温かいランチ~それはスウェーデンへの憧れから始まった?~

2017年のブログ始めが遅れました。
Twitterでうざったいくらいアピールしているのですが、左手首を骨折してしまい、かなーり、生活に支障をきたしています~。
気を取り直して、積読状態だった本を少しずつ読み始めていますが・・・(合間に「骨折」キーワードでネットサーフィン)。
昨年、ノルウェーの書店から買った”Den Norske Folkesjela“(「ノルウェー国民の魂」)は、その1冊です。著者のPer Egil Heggeは、Aftenposten紙で「ノルウェー語コーナー」をずっと担当しているノルウェー語エキスパート。記事などで見つけたノルウェー語のミスなどをユーモラスに指摘する「ノルウェー語ご意見番」的存在です。

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17.mai, brunost, lutefisk, grilldress, vinmonopolet….などなど、ノルウェーやノルウェー人を理解する上で大切なキーワードが、2-3ページのコラムで、Perさんならではの解説がされています。
Brødskiveの項目を読んでいた時、新たな発見があったので、取り上げますね。

このBrødskiveって単語は、ノルウェー語レッスンのテキストに出てくる際に、ちょっと説明に時間がかかります。Brød=パン、skive=スライスという意味ですが、「スライスパン」よりも、smørbrød=オープンサンドの方をイメージして下さい。パンの上にpålegg=トッピングを載せるものですね。

Brødskiveと並んで、説明に苦労するのがmatpakkeという単語。mat=食べ物、pakke=包み、からなる合成語です。
smørbrødを紙にくるんだり、ランチボックスに入れるのがmatpakkeです。写真をご参照ください。昨年9月、オスロの小学校を訪問した際に、子どもが持っていたmatpakkeを撮らせてもらいました。このmatpakkeは、ノルウェー人のランチ定番なのですが。

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と、ここまでの前知識を入れてから、Brødskiveの項目で「お?」となった箇所を書きますね。
1990年代、ノルウェーのスウェーデン大使を務めたKjellさんは退任する際「解決できなかった残念な問題はありますか?」というインタビューに対し、このように答えたそうです。
私は、ノルウェーに住むスウェーデン人たちに、温かいランチが食べられるよう助けられなかった。

varm lunsj=温かいランチ。
何かと似ている北欧諸国ですが、スウェーデンにあってノルウェーにないもの。それが「温かいランチ」だったんですね。
前述のスウェーデン大使在任中は、スウェーデンからノルウェーへ労働移民が増えていた時期。スウェーデン同志たちが、ノルウェーへやっていてmatpakkeに代表されるkald lunsj=冷たいランチに耐えていたのが、大使にとっては無念だったのでしょう。くくく・・・・

ノルウェー人は常にスウェーデンに憧れています。90年代~2000年代にかけて、「ノルウェーにもvarm lunsjを!」運動が盛り上がったんですよね。
私は留学中、やはりmatpakkeを持参していましたが、「これじゃお腹いっぱいにならなーい」といつも思ってました。
ましてや、ノルウェーの中学生や高校生たち。彼らはmatpakkeだけでは足らん!と、休み時間に近くでポテトチップスやピザなど「ジャンクフード」を買い食いしていたのです。
「子どもたちがジャンクフードばかり食べているのはマズイ!」と大人は焦り、今では学校のkantine=食堂で、温かいランチが提供されるところが増えています。

社会人はどうでしょう?特に大きな企業やそこそこの規模の会社では、やはり自前のkantineが備わっている場合が増えていますね。

昨年9月にオスロ大学のkantine=食堂に行った際、「昔とえらい違い~」と感心したのは「電子レンジの存在」です。
日本はオーブンよりも電子レンジの国、ノルウェーは電子レンジよりもオーブンの国ですが、どんどんかの国における電子レンジ所有率は高まっていますね。
電子レンジがあるということは「ノルウェー人は食べ物を温めることを知った」証です!

