人と違うってノルウェーでも難しい?

ノルウェーは個性重視の国だと思ったので、意外でしたね
ノルウェー絵本『うちってやっぱりなんかへん?』(トーリル・コーヴェ著、青木順子訳、偕成社)の寄せられた感想で、これが目立ちました。
主人公「わたし」は、60年代のノルウェーの小さな町で「おしゃれすぎた」両親やインテリア、服などに悩み「普通の暮らし」に憧れています。

2/19開催のイベント「北欧からの贈り物~絵本とわたし~」で作者トーリル・コーヴェさんのビデオメッセージでも「目立ちたくなかった、周囲と溶け込みたかった」と小さな頃の心境を語っていました。

「他者との違いに寛容」なイメージのノルウェー。
しかし、ノルウェーの文学作品には「人と違うこと」に悩む登場人物が存在します。
『スプーンおばさん』のアルフ・プリョイセンと同時代に活躍した「ノルウェーのおばあちゃん」ことアンネ・カット・ベストリー(Anne-Cath.Vestly)。
Aurola i Blokk Z“「Z棟のオーロラ」(1966年)シリーズでは、「家事育児をする学生パパ、外で働くママ」を持つヒロインのオーロラが、大人たちの偏見や心ない言葉に傷つく姿が描かれています。今でこそこうした夫婦もノルウェーではアリかな、と思いますが、60年代ではまだまだ専業主婦が当たり前でした。

『うちってやっぱりなんかへん?』の主人公「わたし」のお母さんは、建築家として働いていました。
お隣のお母さんは専業主婦。わたしは「いつも家にいてくれるなんていいな」と羨ましがっています。やはり60年代ですね。

現代ノルウェーを代表する国民的作家ラーシュ・ソービエ・クリステンセン(Lars Saabye Christensen)。
昨年、日本でも公開された映画「イエスタディ」の原作者です(オリジナルタイトルは”Beatles”)。
88年に出版した”Herman”「ハルマン」という小説では、小学生の主人公ハルマンの生活が描かれています。ここでもやっぱり「違っている」ことで傷つく子どもが登場するんですよね。

赤毛っていじめられちゃうんだ~とこの作品で驚きました。赤毛の女の子は、しょっちゅう髪の毛のことでいじめられます。
髪の毛つながりでいくと・・・主人公ハルマンは、段々、髪の毛が抜けていく原因不明の症状に陥ります。その過程で「いかに他の子どもと同じように見せるか」に腐心する両親と、そうした態度に傷つくハルマンの繊細な心情が描かれています。親は「良かれ」と思ってカツラを作ってあげますが、ハルマンの心は複雑です。

もっと現代の作品では「ノルウェーにもあるスクールカースト」が描かれています。
ブロンドできれいな女の子たちがクラスのトップ、メガネで地味な女の子はしょっちゅういじめられたり、からかわれている姿を学校生活を描いた”Kampen mot superbitchene“「スーパービッチたちとの闘い」(A. Sighild Solberg著、2014年)というヤングアダルト小説があります。

ブロンドでなければ、ロングヘアーでもない、しかもメガネのヒロインは「変わり者」の烙印を押されて、意地悪なブロンド女子軍団と立ち向かうストーリーですね。

・・・・とここまで紹介しましたが、いずれの作品も「自分や周囲に不満な主人公が、悩みながらも自分を受け入れ、そして次のステップに上がっていく」点が共通しています。

今までは本のお話しですが、ブログでもご紹介したノルウェーのテレビドラマ”SKAM”のシーズン3でも同じような展開が見られます。
同性愛の高校生Isak。男子高生に恋をしますが、同性愛である自分を否定し、かつ同性愛者であることが周囲にばれてしまうことに怯えます。
ですが”SKAM”では、予定調和を崩してくれました~。

https://tv.nrk.no/serie/skam

様々な悩みに押しつぶされそうなIsakは、友達に男性に恋している事実をとうとう打ち明けるシーン。
相手の反応が不安になるIsakと視聴者。でも友達はケバブを食べながら、まるで好きな女の子の話を聞いているように会話を続けます。
このシーンは白眉でした!

