓国のブックフェアーに行きました。お金を稼ぐためには、お金を使うことが大事ですよ。」(注:スヴァインさんは3月にノルウェー大使館の文学セミナーで登壇予定です。詳細はこちらから。)

・・・とお話や写真撮影をしていると、お子さんたちがクリスティンさんと一緒に帰宅して、一気ににぎやかになりました。
クリスティンさんもイラストレーターですので、離れのアトリエをプチ訪問させていただきます。スヴァインさんは「夕食の支度しなくちゃ~」とキッチンへ。

スヴァインさんのオフィスは地下ですが、クリスティンさんのアトリエは庭にある小さな小屋。中に入ると、おお~と広い仕事スペースが羨ましい!
「子どもが学校や保育園にいった後、私はこの離れのアトリエで、雑念を忘れて仕事に集中できます。」

20160217-12 (2)

アトリエの中には、たくさんのスケッチブック。解説を聞きながら、見せて頂きます。

20160217-7

その時に取りかかっているプロジェクトのために、スケッチブックは持ち歩たり、たくさんの試作を重ねるそうです。

20160217-8

他にもいろいろなオブジェが飾られていて、じっくり見ていたら飽きません。

20160217-9

日本のものをいくつか発見したのですが、「もうずっと前に、日本へ行ったことがあるのよ。日本のシンプルで可愛いなイラストが大好きです。」と教えていただき、ほ~っと驚きます。

20160217-10

アトリエを後にして、再び本宅へ。3人の子どもたちは、仲良く子ども番組を観ています。

20160217-11

スヴァインさんは何を作ってくれるのだろう?いい香りが漂っています。ダイニングにサーモン料理が並びましたが、おお、さすがアーティスト!野菜の切り方がおしゃれです!

20160217-2

子どもたちが「わ~~~!!」と騒いでダイニングに入ってきましたが、ご夫妻が「これからは大人の時間よ!」とドアをばたーんと閉めちゃいました。

絵本やイラストレーターたち、出版社や書店事情などいろいろ興味深いお話しをうかがいました。
本の買い取り制度がなかったら、出版社を作るのは無理だっただろう」とスヴァインさんの言葉が残りました。
この「本の買い取り制度」は、最初のブログで触れたグロー・ダーレさんの講演でも、強調されていたものです。
小国ノルウェーが自国の文化を守るための同制度とは?? そのお話はまたの機会に・・・!

つづく(といいなぁ)

そもそものきっかけ ~ノルウェーの絵本を訪ねる旅 1~

一番最初に、ノルウェー語の本を買ったのは絵本=bildebokです。学習を始めて半年くらいで「ノルウェー語の本を読んでみたい!」と購入しました。
絵本のテキストは予想以上に難しかったけれども、ノルウェーらしさ満載のイラストを眺めて楽しみました!(実はスウェーデン原作の絵本だったのですが・・・。顛末はこちら

それ以降もポチポチと絵本を買ったりもらったりしていました。「ノルウェーについて学ぶサロン」で「ノルウェーの絵本」について2回、お話ししていますね~。最初のレポート2回目のレポートがご覧になれます。

そんな感じでノルウェーの絵本とは、「つかず離れず」状態だったのですが、運命的!と思える出逢いがありました~。
NORLA(Norwegian Litterature Abroad)「ノルウェー海外文学普及協会」が主催した「翻訳者セミナー」が2009年に開催された時、ラッキーなことに参加できました。その時のレポートはこちらに記していますが、グロー・ダーレさんとスヴァイン・ニーフースさんの『Sinna Mann』に衝撃を受け、その後、紆余曲折を経てパパと怒り鬼』となり邦訳出版に至ることができました。

20151227-2

2014年にもNORLA主催の「翻訳者セミナー」が開催されたのですが、「これいい!」と一目惚れした絵本がありました!
タイトルは『Slapsefjell』。60年代頃のノルウェーのスキー場での1日がノスタルチックかつシュールに描かれています。イラストはレトロ調で「これぞノルウェー!!」てんこ盛り絵本です。

20151229

出版社の人に聞いたら「ノルウェー語のサンプルはこの1冊しかない」とのことでしたが、半ば強奪した次第です。こちらから中身をちょっと覗くことができますよ~。
他にも、絵本作家やイラストレーターたちのプレゼンテーションや聞くことができ、大いに刺激を受けることができました(キュッパシリーズの作者、オーシルさんもお話しされていたのですが、”Big in Japan”と紹介されていて本人も照れてましたね・・・)。
まだ邦訳はされていませんが、ノルウェーやヨーロッパで評価が高いStian Hole(スティーアン・ホーレ)さんのワークショップでは、作品の芸術性の高さに感銘しました!

Annas Himmel(アンナの空)より

Annas Himmel(アンナの空)より

帰国後、持ち帰ったり送ってもらった絵本を見ながら、2013年に来日講演してくれたグロー・ダーレさんの言葉を思い出しました。
「ノルウェーには、とても素晴らしい絵本作家やイラストレーターがいるんです。」
グロー・ダーレさんはご自身のお気に入りの絵本を持って来てくれて、その中で気になった1冊がØyvind Torseter(オイヴィン・トールシェーテル)さんの『Hullet』でした。本の真ん中に開いた穴をめぐる絵本なのですが、セリフはごくわずか。まるで上質なコメディー映画を観ているような感覚になれます。

20151227-4

ノルウェー語レッスンの部屋に置いていたら、デザイナーの生徒さんが「これ、貸してください」とおっしゃったので、やはりデザイン系の人には刺さる絵本なのだな~と実感。
こちらは『穴』というタイトルで邦訳されています(ワールドライブラリー社、ひだにれいこ訳)。

個々の絵本に触れながら、「もっと絵本と取り巻く環境を知りたい!」とテンションUP!
9月のオスロ訪問に合わせて、自分が行ってみたい!と思う「絵本をめぐる場所や人」を訪ねることにしました。さらに幸運なことに・・・オスロで初めて「Barnebokfestival」(子どもの本フェスティバル)が滞在中に開催されることが分かり、テンションMAX!! 

・・・いつも前置きが長くなるのは悪い癖ですが、これから不定期にユルユルと「ノルウェーの絵本を訪ねる旅」と書いていきたいと思います~(オスロ旅行記も終わってません・・・)。

つづく(ハズ)