・・・・という状況で、みなが温かいランチへ流れるかと思いきや、matpakkeにはこんな効用もあったんです。再び本から引用してみましょう。
「matpakkeのおかげで、ノルウェーは他のヨーロッパ諸国に比べて、短いランチ休憩で間に合った。約20分もあれば十分。その結果、より早く帰宅することができ、余暇を得ることができたのである。」

確かに!! ランチに時間をかけるよりも、とっとと済ませて、とっとと帰る。その方がノルウェー人のメンタリティーに合っている気がします。
昨年、オスロを訪れた際、NORLA(ノルウェー文学普及協会)のオフィスを訪ねました。ちょうどお昼時になったのですが、みなさん、matpakkeを片手に集まってきます。

私もその時、matpakkeを持参していたので、一緒にランチを楽しみました。おいしいフルーツが置かれていて、出張に行っていたスタッフがお土産を配ったりと短いながらも楽しいランチでしたね。この時は私がいたので、少し長めのランチ休憩だったかと。30分でしょうか?

3年ほど前に、温かいランチを効率的に消化しているノルウェー人を見かけました。

トラムにて

アジア系の食べ物をトラムで食べていたこの人。周りは全然、無関心で「車内マナーのありかた」など些末なことにはとらわれないノルウェー人魂を見た、と感慨深かったです。

varm lunsjかkald lunsjか。スウェーデンに憧れながら、ライフスタイルが変化する好例でしょう。

子どもの本フェスティバル!~オスロ絵本を訪ねる旅7~

昨年のオスロ訪問は本当にラッキーでした。滞在中に”Barnebokfestival i Oslo“「オスロ子どもの本フェスティバル」が開催とちょうど合ったのです!
子どもの本フェスティバルがオスロで開催されるのは、2015年が初めて。期待は高まります!

かなり遅れて発表された3日間のプログラムを見ると、複数の出版社が協力し、会場もいくつか分かれています。
「う~ん、どれを見に行こう?」と迷いましたが、2014年のNORLA(ノルウェー文学普及協会)主催の「翻訳者セミナー」でちょっとご挨拶したKari Stai(カーリ・スタイ)さんの読み聞かせに参加することに決めました。

会場のGrafillに到着すると、たくさんの絵本をモチーフにしたデコレーションが施されていてテンションUP!

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Grafillは、ビジュアルアーティストたちの組織によって運営されている場所ですが、カールヨハン通りから近くて羨ましい環境です。

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カーリ・スタイさんには当日行きます!と連絡していました。
ちょっとお澄ましポーズで写真を撮ります。

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手に持っている絵本は、代表作の”Jakob og Neikob”(ヤーコブ オ ナイコブ)です。
何に対しても”Ja”「はい」と言うJakobと、何に対しても”Nei”「いいえ」しか言わないNeikobの2人組が繰り広げる珍道中は、もう4冊目まで出版されている人気シリーズ。
さてどんな読み聞かせになるのかな・・・と外を伺うと、お、小雨の中でたくさんの子どもたちが列を作っています。

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会場スタッフに尋ねたところ、小学校2年生のグループだとか。
ようやく中に入ってくると、阿鼻叫喚・・・ま、元気いっぱいですよね。
私は写真が自由に撮れるように後ろで見ていました。

カーリ・スタイさんが話を始めると、先ほどの喧噪が嘘のように子どもたちは静かになります。
スクリーンに絵本を映しながら、読み聞かせは進んでいきます。
後ろに立っていながら、子どもたちが夢中になって物語の世界に入っていくのが伝わってきます。
Jakobがワニに「食べてもいい?」と聞かれて「Ja」と答えてしまい、Jakobたちがワニに食べられていくシーンでは、笑いが起こりました!

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読み聞かせが終わって、カーリ・スタイさんが物語を生み出すきっかけをわかりやすく説明しますが、その間も子どもたちは質問したり、感想を言いたいのか熱心に手を挙げています。女の子、男の子は関係なかったですね。あまりの「挙手率」にびっくりしてしまいました・・・。

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カーリ・スタイさんは子どもたちと接することに慣れているようで、一つ一つの質問を丁寧に真面目に、そしてユーモラスに答えていきます。

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実はこの読み聞かせイベントの後、オスロ中央図書館に行きました(こちらのブログをご参照ください)。その時、児童書部門のアニッケさんに「ノルウェーの子どもたちがとても積極的に手を挙げていて驚いた」と話したら、「でしょ?でもね、私が小さかった頃、今のように気軽に質問なんてできる雰囲気ではなかったのよ。ずいぶん変わったと思う。」と教えてくれました。

ということは、ノルウェーの子どもが元々、積極的というよりも、学校や様々な場面で、積極的に質問や意見を言うことが後押しをしてきたのかな~と想像しました。
大事なのは、子どもたちが安心して発言できる雰囲気を作ること。そしてそれは大人の役割だよね、とぼーんやり考えます。

楽しかった読み聞かせイベントは終わりになり、子どもたちは賑やかに帰り支度を始めます。
カーリ・スタイさんと話したい子どもたちが寄ってきて、うーん、こういう心理は日本もノルウェーも一緒だ、と写真をぱちり。

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子どもの本フェスティバルは、まだ書きたいことがあるので続きまーす。
さて来月のノルウェー出発までに間に合うか???