働くママが珍しかった60年代から、友達が同性愛者であることに動揺しない2016年。
感慨深いです。
本人たちにとっては、切実な問題なことには変わりありませんが。

そうそう。トーリル・コーヴェさんがイラストを描いている”Johannes Jensen“「ヨハンネス・イェンセン」という絵本シリーズでは、税務職員のクロコダイルが「自分は人と違っている」と悩んでいます・・・。ツッコミどころ満載の絵本シリーズですが、ひるねこBOOKSさんでのトークショーでお話ししますね~。

同店では、3/10まで『うちってやっぱりなんかへん?』のパネル展を開催しています!
あと1週間、ぜひステキなビジュアルと、巨大パネルで楽しんでくださいね~♪

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ありがたいことに『うちってやっぱりなんかへん?』は、いろいろなブログで書いていただきました!
未読の方、ぜひご覧になってくださいね~。取り上げて下さったの皆さまには感謝を申し上げます♪ 

Fukuya(北欧ビンテージショップ)

北欧区(北欧総合情報サイト)

リオタデザイン(建築事務所)

ひるねこBOOKS

ねんねんさん(ノルウェーサッカー研究家)

Lillakatten リラ・カッテン (北欧スウェーデン洋菓子&北欧スウェーデン語絵本)

Z会総合情報サイト

ノルウェー絵本『うちってやっぱりなんかへん?』2/16発売です!

イベント情報が早くUPされたので、勘違いされている方がいますが・・・
うちってやっぱりなんかへん?』(トーリル・コーヴェ著、青木順子訳、偕成社)は明日、発売です~。

トーリル・コーヴェ(Torill Kove)さんの映画・絵本ともに好きです。
カナダ在住ですが、ノルウェーへの深い愛情が垣間見られる作品群。一度見たら忘れられない作品ばかりですね。

『うちってやっぱりなんかへん?』のノルウェー語版を読んだ時「小さな時は”みんなと同じ”がどれだけ大事だったか」を思い出しました。
洋服、持ち物、髪型、家の中はもちろん、お母さんやお父さん。他の子の両親と比較しちゃってましたね。
絵本の本文中には言及がありませんが、舞台は1960年代のノルウェー。主人公は3人姉妹の真ん中の「わたし」(7歳)。
モダンな建築家の両親は「自分たちのセンスにあったもの」で部屋を飾り、娘たちの洋服を選びますが・・・どうも子どもが欲しいモノとは、ずれてしまっているような・・・?

お隣の「普通の一家」、特に友達のベネディクテとの対比で、物語は進みます。
60年代はこうだったんだな~と思いを馳せちゃいましたね。働いているお母さんの方が珍しかったんだ、と。
「わたし」が嫌がっていたパパのひげ。当時は珍しかったのでしょう。今は、皇太子だってひげを生やしてます。隔世の感ですね。

本書の原題は”Moulton og meg”「モールトンとわたし」です。モールトンって何のことかわかりますか?
日本語版の奥付に、ちょっとした説明がありますので、ぜひご参照くださいね。へ~、こういうものがあるんだと勉強になりました。

ノルウェー好きの皆さんには、ノルウェーが誇る国民的英雄ナンセンが「え?こんな登場の仕方で?」と驚くような姿で描かれていますのでお楽しみに。
ナンセンの犬の名前は、ノルウェー語がわかる方ならば「ああ!」と納得するハズです。

発売前に、献本を何人かの方にしたのですが「とても素敵な絵本なので、孫に買ってあげます」というご連絡を下さった方がいました。
プレゼントしたくなる絵本」になってくれればいいな、と思っていたのでとても嬉しかったです!
ノルウェーの絵本作家グロー・ダーレさんが「私の絵本は、大人の女性同士がプレゼントに使っていることが多いみたい」と教えてくれたんですよね。
それを聞いて、「あ、すてき」と思ったんです。
絵本は子どもだけのものだけではなく、『うちってやっぱりなんかへん?』は大人の読者にも楽しんでいただけるのでは?と期待しています。

本書は、ノルウェーの長く暗い冬を経て、どんどん日が長くなる春から始まります。
そう、みんなの心がうきうきする季節!
ラストシーンは、葉が色づいてきた秋。3姉妹のうしろ姿から、様々な余韻が残ります。
トーリルさんの作品は、深いメッセージが奥ゆかしくちりばめられています。そう、どんな読み方も許されるのです。
ぜひ、お手に取っていただき、皆さんなりの読み方で楽しんで下さい♪

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『うちってやっぱりなんかへん?』の刊行を記念し、イベントがあります! イベントで絵本をお買い上げの方には限定特製カードをプレゼント!(数に限りがあります)

2/19(日)「北欧からの贈り物~絵本とわたし~」
トーキョーノーザンライツフェスティバル主催!
原作アニメーションやトーリル・コーヴェのビデオ・メッセージ、キュッパのアニメーション上映、北欧絵本トーク(稲垣美晴さん、森百合子さん、イェンス・イェンセンさん、青木順子)など盛りだくさんの内容です! 開催日が迫っていますのでお早めに前売り券をお求めください。
参照URL: http://tnlf.jp/event.html

2/24(金)~3/10(金)『うちってやっぱりなんかへん?』発売記念パネル展@谷中ひるねこBOOKS
ポップなビジュアルをぜひパネル展で堪能できる機会です。谷中ひるねこBOOKSは絵本・北欧・猫に関する本を特色とした居心地のいい本屋さんです!
参照URL:http://hirunekodou.seesaa.net/article/445853863.html?1485487456

3/9(木)『うちってやっぱりなんかへん?』刊行記念トークイベント
「ノルウェー絵本の魅力- オスカー監督トーリル・コーヴェの世界」@谷中ひるねこBOOKS

訳者青木順子によるトークイベントです。新刊のお話はもちろん、作者であり、世界的な短編アニメーション監督のトーリル・コーヴェのこと、そのほかノルウェーの絵本事情などを存分に語ります!サイン会あり。お土産付き。
参照URL:http://hirunekodou.seesaa.net/article/446356992.html

限定ポストカード!

グレーテルのかまど「スプーンおばさんの”ワッフル”」余話

昨夜のNHK Eテレ「グレーテルのかまど」はご覧になられましたか?
OA中はドキドキでしたが、ちょっと振り返ってみます。

制作スタッフの皆さんが、拙宅に来られた時。
機材とスタッフの多さで、まずびっくりしました~。
皆さん、どんどん収録準備を進めていくので、私は正直「邪魔」。台所で、ワッフルのたねを作っています。

インタビューシーンの収録では、キーワードを紙に書きテーブルに置いていました。つい視線が下にいってしまいます。それがダメなんですよね~。
スタッフの皆さんは優しく「大丈夫ですよ」とおっしゃいますが「ああ~~~、私のせいで撮り直しが続く・・・」と焦りはつのります。これだから素人は・・・!
なので「テレビ映りは?顔テカッてない?」といったことは「二の次、三の次」。考えている余裕、なかったです!
そこから、編集されたインタビュー映像がOAで流れたとおりです・・・。は~~~~。

それから、アネッテさん、イーダさん、ラーシュさんのノルウェー人チームが合流。
聞けばラーシュさんは「ノルウェー帰国前日」とのこと。思いがけず「送別ワッフルパーティ」になりました。

ディレクターからの質問で、みんなのワッフルの思い出を聞いていると「へ~、そうなんだ」と横で聞きながら楽しかったです♪
ワッフルのレシピは無限。みんなとワッフルの思い出もさまざま。
ラーシュさんが「クジラを使ったワッフルレシピを見たことがある」と発言し、え??と驚きました。残念ながらカットされちゃいましたね。