つづく
(書けばいいんです、書けば・・・)

オスロ中央図書館~オスロ絵本を訪ねる旅 6~

この「絵本を訪ねる旅」では「図書館」にぜひ行きたいと思いました。
ノルウェーの図書館は、どのように子どもに接しているかに興味がったからです。

オスロの図書館はDeichmanske Bibliotek(ダイクマンスケ・ビブリオテーク)と言います。みんなは「Deichman」=「ダイクマン」と省略した形で呼びますね、若干の親しみをこめて。

Deichman 中央図書館

Deichmanske Bibliotek 中央図書館

以前から「どうしてダイクマンというのかな?」と思っていたのですが、Carl Deichman(カール・ダイクマン)という人の7000冊の蔵書がもとにできたからなんですね。
すでに1785年に創設。1905年の独立より125年前に図書館はできていたことになります。

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オスロにはHoved(中央)を含め、19か所の図書館があります。
私は行政府近くの中央図書館Hovedbiblioteketの児童書部門責任者のAnnike(アニッケ)さんにお会いすることになりましたが・・・。アニッケさんはアポ取りの段階で、一番そっけなかった人だったので緊張していたのですが、とても気持ちよく迎えてくれました~!

Annikeさん

Annikeさん

やり取りを抜粋しますね。

-子どもの本離れを感じますか?
「いいえ。図書館の貸出点数はここ数年増えていて、子どもの本離れは感じませんね。」(この発言だけで驚きでした!)

-何か働きかけはしていますか?
「いろいろしています。まずは、学校との連携です。オスロの学校は読書にとても力を入れていて、全ての学校は地区の公立図書館を訪問します。そこで図書館内を案内してもらい、読み聞かせを体験するなど”図書館を身近な存在”と感じてもらうよう努力しています。もちろん学校にも図書館はありますが、それとは別に地区の図書館に足を運んでもらうことは大事ですね。」

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-オスロの図書館ならではの特色はありますか?
「オスロは移民や難民の子どもたちがたくさん住んでいます。なので、子どもたちのリクエストに対応できるよういろいろな言語の本を集めています。この分野ではNORLA(ノルウェー文学普及協会)と連携しています。NORLAが翻訳助成を行った外国語の本を図書館に寄贈してくれるのです。」

台湾版ピッピ!

台湾版ピッピ!

・・・棚を見ていると確かに多様な言語で書かれた本が並んでいますが・・・まさか!ここでこの本と出会えるとは!!

じゃーん!

じゃーん!

日本語版の『パパと怒り鬼~話してごらん、だれかに~』が書棚にあってじーんっとしちゃいました~。

-図書館ではイベントも催していますか?
「毎週土曜日の午後、映画上映会を開いています。通常の映画館では観られない、でもクオリティーの高い映画を選んでいます。あとは年に4回、”子ども劇場”を開催したり、またいろいろな職業の人を呼ぶイベントも人気がありますね。以前、消防士さんをお招きしたのですが子どもたちはとても喜んでいました。」

-「本の買い取り制度」は図書館にとってどんな意味がありますか?
「図書館や学校にとっても、とても大切な制度です。図書館には人気のある本を並べることと同時に、(買い取り制度によって送られたきた)商業的ではない質の高い本を並べることも大事ですね。図書館はとても助かってます!」

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アニッケさんはかなりたくさんお話しをしてくれたり、お気に入りの絵本を並べて下さったりサービス精神旺盛でした。
さらにさらに、いろいろと案内してくれます。
児童書部門の気になるスペースはここです! 日当たりのいいスペースに、本をおしゃれにディスプレイしたくつろぎの空間でしょうか?