あと嬉しかったのは、ディレクターが「せっかくだからノルウェー語でお話ししてもらいたいです」とおっしゃって下さったこと。
旅番組などでも、ノルウェー人が英語を話す場合が多いですよね。もったいない!あのワッフルパーティの部分は、映像翻訳もお手伝いしました。

OAを観て「カルダモンは北欧のお菓子に欠かせない」といった趣旨のシーンがありました。
アルフ・プリョイセンとともに、ノルウェーのラジオで人気者となったトールビョルン・アイナル(Thorbjørn Egner)。
彼の代表作に”Folk og røvere i Kardemomme by“「カルダモン町の人々と泥棒」というお話があるくらい身近な存在なんですよね。

番組で「カルダモンはパウダーではなくミルで挽いた方が香りがいい」とありましたが、私もパウダーは使いません。
ワッフルの材料を混ぜながら、カルダモンの粒を挽いていると、何ともいえないいい香りがただよってきます。ぜひ、お試しあれ!

おまけ。
瀬戸康史さんやキムラ緑子さんが集まるスタジオ収録には、参加しませんでした。
しかーし。図々しく、”Teskjekjerringa”「スプーンおばさん」のノルウェー語版に、瀬戸さんのサインをお願いしちゃいました~。

ヘンゼルのサイン

さすが第一線で活躍されている方の「人徳」を感じるサイン。「ヘンゼル」と書いてあるのがお茶目です~。

ノルウェー夢ネットでは、ノルウェー語レッスンで、ノルウェーワッフルをbrunost=ブラウンチーズと一緒にお出ししたり、また「ノルウェーについて学ぶサロン」で「ワッフルパーティ」を開催しています(サロンは次回未定です)。

また昨年は、谷中ひるねこBOOKSにて「ノルウェーワッフルを食べながらノルウェー絵本トークショー」もやってみました~。
ノルウェーワッフルも、ブラウンチーズも初めて!という方が多いので、楽しかったですね。
サロンの方は「ワッフルの回には絶対に来る常連さん」が存在します。
しみじみと「ノルウェーワッフルの引きの力」を感じますね。

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2/16発売のノルウェー絵本『うちってやっぱりなんかへん?』(トーリル・コーヴェ著、青木順子訳、偕成社)の紹介をサイトにUPしました!
関連イベントも掲載しましたので、ぜひお申し込みをお待ちしています♪

http://norwayyumenet.noor.jp/hp/info/moulton.htm

グレーテルのかまど「スプーンおばさんの”ワッフル”」放送!

「え?スプーンおばさんってノルウェーの作品なんですか?」
何度、聞かれたかわかりません・・・。日本ではNHKが放送したアニメーションでおなじみですよね。

Teskjekerringa“『スプーンおばさん』は、ノルウェーの児童作家・シンガーAlf Prøysen(アルフ・プリョイセン)を国際的にメジャーにした作品と言われています。

絵本で描かれたプリョイセン

NHK Eテレの「グレーテルのかまど」制作スタッフから「スプーンおばさんとノルウェーワッフルを取り上げるので、取材に協力してほしい」と連絡があったのは昨年でした。
おお!大好きなノルウェーワッフルとスプーンおばさんがセットでやってきた~と嬉しかったですね。しかも「グレーテルのかまど」。テンションUP!

「ノルウェーに関する情報は少ないです」と苦労されているスタッフの方々に「ノルウェー伝道師としてサポートせねば!」と使命感を(勝手に)感じて、改めて『スプーンおばさん』を読み直してみました。
強く感じたのは「ノルウェー民話とのつながり」です。

19世紀。ドイツのグリム兄弟のように、ノルウェーではAsbjørn og Moe(アースビョルンとモー)がノルウェーの各地を旅して、土地の人々が話す「お話」を聞き取り「ノルウェー民話」として本にしました。『3びきのやぎのがらがらどん』もその一つです。
民話には、たくさんのkjerringa=おばさんが登場します。kjerringaは、おばさん、既婚女性、妻といった意味があります。
日本語でも「おばさん」の使い方は要注意ですが、kjerringaも言い方次第では「このババア!」みたいなニュアンスになりますよ~。

ノルウェー民話で描かれるkjerringaは・・・・強い!たくましい!まさにノルウェー女性です。
ダンナと壮絶な喧嘩をするkjerringa。こんなイメージです。

スプーンおばさんは、そこまでバイオレンスなおばさんではありません。
でも、よーく読むと「強い」ですよね。スプーンくらいの大きさになっても、動物や子どもを助けるおばさん。人のいい旦那さんを、上手く言いくるめちゃうおばさん。硬軟あわせもった強さを感じます。

他に民話とのつながりを感じたのは「耳になじむお話」であることでしょうか。
そもそも民話は本で読むものではなく、おじいちゃん・おばあちゃん、お父さん・お母さんが子どもたちに聞かせた「耳で伝わったお話」です。「口承文学」ですね。
戦後、アルフ・プリョイセンはラジオで人気者になりました。
まだテレビがなかった時代、ラジオから流れてくる彼の面白いお話と楽しい音楽は、熱狂的に愛されました。
『スプーンおばさん』は、耳に心地よい「歌うような物語」だと感じます。実際、たくさんの歌が挿入されていますね~。

リサーチ中に気づいたのですが、ノルウェーのサイトで”Teskjekjerringa”の紹介には「ノルウェーではなく、まずスウェーデンで出版された」というフレーズが必ず入っているので笑っちゃいました。
スウェーデンでも人気!と強調したいのでしょうね。あと日本のアニメーション化も言及されてますよ。

あ~~~、ノルウェーワッフルへの愛を語るスペースがなくなってしまいました~。
ノルウェーワッフルの魅力」というブログを以前、書きましたので、ぜひご一読ください!(今は骨折中でワッフルが焼けないのが悲しいです・・・)
ハート型のワッフルは、ノルウェーにどっぷりつかっている身としては、当たり前なんです。でも、初めての人は「可愛いですね~」と反応してくれるのが嬉しいですね。

http://norwayyumenet.noor.jp/2016/12/09/11844/

さらに、北欧ビンテージショップFukuyaの三田さんが、番組へ食器やワッフルアイロンを貸出された顛末をブログに書かれてます。
以前、三田さんのワッフルアイロンを見て「これ、絵になるしおいしく焼ける!」と思っていたんです。
普通の電気式マシーンにはない味わい。なので番組スタッフへ推薦しちゃいました~。

http://www.fuku-ya.jp/blog/2017/01/27/9479/

肝心の「グレーテルのかまど」放送情報はこちらから~。2/6(月)です!

http://www4.nhk.or.jp/kamado/x/2017-02-06/31/7814/1440401/

予告編を見ただけで具合が悪くなるほど小心者です。
参考映像の収録は拙宅だったのですが、不慣れかつ「収録ってこんなに大変なんだ!」と思うほど長い時間がかかりました。
運が良ければ、ちょっとだけインタビュー映像が流れるかと・・・。あとノルウェー人のアネッテさん、イーダさん、ラーシュさんも収録に参加してくれました、Takk!

放送をきっかけに、ノルウェーワッフルとスプーンおばさんへの興味が高まりますように♪

詩とテレビの相性は?~オスロ旅行記4 2016~

帰国前夜の日曜日。たまたまつけたNRK2のテレビ番組に「ん??」と目が釘付けに状態に。
男性が、詩を朗読しています。まさかポエトリー・リーディングをテレビでやってる?

20161102-1

さすが国営放送。日曜のゴールデンタイムに、こういう番組をやっているのね、とおかしくなりました。パッキングしながら、テレビをつけっぱなしにしていましたが、次から次へと詩が朗読されたり、現代や昔の詩人の紹介をしたりと番組は終わる気配はありません。
気になってテレビ欄で確認します。「ひ~~!!」目を疑いました。この番組、18時~23時まで放送・・・5時間も詩の番組をやるんですか??