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本を読むだけが図書館ではありません。ゲームコーナーや・・・

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工作ができる3Dプリンターのコーナーも。こんなに揃っていて恵まれてますね!
本は読まない子どもでも、図書館への親しみは沸くのでは?と想像します。

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アニッケさんはガイドしながら「図書館は公立であるべき、また利用は無料であるべき」とも強調。何でも図書館の利用が有料の国もあるそうです。知りませんでした!

図書館と学校の連携、さらにNORLAとも連携がうまく作用しているようで、「風通しの良さ」を実感しましたね。
オペラ座があるエリアに移設計画があるようですが、いつまでも「距離の近い」図書館であって欲しいです。アニッケさん、ありがとうございました!!

「白熱広尾教室!」=翻訳ワークショップとは?

「ノルウェー海外文学普及協会」ことNORLAノルウェー大使館が主催で「ノルウェー文学セミナー2016が開催されました!(3月9日、10日)

NORLA代表のMargitさん

NORLA代表のMargitさん

2日間の全プログラムに参加しましたが、とても「濃密な」日程でした。2日間、広尾のノルウェー大使館で行われていたので「広尾の住人になったみたい~」と錯覚を起こすほど(←図々しい)。
ノルウェーのミステリー文学、ノルウェーの児童文学、第三言語からの文学翻訳、そしてレセプションなど多彩なプログラムでした!
中でも非公開で行われた「ノルウェー⇒日本語翻訳ワークショップ」に参加できたことは、とても貴重な体験だったので、その時の様子を綴りたいと思います。
(ワークショップでは写真を撮っている余裕がなかったのでセミナー時の写真をUPします)

リーメスター大使

リーメスタ大使

10日の午前中に行われた「翻訳ワークショップ」は、ノルウェー語だけではなくスカンジナビア語の翻訳者を対象に開催されました。
事前に、ワークショップの指導および司会進行をして下さるAnne Lande Peters(アンネ・ランネ・ペーテーシュ)さんから、課題テキストが送られてきます。
Anneさんは、日本生まれでイプセンの翻訳研究で知られている女性ですが、微笑みを絶やさず優しくてまさに「先生」にぴったり。
課題テキストは、Klaus Hagerup(クラウス・ハーゲルップ)のYA小説のうち数ぺージ、そしてFrode Grytten(フローデ・グリッテン)の短編小説でした。
Frode Grytten?なにか聞き覚えがあるという方、素晴らしい!そうなんです、もうすぐ公開の映画『ハロルドが笑う その日まで』の原案者ですね。ブログをご参照ください

課題テキストをもらった時、「ひ~!!」と悲鳴をあげそうになりました。Frode Gryttenのテキストはマイナーな方の公用語ニーノシュク。その時点で何秒かフリースしました。Klaus Hagerupの方は、読みやすいテキストです。
とは言え「翻訳ワークショップ参加しまーす」と申告し、しかもAnneさんを始め、同席する皆さんの意見を聞きたいから、ちゃんとテキストを読んで翻訳を作らないと「出る意味がない」とアホでもわかります。のろのろと唸りながら、テキストを読み進めていくことにしました。

Frode Gryttenの短編のニーノシュクはすぐに気にならなくなりました。
ただテキスト自体は、難しかったです。というのも、何が現実で何が主人公の妄想や過去のフラッシュバックなのかが、いかようにも解釈できるから。
辞書にも載っていないスラングらしきものも出てきます。期日までに何とか翻訳をAnneさんに提出して、当日が来ました。

Anneさんの講演

Anneさんの講演

大使館の会議室に、参加者は7名。大学の先生や翻訳者の方、さまざまな顔ぶれです。それにAnneさんとNORLAから会長のMargit Walsø(マルギット・ヴァルソー)さん、Dina Roll-Hansen(ディーナ・ロル・ハンセン)さんがいらっしゃいます。また本セミナーの日本側担当者であるノルウェー大使館の伊達朱美さんまでが、課題テキストを読んで参加すると聞いて驚きました~!

Dinaさんの講演

Dinaさんの講演

Anneさんはいつも笑顔で、誰もが発言しやすい雰囲気を作る名人です。各人、簡単な自己紹介を行い、早速、Frode Gryttenのテキストから読んでいくことになります。
難しいイディオムや単語、スラングの意味を記したプリントを配布してくれました。「ほ~、これはこういう意味だったのか」と眺めつつ、何行かずつAnneさんが朗読します。短編小説自体は6ページ、私たちの課題は2ページだけだったのですが、「この単語は?」「この文章は?」と細かく読んでいくと、様々な意見が出て「そういう解釈があるのか、ふむふむ」と他の人たちの意見を聞くことができ、大げさですが「至福の時」でした!

前述したように、いかようにも解釈できるので、他の人の意見に「そういう読み方があるのか~」と驚いたり、「ちょっと違うのでは?」と思ったり・・・。
日本で、こんな風にノルウェー語のテキストを読める機会なんてそうそうないですから、刺激的でしたね。
短編小説の舞台、Oddaは産業で栄えたけど今は衰退している町であること。そこで第二次世界大戦の傷を負いながら、ホームレス&アルコール依存症状態で彷徨う老主人公。悲惨さの中にある人間のおかしみ・・・。それらをどんな風に訳文に反映させればいいのか、悩ましいけれども、面白いと感じます。

Anneさんや皆さんの意見を聞いて気づいたのは、難しかったのはスラングよりも、何気なく読んでしまう文章の方でした。
男性のパンツ(下着の方)を意味するスラングは、Googleの画像検索を使って「これかな?」と推測できました。
ですが、一見なんてことはないセリフの1つの意味が最後まで分からなくて、納得できないまま提出してしまったのです。
Anneさんが「この言い回しは、例えば医者が患者へ、上の人が下の人へ使うやや見下した表現」と教えてくれました。「知らなかったけど、これで意味がスッキリ!」と目からウロコ体験ができます。
・・・こんな風にAnneさんの解説やみなさんの意見が飛び交い、いつの間にか会議室は「白熱広尾教室!」の様相に。
結局、たった2ページを読むのに、2時間半使ってしまったのです!!(Klaus Hagerupのテキストは読めませんでした・・・)

テキストを翻訳していた時、他にも迷った箇所があり、訳注に「?」を付けた箇所がありました。
Anneさんはわざわざ作者に電話をかけて「どう解釈すべきか」聞いて下さったとのこと。それを伺って「翻訳ワークショップ」の先生役を引き受けて下さったAnneさんの誠実さを痛感しましたね。もちろん、仕事として翻訳の場合だったら作家本人への確認は必要かと思いますが、ワークショップのためにそこまでして下さったんだ、とひたすら感謝の気持ちでした。

イプセン!

イプセン!

ワークショップの後、Anneさんや伊達さんが「参加者の皆さん、本当に熱心でしたね」とおっしゃってました。
こんな貴重な機会はめったにないですから、翻訳ワークショップに臨むにあたり皆さんは「気合」が入っていたのだろうなぁ~と想像しました。

2日間の「ノルウェー文学セミナー」は、NORLAとノルウェー大使館、そしてAnneさんを始め一セミナーに登壇された方々、その他いろいろな方の尽力で、刺激的かつ得ることが多い機会でした!
最後になりますが、関係者の皆さん、翻訳セミナーで意見を交わした皆さんに感謝を申し上げます。Tusen hjertelig takk!!

ひとりぼっちの出版社~ノルウェーの絵本を訪ねる旅 3~

ノルウェーの人口は520万人。当然ですが、出版社の数は少ないです。買収が進み、大手傘下になってしまった出版社が幾つかあります。
「大手が強い」ノルウェーの出版界で異色の「ひとりで切り盛りしている出版社」との出逢いは、2014年の「翻訳セミナー」(NORLA主催)のことでした。

セミナー会場はホテルでした

セミナー会場はホテルでした

その時の様子は「1」に書きましたので、ご参照ください。私が一目惚れした「レトロスキー本」の版元が、このMagikon(マギコン)という会社です。

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Magikonは、社長のSvein Størksen(スヴァイン・ストルクセン)さんが1人で切り盛りしている会社です。
ノルウェーの絵本は、通常、出版社の1つのカテゴリーとして出している場合がほとんどですが、Magikonは絵本を中心にビジュアルにこだわった本を発表しています。
実は、「翻訳セミナー」で出会うまでMagikonのことを知りませんでした。
9月の旅では、ぜひMagikonとスヴァインさんについてもっと知りたくて、会社訪問することにしました。

会社はオスロ中心地から電車で15分くらいのところ。山の上の住宅地にあります。
・・・というか、こちらはSveinさんの自宅兼オフィスなのです!