はい、やってました。”Dikt og Forbannet løgn” (「詩とひどい嘘」イプセンのペール・ギュントにある有名なフレーズ)という番組です。
最初は「ぷぷ、公開ポエトリー・リーディングか~」と笑ってましたが、留学時代に勉強した詩や詩人が紹介されていくにつれ、どんどん番組に惹きこまれています。

5時間も詩の番組ということで、合間合間に工夫が見られました。例えば、ヒップホップグループや男声合唱団に詩を歌わせたり・・・

20161102-4

あと男性2人の司会者が「あなたの詩を番組にメールで送って下さい」と呼びかけたり・・・・いやいや、ノルウェー人は詩を書けるからすごい数が来るよ!と焦ります。
まぁ考えてみれば、日本でもEテレで短歌や俳句番組を放送しますよね。ただ違いは「放送時間帯」と番組の「予算」でしょうか。
ここで見覚えのあるお顔が画面に登場します。メッテ・マーリット(Mette-Marit)ですね。ノルウェーの皇太子妃です。

20161102-5

国民的詩人André Bjerke(アンドレ・ビャルケ)の詩を、南ノルウェーの方言で朗読。薄々は勘づいてましたが、この番組の並々ならぬ「気合」が伝わってきます。
他の企画として、オスロやベルゲン、スタヴァンゲルなどの町で、人々に「どんな言葉の詩を書いてほしいか」かのインタビュー映像が流れました。
tro(信じる)、fred(平和)、rettferdighet(公平)、mørkt(暗闇)などバラバラの単語を、街行く人は挙げていきます。
スタジオにいる若手の詩人たちが、30分くらいの時間内に、それらの言葉を使って詩を創作するという試みでした。
笑点より難しい!生放送だし放送作家いないです。
若手詩人の顔が、栗原類に似ていると思って写真を撮ったのですが・・・

20161102-11

帰国後「髪型しか似ていません」と切って捨てられました・・・。いや、角度によっては似てたんですよ。
正直、完成した詩によって感心したり「もっといい詩ができないのかな?」と生意気にも思っちゃいましたが、詩のライブ感は十分に伝わりました。
外出していたアウドさんも帰宅し、一緒になって視聴。画面には再び、見知った顔が映ります。絵本作家・詩人のグロー・ダーレ(Gro Dahle)さんです!

20161102-6

トレードマークのツインテールに、全くの普段着。さて、彼女に与えられたミッションは「詩の創作教室」でした~。
MCたちが生徒役になり、まずグローさんが「お互いの舌を手で触ってみて」と言います。当惑する生徒たちですが、素直に触りあってました。
「その匂いは?感覚は?何を思い出す?」とグローさんは尋ねて、2人はいろいろな言葉を発していきます。
それを「いいわね!とってもいいわよ!」と彼女は紙に書き取って、どんどん言葉をつなげていきました。

20161102-8

誉め上手、励まし上手のグローさんのリードにより、最後には即興詩が完成~!!MCたちも「まさか詩がこんな風にできるとは」と感動してました。
「詩は自由。詩は自分のもの。ただ書けばいいのよ」とグロー・ダーレさん。
パパと怒り鬼~話してごらん、だれかに~』で仕事をご一緒したので、作品はもちろん彼女からもらったメールまでもが「すごい、詩になっている」と感心したことは何度もありました。

全く予備知識がないまま見始めた番組ですが、まるでベストテンのような趣向が最後に待ってました。
ノルウェーで最高の詩」を選ぶという無謀な(!)企画です。
あらかじめ6つの詩が、審査員により絞り込まれていたようです。詩人と詩を紹介する映像が流れます。
ちなみに6つの詩は以下の通りです。

  • Halldis Moren Vesaas(ハルディス・モーレン・ヴェーソス)作 ”Ord over grind“(1955年)
    女性詩人として唯一のノミネート。夫とともに創作活動に励む。「ノルウェーで最も美しい愛と孤独の詩」と評される。
  • Tarjei Vesaas(タルエイ・ヴェーソス)作 ”Innbying“(1953年)
    Halldisの夫。小説も数多く出版し、北欧文学賞受賞。この詩は美しい愛の詩として知られる。
  • Arnulf Øverland(アルヌルフ・オーヴェルラン)作 ”Du må ikke sove” (1937年)
    早い時期から反ナチス活動を行い、この作品もナチズムの台頭を警告する詩として、広く知られている。
  • Olav H.Hauge(オーラヴ・H・ハウゲ)作 ”Kvardag” (1966年)
    ハルダンゲル地方でリンゴ農家をしながら詩作を行った詩人。幼少から年を重ねる過程の日常についてを、短い言葉で表現。
  • 同上の”Det er den draumen“(1966年)もノミネート。タイトルの”draum”=夢についての短い詩。葬式、結婚式、堅信礼でよく暗唱される。
  • Sigbjørn Obstfelder(シグビョルン・オブストフェルデル)”Jeg ser“(1893年)
    ノルウェー最初のモダニズム詩人と呼ばれる。詩では、孤独、不安、そして”異邦人”のような感覚が表現された。

これらの詩をいろいろな俳優がイメージ映像とともに朗読するのですが、感動的でした!
留学時代の古ーい記憶が甦ってきますが、アウドさんは「全部の詩が暗誦できる」と余裕の表情。やっぱり詩が大事な国なんだな~と納得です。
興味深いのはノミネート作品のうち、ニーノシュクで書かれた詩が4つを占めたんです(ノルウェー語にはブークモールとニーノシュクという公用語があり、ニーノシュクはマイナーな方)。よくニーノシュク擁護派は「ニーノシュクこそ詩的で美しい」と言っていたな~とぼんやり思い出します。

視聴者からの投票を呼び掛けますが、きっと多くのノルウェー人が投票したことでしょう。
いよいよ発表の瞬間・・・緊張が走ります!

20161102-9

「ノルウェー最高の詩」は、”Det er den draumen“が受賞しました~。Olav.H.Haugeの未亡人Bodil Cappelen(ボーディル・カッペレン)が舞台に上がります。

20161102-10

彼女について私は何も知りませんでしたが、アウドさんが説明してくれます。
何でも、Bodilさんは画家であり、結婚はしていたけれどもOlav H.Haugeの詩に文字通り「恋をして」、詩人と文通を開始。2人が実際に会うことができたのは、文通をしてから4年もかかったそう。「あの当時はね、そういう時代だったのよ」と感慨深そうにアウドさんは言ってました。夢が叶って、OlavとBodilは一緒に暮らし始めたのです。

Olav H.Haugeは、日本人とも縁があります。彼は漢詩に影響を受けたことが有名ですが、俳句にも興味があったということを後に知りました。
オスロ大学の図書館で、彼のことを調べている時に「昔、オスロ大学に留学した日本人がOlav H. Haugeに俳句を教えた」という文献を見つけたんですよね。いくらノルウェーは小さな国とはいえ、すごいなぁ、同じ留学生でも私とはすごい違いだなぁ、と感嘆した記憶があります。

20161102-12

5時間に亘る詩の番組は、改めて「詩の持つ力とテレビの可能性」を感じましたね。思いもかけない帰国前の思い出になりました~。
帰国後、ノルウェー人の知人と「詩をテーマに、あんなに大作番組を流しちゃうのはすごい!」と盛り上がりました。
以前のブログでも、ノルウェー人と詩の関係を書いていますので、ぜひご参照ください♪
(「詩が身近にある暮らし」、「子どもからのプレゼント♪」

詩心がない私でも、夢中になって最後まで観ちゃいました「詩の大作テレビ番組」。
ますますノルウェー人と詩の距離が縮まりそうです♪