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イラストレーター・絵本作家のKristin Roskifte(クリスティン・ローシフテ)さんがパートナーで、まだ小さなお子さんが3人。
早速、地下のオフィスにお邪魔しまーす。

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スヴァインさんとのやり取りを抜粋しますね。

-Magikon設立のバックグラウンドについて教えてください。

「僕もクリスティンもずっとフリーランスのイラストレーターでした。15年、フリーランスのイラストレーターをやってきて、大手出版社が出す絵本に満足できなかったのです。絵本はまずテキストがあって、イラストは後まわし。イラストなどビジュアルが重視されていない気がしていました。そこで2007年にMagikonを立ち上げることにしたのです。」

-1人で出版社を運営するって大変だと思うのですが・・・。

「経理以外のことはほぼ全てを担当しています(注:本の発送手続きも社長自ら)。現在まで60冊を出版しました。海外に翻訳された本も、お蔭さまでたくさんあります。最初に出版したクリスティンの本がヒットしたのはラッキーでしたね。」

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-本を出版する上で大事にしていること、やりがいは何でしょうか?

「モットーにしていることは、自分がいいと思う本しか出版しないこと。イラスト、テキストともにクオリティーが高いことは不可欠です。仕事をしていて楽しいのは、イラストレーターと作家の組み合わせを考えること。自分が編集から全て行っているので、イラストレーター、作家と密接にコンタクトできるのは、いいことだと思ってます。そこは大手と違うでしょうね。自分はずっと絵を描き続けたいし、大好きな本を出版できる喜びは言葉にできないです。」

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-「翻訳セミナー」でもエージェントカフェに参加していましたが、海外進出も積極的なのですね。すでに絵本は、欧米圏だけではなく中国や韓国でも出版されてますが。

「はい。たくさんのブックフェアに行って、人との出逢いを大事にしています。欧州以外にも、アメリカ、カナダ、中国や韓国のブックフェアーに行きました。お金を稼ぐためには、お金を使うことが大事ですよ。」(注:スヴァインさんは3月にノルウェー大使館の文学セミナーで登壇予定です。詳細はこちらから。)

・・・とお話や写真撮影をしていると、お子さんたちがクリスティンさんと一緒に帰宅して、一気ににぎやかになりました。
クリスティンさんもイラストレーターですので、離れのアトリエをプチ訪問させていただきます。スヴァインさんは「夕食の支度しなくちゃ~」とキッチンへ。

スヴァインさんのオフィスは地下ですが、クリスティンさんのアトリエは庭にある小さな小屋。中に入ると、おお~と広い仕事スペースが羨ましい!
「子どもが学校や保育園にいった後、私はこの離れのアトリエで、雑念を忘れて仕事に集中できます。」

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アトリエの中には、たくさんのスケッチブック。解説を聞きながら、見せて頂きます。

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その時に取りかかっているプロジェクトのために、スケッチブックは持ち歩たり、たくさんの試作を重ねるそうです。

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他にもいろいろなオブジェが飾られていて、じっくり見ていたら飽きません。

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日本のものをいくつか発見したのですが、「もうずっと前に、日本へ行ったことがあるのよ。日本のシンプルで可愛いなイラストが大好きです。」と教えていただき、ほ~っと驚きます。

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アトリエを後にして、再び本宅へ。3人の子どもたちは、仲良く子ども番組を観ています。

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スヴァインさんは何を作ってくれるのだろう?いい香りが漂っています。ダイニングにサーモン料理が並びましたが、おお、さすがアーティスト!野菜の切り方がおしゃれです!

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子どもたちが「わ~~~!!」と騒いでダイニングに入ってきましたが、ご夫妻が「これからは大人の時間よ!」とドアをばたーんと閉めちゃいました。

絵本やイラストレーターたち、出版社や書店事情などいろいろ興味深いお話しをうかがいました。
本の買い取り制度がなかったら、出版社を作るのは無理だっただろう」とスヴァインさんの言葉が残りました。
この「本の買い取り制度」は、最初のブログで触れたグロー・ダーレさんの講演でも、強調されていたものです。
小国ノルウェーが自国の文化を守るための同制度とは?? そのお話はまたの機会に・・・!

つづく(といいなぁ)